スカウトの仕事
「兄さん、相変わらず、何をやらかしたんだ?」
僕の前の席に眼帯に出っ歯の痩せて背が高いオッサンがドンと座る。確か、コイツの名前はラット。前に迷宮で会った熟練のスカウトだ。
僕は今仕事帰りに、王都の寂れた酒場に一杯やりに来たところだ。
ラットは懐からスプーンを出すと、やおら僕に運ばれて来たエールのジョッキに突っ込む。そして引き上げた時には銀色だったそれが、その浸ってた所が煤けた黒色に変わっている。
「これは銀のスプーンだ。色が変わったって事は、兄さん、毒だ。ヒ素って言うヤツだ。このヒ素ってヤツは不純物が無いヤツは銀の色を変えないらしいんだが、そんな高価なものを手に入れられるのは、大商人か王族くらいなものだから滅多に出回る事は無い」
「そうか、ヒ素って言う毒か……」
僕はどんな味か期待してジョッキをあおる。
「おい、何してやがる。毒って言ってるじゃねーか!」
「騒ぐな。これしきの毒どうって事ない。つまんねーな。毒の味全くしねーじゃねーか」
「そりゃ、そうだよ。兄さん。ヒ素って言うのは無味無臭がウリだからな。で、大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。俺はほぼ全ての毒に耐性をもっている。俺を毒殺して名を上げようって奴は多いからな」
「まじかよ……相変わらずスカウト泣かせだな……」
「で、あんたはなんで毒が入ってるの判ったのか?」
「ああ、さっき給仕にぶつかった奴がいただろ。アイツが変な動きをしやがった。ここらじゃ見ない奴だったからな。多分ソロだな。もう店には居ないけど、多分また仕掛けてくる。なぁ、兄さん、俺を雇わないか? 露払いしてやるぜ」
別にラットが居なくても何とかなるとは思うが、ヤツがどういう事をしてくれるのかが気になった。またスカウトのいぶし銀的な匠の技が拝めるかも。
「いいだろう。で、幾らだ?」
「勉強して、金貨2枚」
と言う事は金貨1枚銀貨5枚くらいが相場って事か。別に2枚払ってもいいんだけど、ここは雰囲気を楽しまねば。
「たけーな。1枚。1枚だ」
「さすが兄さんきっついなー。じゃ1枚と銀貨8」
「金1、銀3だ」
「1と7」
「いいや、1と4だ」
「兄さん自分の命だろ。兄さんの命ってそんな安くないだろ」
「そうだな。1と5」
「しょうがねー。てー打つか」
ぼくはテーブルに金を出す。
「へっへー、毎度あり」
ラットは目で数えるとそれを1枚1枚しまっていく。
「お前、巾着とか持って無いのか?」
「兄さん、馬鹿言っちゃいけねーよ。どこのスカウトが巾着持つんだ。銭がじゃらじゃら鳴って仕事にならねーよ。銭に油ぬったらなんぼかマシになったりするかも知れねーが。銭は神様だ。そんなバチあたりな事できねーよ」
ラットは立ち上がり、僕に背を向ける。
「待てっ。一杯奢るぞ」
ラットは振り返る。
「ありがてーが、気持ちだけ貰っときやす。仕事の前にやっちまって手元が狂うといけませんので」
ラットは下卑た笑みを投げると、背を向けて店から出て行った。
やべぇ、渋い渋すぎる!
そして1時間ほどあと、ラットは戻ってきてケリがついた事をつげた。早すぎるだろ。実際仕事を見たかったけど、今日はここでのやりとりだけで十分満足した。
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