レッサーデーモン
「ほう、お前らが、我に捧げられし、新たな贄か。存分に恐怖を叩き込んだ後に、その身も心も髪の毛に至るまで我が血肉に変えてやろう」
この世のものならざる存在が空気を震わせる。2メートルを超える黒っぽい巨躯にはち切れんばかりの筋肉。牛か山羊のような頭に捻れた角。
ここは迷宮の多分最下層。ゴテゴテした扉をくぐると、床に大きな金色に光る線で描かれた魔法陣が発生して、その中央に闇が収束して巨大な存在が現れた。
僕たち、僕、マイ、ジブルは先日踏破されたと言われていた迷宮の最下層と言われていた所に下に向かう隠し階段を見つけ、それから下り続けた。出て来た魔物は、インプと言われる黒いゴブリンにコウモリの翼をつけたようなものや、ジャイアントバットなど、闇系の魔物に統一されていた。
「ね、言ったじゃない。多分デーモンだって」
見た目幼女の導師ジブルが胸を反らしてドヤる。けしからん事にブリンと揺れる。意外にデカいんだよな。
「ヴァンパイアだったらもっとゴテゴテしく飾ると思うし、ザップ、ドラゴンってそうそうコスト高いから配置出来ないんだって」
僕とマイはしぶしぶジブルに金貨1枚づつ払う。あーあ、僕の勘だと脳筋系のドラゴンがボスだと思ったんだけどなぁ。
「ねー、ジブル。なんか派手な魔法陣だった割には、アレってレッサーだよね。なんか栗剥いてたら虫喰い多くて食べられる所が少なかったような感じ」
うん、マイらしく料理な例えだな。
ほう、あれがレッサーデーモンか。
僕は天使はいっぱい倒したけど、悪魔系はあんまり覚えてない。マイやジブルとか女の子たちは新しい迷宮が見つかったらすぐに飛びつくから、結構色んな種類の魔物を倒している。それに比べて僕は気に入った所に何度も通う事が多い。なんかそう言えば、食いもん屋に関してもそうだな。
「そうよね。物理系みたいだから、なんかドロップしたとしてもチンケな武器っぽいし。せっかく来たのに稼げ無さそうね」
ジブルが言うとおり、討伐報酬には期待出来ないな。初回特典とかあればいいのにな。
「汝ら、我を闇の眷族と知っての態度か? 我は強力な物理耐性と魔道耐性、それに強力な再生能力を有しておるぞ」
デカい奴は曲げた両手を前に出して、全身の筋肉を誇示している。いい筋肉だけど、レリーフを見慣れてるから何とも思わない。ていうかキモい。
「うわ、うっざ。なんかアピールし始めてるわ。レッサーなのに」
ジブルがレッサーを指差す。
「ジブル、魔物だからって指差すもんじゃないよ。会話通じるから知恵はあるだろうから、もしかしたら戦う事なく平和に解決するかもしれんぞ」
何事も力で解決するのでなく、もっと人は平和に生きていけるはずだ。
僕はレッサーの方に歩を進める。
「なんだ、汝だけで我と戦うつもりか?」
「いや、そういうのいいから。なんかお前が得意な事で勝負しよう。別に殺し合いする必要は無いだろ」
「そうだな。面白い。それなら相撲でどうだ?」
なんか僕って色んな生き物に相撲を挑まれるな。女の子ならまだしも、毛が生えて臭そうなマッチョと相撲はな……
「腕相撲でどうだ?」
「汝は愚者か? 我に腕力で勝てると思ってるのか?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「へぶしっ!」
レッサーの腕が机に叩きつけられる。
弱いな、弱すぎる。その筋肉は飾りか? いや飾りだな。
「我が、我が、歯牙にもかけられないとは……」
なんか、言い回しがウザいな。あ、あれっ、レッサーが足下から消えていく。え、コイツどうなってるんだ?
「完全に負けを認めたのね。魔族って精神で生きてるから、心が折れたら消滅したりするのよ」
なんだそりゃ。先に言えよジブル。なんて繊細な生き物なんだ。せっかく生け捕りしようと思ってたのに。
「それにしても、ザップー。デーモンを腕相撲で倒した人って初めて聞くわ」
マイは猫耳をいじっている。つまんなかったのか?
「あ、マイが倒したかった? 腕相撲で?」
「何言ってるのよ。あたしが腕相撲でデーモン倒したって噂が広まったら恥ずかしくて顔から火がでちゃうわよ」
「じゃ、と言う事よ」
ん、ジブルがスマホで誰かと話している。
「何してんだ?」
「な、何も」
くすぐりの刑で吐かせたところ、ジブルは僕の話を広めている魔法使いルルに、面白いネタを買って貰ってるらしい。
程なくして、王国に僕が腕相撲でデーモンを倒したという話が広まった。そして、僕を倒して名を上げようとする者で腕相撲を挑んでくる者が発生した。少し平和になったのか?
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