テレキネシス(補足)
「おかわりあるから、ゆっくり食べてもいいのよ」
マイがテーブルにクッキーを出している。
「そんな、お構いなく奥様。では遠慮なくいただきます」
クッキーをつまむ巫女少女。
「お、奥様……どんどん食べてね」
マイが更にクッキーを盛る。それって主食になる量だよ。マイが何故かバグっている。
「奥様……奥様……奥様……」
うっ、大丈夫か? なんかを呪文のように呟きながら口元がにへらーっとしてる。
その横ではアンとジブルがガツガツとクッキーを消滅させている。なんだクッキーの大食い大会でも開かれてるのか?
「で、なんでお前がここに居る?」
巫女少女はきょとんと僕を見る。
家に帰るとリビングでお茶をしばいている巫女少女。何してるんだ?
「え、ザップの知り合いじゃないの?」
マイが僕に問いかける。よく知らない人をお家に上げるんじゃないよ。
「知り合いとは言えない事はないが、さっき通りでやり合っただけだ」
「え、やり合った?」
ジブルがわざとらしく目を見開く。チッ、言葉足らずだったな。
「決闘だよ。決闘!」
「え、男と女の決闘? こんな若い娘と!」
「しらじらしいわ! 強引にそっちに持ってくの止めてもらえませんかねー。俺が犯罪者みたいじゃないか」
「えー、違うんですか?」
巫女少女が素っ頓狂な声を上げる。
「魔王って名前がついてるって事は、あんな事やこんな事を女の子にしまくった犯罪者じゃないんですか? 私は嫌なのにあんな公衆の面前で相撲しようとしたり……」
巫女少女は赤くなってうつむく。
「えっ、ザップ、相撲したのっ!」
マイが僕をキッと見つめる。
「するわけないだろ。コイツが相撲で勝負しようと言っただけだ」
「はい。とっても恥ずかしかったけど、勇気を振り絞りました」
少女は桜色の顔で僕を見る。
「なら相撲で勝負しようとか言うなよ」
「だって、しょうがないじゃないですか。昔話とかじゃ、鬼とか河童とか悪い奴は相撲で負けたら改心したり子分になったりするじゃないですか。私はザップさんを改心させようと思って……」
「俺は鬼や河童と同類か! 改心の前に悪党でも犯罪者でもないわ。犯罪してたら堂々とこんな所に家建てて住んどらんわ!」
「うわ、こっわーい。ねぇねぇ、知ってます? 相手が怖いと思ったらそれって恐喝になるんですよ。こんないたいけで可愛らしい女の子を脅すなんて、それは間違いなく犯罪ですよね。これでザップさんが歴とした犯罪者になった所で、思う存分改心させてあげますっ!」
巫女少女は両手を握り、ふんすっとたちあがる。なかなかコイツいい性格してんな。僕はもう話してるだけで疲れてきた。
「ところで、お前、俺を倒したいって言ってたけど、倒してどうするんだ?」
「それは、魔王をたおしたら、有名になってお金持ちになれるって聞きました。私、実家から出てきてもう路銀が尽きそうなので、ソロソロお金かせごっかなーと思って」
路銀が尽きそうだからって人を討伐しようとかするなよ。僕はゴブリンか何かなのか?
それにしても大丈夫かコイツ? 一般常識ナッシングなんじゃ? もしかしていいとこのお嬢さんなのか? 面倒くさいけど、このままほたっとくのもなー。僕はマイを見る。マイは軽く頷く。
「だいたい事情はわかったわ。あのね、ザップを倒してもお金にはならないわよ。最強の名前を求めて毎日チャレンジャーが押し寄せるだけよ」
「ええーっそうなんですか?」
「そうよ、毎日最低1人はザップに挑戦してくる人がいるわ。あなたもそのうちの1人でしょ」
「うわ、それ勘弁ですね。なんかいい仕事ないですかー?」
「隣のお店がウェイトレス募集してるわ。三食寝床付きで、あなたと同い年くらいの女の子が何人もいるわ」
「それよろしくおなしゃす」
かくして、隣の店に巫女メイドが誕生した。仲良くなって彼女のロマンたっぷりの謎魔法を教えて貰いたいもんだ。
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