番外編SS 荷物持ちの炬燵での閑話
「強い奴と戦いたい!」
炬燵でみかんを飲み込んだあと、僕は宣言した。
僕は本気で誰かと戦いたい。勇者アレフとの戦い以降ずっと手加減して戦い続けている。誰でもなんでもいい、全力を全て出し切って本気で戦いたい。
「ご主人様、何言ってるんですか? 無理に決まってるじゃないですか。邪神、魔王、竜王、伝説系の存在の話、最近聞かないですから」
角にピンクの靴下のようなものをしたドラゴンの化身アンは炬燵の中でまたみかんをむき始めた。前までは皮ごとまるごと食べてたが、剥いたみかんの方が美味しいと最近学んだみたいだ。よきかな、よきかな。
「そりゃ、大袈裟すぎるだろ。そんなに俺は強くない」
「アンちゃん、そういえば、アンちゃんって何て言う種族のドラゴンなの?」
珍しく炬燵に入っているマイが唐突な質問をする。
「えー、私ですか、一応古竜です」
「どれくらい強いの?」
「一応、竜族最強です」
「竜族最強よね、それを一撃で倒したのは」
「ご主人様です」
「最強の竜族より強いのは」
「ご主人様です」
「という事よ、ザップ。諦めた方がいいわ」
「………………」
僕は悲しくなり、みかんに手を伸ばす。
「あのー、いいでしょうか?」
残る炬燵の一角に座っている少女が口を開く。冒険者四人組の一人、金髪ボブの魔法使いルルだ。なんと炬燵の上に胸が乗っかってる。それを見てしまうとマイとアンから鋭い視線が襲いかかるので目をそらす。
彼女は、アンから色々魔法とかについて学びたいらしく、最近、炬燵の住民になった。
「ザップ兄様、そろそろ魔王の名を冠してもいいのではないでしょうか。モンキーマンデビルロード・ザップ。ゾクゾクするような響きです」
猿で悪魔、なんか、悪口のような名前だな?
「なんで、魔王にならにゃいかんのだ?」
「巷では、兄様の噂は凄いですよ、帝国軍を一人で滅ぼしたとか、王国軍を一人で滅ぼしたとか、あ、私がそれに古竜を一撃で倒したというのと、湖の水を一人で飲み干したを追加しておきますね。噂的には魔王として十分でしょう」
「変な噂を追加するな! おい、それに俺は軍隊滅ぼしてはない。それに湖を飲んだのは、そこの炬燵着膨れドラゴンだ!」
「えー、滅ぼしてないのですか? 噂ではモンキーマンは、前に立ち塞がる全ての存在を、まるでバーバリアンみたいに裸で巨大な刺つきのハンマーでなぎ倒す、盛りのついたゴリラのような怪物って言われてますよ」
ひどい言われようだな。噂は尾ひれがつくものだから。しょうがないか。一部事実だし。僕はみかんを口にする。
「あと、最近、美少女冒険者四人を公衆の面前でなぎ倒し服を脱がせようとしたって噂も追加しときました」
ぶぶっ!
僕はみかんを噴き出す。アンの顔に飛び散った。間違いない。変な噂の発生源は間違いなくコイツだ。
「お前、頼むからこれ以上変な噂流さないでくれ」
ルルの方を見るがつい胸をみてしまった。すぐに目を逸らす。
「あと、すまんアン」
アンは顔についたみかんをタオルで拭っている。
「ザップ、今、ルルが言った事は本当でしょ」
マイがジト目で僕を見ている。
「あと、今、ルルのおっぱい見たわよね……」
背中に氷を入れられたような悪寒が走る。
「素振りに行くぜ!」
強い奴とは戦いたいが、マイとだけは勘弁して欲しい。
モンキーマンは巨乳好きという噂が追加されたのを知ったのはしばらくたってからだった。