闇の生き物
「ゴブリンってなんなんだ?」
僕はつい呟く。なんでそんな言葉が口をついたかと言うと、目の前に累々と横たわる彼らの死骸に憐れみを感じたからかもしれない。なぜ、彼らは人を襲うのだろうか? そこそこに知能があるのなら共存出来ないだろうか?
僕たちはギルドからゴブリンの軍の討伐の依頼を受けてそれを終わらせた所だ。メンバーは僕とマイとアンとジブルとノノ。アンとノノは打ち漏らしの確認のため離れている。
「ゴブリンはゴブリンよ」
答えを求めていなかった僕の問いに答えたのは導師ジブル。大陸の魔道士ギルドの本部がある魔道都市ギルドの導師にして評議会の一員。魔道都市アウフには最新の情報が集まり、大陸の叡智が集積してると言う。彼女なら答えを出してくれるのではないだろうか?
「けど、倒しても倒してもわいてくるし、ゴブリンは人間を襲う事を止めない。終わる事は無いの?」
「少し、長くなるけど、せっかくだからゴブリンの話をしようかしら」
収納にゴブリンの死骸をしまって、血の臭いが薄い所まで移動して腰を下ろす。
そして、ジブルが口を開く。
「まずは、話した事があったかもしれないけど、本当かは証明は出来ないけど、神々と言われる者の戦いがあったって言われてるわ。いろんな伝承があって細かい事は違うけど、共通してるのは光と闇で分かれて戦った。そしてその時闇の軍勢の一番下っ端がゴブリンだったと言われてるわ。闇の神々が力を失った今でも、ゴブリンの魂はその支配下にあって人間と共存することは出来ないって言われている。けど、私の考えは違うわ」
「えっ、『光魔対戦』からの因縁でゴブリンは人を襲うんじゃないの?」
マイが合いの手を入れる。マイと話してると、こういう所がいいんだよね。
「私は、ただ単に、ゴブリンって種族自体が、欲求に対しての耐性が低いだけだと思う。お腹が空いたら他人を襲ってでも飢えを満たし、眠いならどこでも寝て、性欲を感じた瞬間に襲いかかる。人間でもそう言う人って間違いなく犯罪者になるでしょ。だからゴブリンが邪悪なんじゃなく自制心がない生き物が邪悪なんだと思うわ」
「けど、アンちゃんは欲望に忠実だけど、邪悪じゃないわ」
いや、僕的にはアンは結構邪悪だと思うぞ。
「そうね。言葉が足りなかったわ。自分の欲望のために回りの迷惑や犠牲を顧みないのが邪悪って言いたいのよ」
「ブーメラン、ブーメラン」
僕は頭の上でブーメランを回す仕草の踊りをする。
「な、なによ、ザップ。ブーメランって私は邪悪じゃないわよ。私がいつ自分の欲望のためにザップに迷惑かけた?」
どの口が言う?
「お風呂を覗くの止めて欲しいです。僕が最後まで取ってる好物をかすめ取るの止めて欲しいです」
「待って、それはたわいもない冗談よ。ザップだってそんなに困ってないでしょ?」
ん、覗きは犯罪じゃないのか?
「なあ、マイ、ゴブリンとジブルどっちが邪悪だと思う?」
「ザップ、ゴブリンと比べるのは可哀想よ。ゴブリンが暴れても大した被害者ないけど、ジブルが暴れたら……」
「わかったわ。これからはもっと自制しようと思います。で、ゴブリンの話よね。今いるゴブリンがどこから来てるかって言うと……」
それから延々とゴブリンの種類、生態などについて細かく延々とジブルは語り続けた。アンとノノが帰って来てもそれは続いた。
もしかしてコイツめっちゃゴブリン好きなんじゃ? 邪悪だし背丈おんなじくらいだし。
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