番外編SS 荷物持ち英霊と見える【前編】
「お金が無い!」
炬燵の中で僕は叫んだ。最近あまりお金になる仕事もなく、炬燵でごろごろ、唐揚げパクパクであまりよろしくない。少し太った、いや現実を見よう、かなり太った気がする。
「大丈夫よ、ザップはあたしが養ってあげるから」
マイが僕に微笑む。個人的な好みかもしれないが、マイはかなり可愛い気がする。
「ザップ兄さん。それって『ひも』ってやつですよね」
新たな炬燵の住民、巨乳魔法使いルルが毒を吐く。デフォルトで胸を炬燵のテーブルにのっけてる。ついつい目が引き寄せられる。新手の挑発なのか?
「ザップー、そんなに大きな胸が好きなの?」
マイが真面目な顔で僕を見る。
「いや、決してそんなことはない。そいつがこれ見よがしにテーブルにのせてるからつい目がいってしまうのだ」
個人的にはマイくらいの大きさの方が好みだ。けど、それは恥ずかしくて言えない。
「ザップ兄さん失礼ですね。私も好きで乗っけてる訳じゃないんです。こうすると肩こりが軽減されるんですよ。それともザップ兄さんが下からおさえててくれます? それならのっけるの止めますけど」
マイとアンが僕を睨む。確かにそこはかとなく魅力的な提案だけど、命の危険を感じる。
「解った。悪かった好きなだけのっけとけ。もうこの話は止めよう。それより、『石巨人の迷宮』は休眠状態に入ったし、どっか稼げる迷宮はないか?」
「ここら辺なら、あたしたちの『原始の迷宮』しかないわ」
いつから迷宮が僕たちのものになったのかは知らんが、マイの一言で、懐かしの迷宮に行く事になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ぐうっ! 負けた……」
僕は大地に膝をつく。勝ったのはマイだ。マイは僕からミノタウロスのハンマーを受け取ると嬉しそうに走って行った。
地下30層からは部屋の前でジャンケンして勝った者が僕のハンマーで魔物を狩るというルールにした。メンバーは僕、マイ、アン、少女冒険者4人だ。
恐ろしい事に、誰ひとりとして僕のとっても重い巨大なハンマーを振るえない者はいない。なぜ得物が僕のハンマーかというと、経験値取得補正が1番高いからだ。
マイが意気揚々と引き上げてくる。
「やっぱり、まだまだね、キングは1撃で倒せないわ」
マイは金色のスキルポーションをエルフのデルに渡す。
「デル。剛力のスキルポーションよ。飲みなさい」
デルは技術はかなり高いのだが、腕力不足はやや否めない。
「え、マイ姉様、無理です。そんな高額なもの。私、結構強くなりましたし……」
「デル、うぬぼれないで。あなたが1番力が弱いわ。ミノタウロス1匹も素手で1撃で倒せないでしょ。それにここではお金は意味ないわ。強くなることだけ考えなさい!」
マイが言い放つ。なんか見た事あるような光景だな。
「マイ姉様。おいしい、おいしいですぅ」
デルが涙を流しながらポーションを飲む。これも見た事あるような光景だ。
地下49層、最後のミノタウロスカーニバルはマイの手によって終わったので、あとする事はエリクサーを補充して帰るだけだ。