ラパンとザップ(出国)
ガタンッ!
「キャッ」
大きく馬車が揺れてついあたしは声を漏らす。
「なんか声がしたぞ、荷物を確かめるぞ」
馭者さんの声がする。そして馬車が止まる。やばい。このままじゃばれちゃう。あたしは全力で魔法を発動する。幻覚の魔法。イメージするものは水。私は水。澄んだ水。よし、上手く行った。これであたしが入ってる樽が開けられても問題ないわ。
ここ魔道都市アウフでは限られた者以外は魔法を使えない。街全体が魔法消去の魔道具で、それを中和する魔道具をもった者しか魔法を発動出来ない。当然あたしは持ってるし、それを持ってるのは街の衛兵さんたちや、魔道士ギルドの偉い人や、貴族くらいのものだ。
声からして2人の男の人が荷物を確かめていて、それに更に1人加わる。
「んー、なんも無いよな」
あたしの樽が開けられた時はびっくりしたけど、その蓋はすぐに閉められる。
「どうしたんだ?」
この声はザップ。けど、聞いた話ではザップは魔法は使えないはず。
「いやですね、なんか積荷の中から声がしたんですよ。多分、隠れて乗り込んだ奴がいます」
いない、いない、いないわよ。あたしは心で否定する。
「珍しいですね、アウフの出入りは見た目緩いから密入出国する人間は少ないんですがね」
やば、この声は魔道士ギルドの導師ジブル。彼女は街でも当然魔法を使える。
「生物探知」
ジブルの魔法が発動し、あたしの体を風が吹き抜けたような感じがした。今のは、探知系の魔法。あ、ばれたかも……
「居たわ。樽の中よ!」
ジブル、酷いわ。あと少しで街を出られたのに……
「俺が開ける。みんな下がっとけ」
やった!
ザップが開けるならわんちゃんあるわ。ザップは多分、魔法に弱いはず。
「おい、水じゃないか!」
ザップが苛立ったような声を出す。そうよ、あたしは水。ザップには水にしか見えないはず。
やった。乗り切ったわ。
「変ね、確かに生き物の反応がしたんだけど」
「お前、大丈夫か? もしかしてポンコツなのか」
ジブルはポンコツじゃないわ。悪いけど、あたしの魔力が強すぎるだけよ。
「すみません。精進します」
「あんたら、揃いもそろって大馬鹿なの?」
え、なんかキンキンした声がする。誰なの?
「なんだいきなり」
「魔法消去!」
え、なんで、知ってるの。この街では魔法は使えない。けど、たった1つ例外は街にかかっている魔法と同じもの。魔法消去だけは使える。けど、魔法を使えない中で魔法消去を使う者はいないから知れ渡って無いはずなのに!
「え、お前なにしてる」
うわ、ザップこっち見てるー。見つかっちゃった……
「あーあ、ばれちゃった」
「ラファ様! なにをしてるのですか?」
ジブルがあたしを樽から出す。
「あたしも、迷宮都市にいきたいー!」
「駄目です! 危険ですから」
「あ、そう、じゃ、街に戻って、あたし元気になりましたーって街中で踊りまくるわよ。そしたらなんかつじつま合わなくなるんじゃないの?」
あたしはザップを上目遣いで見る。ザップ、ザップなら連れてってくれるはず!
「要は、姫様が荷馬車に隠れてて、俺たちに魔法で幻覚を見せて水のふりして、ミネアがその幻覚を消した。こういう事か?」
「そうよ! あんな単純な魔法にひっかかるなんて、あんたたちばかなんじゃないの? あたしがいないと何もできないんじゃない?」
ザップの影から小さい生き物が飛び出す。え、妖精? 可愛い。可愛いすぎる!
「けど、導師って魔法のプロじゃないのかよ?」
「はい、そうですけど、ラファ様の魔力は強力で、多分街で1番強いのではと言われております」
ジブルはへこんでるけどしょうが無いわ。ジブルは悪くない。
「それなら問題ないんじゃないか? 諦めて連れて行こう。今から戻るのもなんだし、それに姫様が治癒してる事が公になったら、ややこしい事になるんじゃないか?」
やたっ! 街から出られる!
「きゃ、ザップ大好き!」
あたしはザップに抱きつく。
「ザップ!」
マイさんの声がする。
顔を上げると妖精さんと目が会った。これがあたしの大親友との出会いだった。
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