叩き胡瓜
「ん、何作ってるんだ?」
僕はヒョイとキッチンを覗き込む。いつも通りマイはキッチンで料理している。
「ん、叩き胡瓜よ」
「叩き胡瓜?」
叩き胡瓜ってなんだろう。きゅうりを叩く。きゅうりを叩く。痛そうだ。けど、妄想はこれくらいにしとこう。マイの前では下品禁止だ。
『胡瓜は叩くものじゃなくて、お口に入れるものよ』
風に乗って聞こえる囁き声。見た目幼女のアラサー導師ジブルだ。今はお洒落なスケルトンスタイルだ。その格好で後ろに立つのは止めてほしい。スケルトンジブルはめっちゃ弱っちいから存在感が希薄だ。
「ジブル、それ以上は言うな?」
『え、何かおかしな事言ったかしら? 胡瓜って食べ物でしょ? お口に含むのが間違ってるのかしら?』
「むぅ……」
くそ、何も言えない。言い負かされてしまった。なんか悔しい。
「もう、下らない事言ってないで手伝って」
「その前に胡瓜たくさんあるなどうしたんだ?」
「隣で貰ったのよ。旅に出てたラパンちゃんがめっちゃたくさんお土産に持ってきたらしくておすそ分けよ」
うちにこれだけおすそ分けが来るくらいだから、相当沢山だったんだろう。まず、隣はレストランだ。料理して売るだけでかなり消費出来るはず。そんな沢山の胡瓜を持って帰って来たラパンは大丈夫だろうか? どっかで騙されて買って来たんじゃないか? それともめっちゃ胡瓜を愛してるのか? まあ、それは置いといて。
「何したらいい?」
「胡瓜を叩いてほしいわ。押しつぶさないように、軽くポンッと叩くと、水が出ないからシャキシャキになるわ」
「分かった」
僕はまな板の上3等分された胡瓜を叩く。
べしゅっ!
胡瓜は無惨に飛び散った。
『そうよね。ザップだもんね……』
ポンッ!
ジブルがまな板の残った胡瓜を叩く。
「ジブル、いい感じね、あともお願い」
僕はスケルトンが胡瓜を切って潰していくのを指をくわえて見てるしか無かった。うう、ジブル以下は悲しい。今度人知れず胡瓜を叩く訓練してやる。
「そして、あとは、ボールに入れて、胡麻油をかけてまぜます」
『はい、混ぜましたー』
「そして、塩コショウをかけます。油で胡瓜の表面をコーティングしてから塩コショウすると、胡瓜に直接塩が触れないから水が出にくくなるのよ」
へぇ、そうなのか。それは楽しみだ。
そして、僕たちのご飯の一品に叩き胡瓜があった。ゆっくり食べたけど、ずっとシャキシャキだった。これは絶対お酒に合う。マイに頼み込んで隣のお店からエールをデリバリーして貰うと、果たしてその相性はサイコーだった。
レッツ、叩き胡瓜!
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