ラパンとザップ(変わる世界)
私の名前はラファ。昔はこの国、魔道都市アウフのお姫様だった。けど、今の私は石の下とかにいる気持ち悪い虫のようなもの。ずっと、ずっと屋敷にこもりっきり。もう、何年ここから出てないか判らない。
私は鏡台に座り、顔の包帯をとる。残った左目で顔を見る。そこにはいつもと変わらない汚い傷跡が……
今でも思い出す。巨大な犬の振り上げられた前足。その次には焼け付くような痛み。3つ首がある犬が私の足を咥えている。覚えているのはそれだけ。
なんとか九死に一生を得たけど、私の右目と右足は失われた。それから屋敷の外に出るのは禁止された。外に出たいけど、それがかなわないのは解っている。杖をついてなんとか歩けるだけの私は外に出ても何も出来ない……
今日は珍しく、地下に誰かがいるらしい。街でテロリストとして捕まった人らしい。屋敷の地下は昔牢屋になっていてそのままだ。気持ち悪いからいつもは近づかないのだけど、私は今まで会った事が無い人に会ってみたい。悪い人かもしれないけど、それより私は外の世界の事が知りたい。私は意を決して地下へ向かう。そこには普通の顔立ちのおじさんがいた。本当に悪い人なのかなぁ?
「あなたが、街に潜り込んだテロリストなの?」
私は素直に疑問をぶつける。
「テロリスト? 違うな。俺はただの観光客だ」
「ふうん、じゃ外の世界から来たのね。あたし、あなたの話が聞きたいわ」
私は格子の前に椅子を持ってきて座る。
「誰なんだお前?」
「ラファよ。あたし退屈なの……外には出られないの見ての通りだから……」
私は包帯を取る。傷跡を見ると、だいたいの人は気持ち悪そうな顔をする。
「お前……どうしたんだ?」
おじさんは、全く動じない。テロリストだから怪我とか見慣れてるのかもしれない。
「昔ね、魔獣に襲われたの……ケルベロスって言うらしいのよ。それよりもあなた私が怖くないの? 気持ち悪くないの?」
「馬鹿か。怖いわけあるか。そう言えば自己紹介がまだだったな、俺の名はザップだ。ザップ・グッドフェロー、荷物持ちだ」
彼はそう言うと、見たことも聞いた事もないような奇想天外な話を始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「悪いなポルト、決めたんだ世界を見て回る事を!」
やばい、この人凄すぎる。いたんだ、私より不幸な境遇を乗り越えた人が! けど、多分それは作り話。私でも判る。私を喜ばせようとして彼が頑張ってる事を……
「きゃー、格好いいザップ!」
私は夢中に拍手する。ザップ、なんか照れてる。
「こういう時って、普通だったらおひねりとか渡すって聞いた事あるけど。あたし何ももってないの。アメちゃんくらいしか持ってないわ……」
「俺、今さあ、とっても甘い物食べたい気分だなー!」
彼は無邪気に笑う。
「うふふ。じゃあアメちゃん欲しい?」
「ああとっても欲しい」
「どうぞ!」
私は紙にくるまれたアメちゃんをあげる。
「あーあ、あたしもザップみたいに外の世界を見て回りたい。小っちゃい頃から魔法の勉強してきたから、普通に歩けるなら冒険者にもなれたのにな……」
「ん、ラファこっちに来い。今から起こる事は決して誰にも言うなよ」
「え、何、何なの? ザップ」
私は言われた通りにする。この人頭はあんまり良くなさそうだけど、絶対悪い人じゃないと思う。彼が手をかざすと、突然私の上から水が降り注ぐ。何、何なの? 魔法? しかもその水は私に吸い込まれていく。
「え、何これ?」
私の体にたちどころに変化が現れた。
「足が、顔が痒い」
え、無くなった足がモコモコ生えてくる。顔が痒い。かくとポロポロと固くなった皮膚が落ちる。え、右目が、右目が見える!
「あ、足、あたしの足。目も見えるわ、や、火傷も無い……」
私は足や顔を撫でる。もしかして、彼の話は全部本当? 今のは、彼が迷宮の底で手に入れたという奇跡の秘薬エリクサーなの?
「アメのお礼だ。なんか不具合はないか?」
「え、嘘、夢みたい。ありがとう、ありがとうザップ……」
私の目からは止めどなく涙が溢れる。夢、夢じゃない。私のそばにいる彼は英雄、間違いなく伝説の英雄だった。
そして、この時の私は、彼が私にとってかけがえのない人になる事を夢にも思ってなかった。
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