プレゼントは喜べ
「なんかい、その態度。ひとから奢ってもろたらしっか喜ばんかい!」
ガブさんは僕の背中をバンバン叩く。この人、酔っ払ってるのか?
ガブさんは僕の荷物持ちの先輩だ。元々は商人だったらしいけど、盗賊に襲われて一切合財もってかれて今は荷物持ちで生計をたてている。王都に来てまだ日が浅い僕に色々な事を教えてくれる。今日、僕の初仕事の成功を祝ってご飯を食べに行って、奢ってくれたから『ありがとう』って言ったらいきなりまくし立て始めた。なんなんだ?
「お前、人様から物もろたり、奢ってもろたりしたことあんまないやろ」
「そうだけど、なにか?」
確かにそうだけど、そんな言い方ないだろ。
「例えばやな、お店の女給さんが水持ってきた。笑顔でありがとうゆーた。ほならその女給さんは次にお前んとこ持ってくる食い物ちぃーと色付けてくれるっちゅう訳や」
「そんなわけ無いだろ」
「おら、目ーつぶって考えろ。お前は今女給や」
「まてよ、僕は男だ。女給にはなれない」
「屁理屈こくなや。例え話や。女給の気持ちになるんや。お前は女給や、水を客に運ぶ。その客は辛気くさい顔してて何も言わん。どう思う?」
「え、なんかやな事でもあったんじゃないかなって思うんじゃ」
「アホかお前。見ず知らずの奴にそんな事思う訳ないやろ。『うわ、こいつ気持ち悪。近づかないようにしよ』。そう思われるだけやろ。そう感じたらお前女給はその客が来ても最小限の事しかせんやろ」
「まあ、そうだな。そんな暗い奴にはちかづきたくないな」
「それがお前や。いっつも辛気くさい顔しおって。何してやっても、のれんに腕押しや。だーれもお前になんかしてやろうと思う人間はおらんぞ。ワシ以外」
「別にいいよ。そんなの」
「駄目や! 駄目や! お前はワシと違って才能がある。お前が少し変わるだけで色んな事が上手くいく。もったいなくてしょうがないんや」
何を言ってるんだろう。僕には才能なんか無いのに。
「だから、お前はこれから人になんかして貰ったら喜べ。また例えやけど、お前が誰かにプレゼントやった。めっちゃ喜んでもらった。そしたらまたプレゼントしようって気持ちになるやろ。逆にプレゼントしても、あんま喜ばれなかったら、もうせんとこってなるやろ」
まあ、それもそうだな。ちょっとやってみるか。僕は、出来る限りの笑顔で言葉を出す。
「ガブさん、今日は飯ありがとう」
「気持ち悪い顔やけど、仏頂面よりなんぼかマシや。ほな、またなんかあったら飯でも食いに行こな」
そう言うと、ガブさんは手をヒラヒラさせて帰って行った。
「ありがとう」
僕は食堂で飯を持ってきたおばちゃんに笑顔を返す。おばちゃんもニコリとしてくれる。それを毎日繰り返すと、なんか本当に量が増えてる。魔法なのか? こんな簡単に魔法って使えるもんなんだな。
僕は王都の集合墓地に向かって手を合わせる。ここを通る度にそれは習慣になっている。ガブさんに会ったのはあれが最後だった。しばらくして知ったんだが、今はここに眠っているらしい。お酒の飲み過ぎと聞いている。教えてもらったのは当たり前の事。だけどあの時の僕は思いもよらなかった事。あれから少しだけ僕の世界は優しくなって、僕の心からガブさんの名前が消える事は無かった。
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