剣術修行【寄せ足】
「せいっ!」
僕は大きく息を吸い込むと、赤髪の少女戦士アンジュに一気に駆け寄る。先手必勝、かわす、受ける技術が拙い僕にはただ攻撃あるのみ。
手にした木剣の袈裟懸けをかわされ、流れた剣を無理矢理戻して水平に横薙ぐ。アンジュがバックステップでかわすのに、剣を無理矢理掲げて踏み込んで唐竹割り。アンジュはその剣を逸らして、僕は体勢が崩れるがそのまま地を蹴りアンジュに体当たりしようとする。アンジュは斜め前に出ながら木剣で僕の腹を薙ぐ。
「まだだっ!」
僕はバランスを崩すが、そのまま前に飛び込み体を丸め前転しながら足が大地についた瞬間にアンジュを見つけ地を蹴り剣を突きだす。ザップミサイル突きだ。アンジュは目を見開いてかわす。アンジュは着地を狙うだろうが、そうはさせない。そこで剣を大地に突き立てて体を止め、着地しながら地面ごと剣を突き上げる。舞い散る土砂の中、アンジュは華麗に紙一重でかわすが、かわされた位置から無理矢理剣を叩き込む。アンジュはそれを剣で受ける。ゼロ距離からの攻撃だったので、威力は無く、アンジュでも受け止められる。鍔迫り合いから徐々に力を入れていく。ジリジリと少しづつアンジュが下がる。さらに力を込める。
ピシッ!
僕の腕につけてた腕輪にヒビが入ったかと思うと、それは粉々に砕け散る。
「はい、そこまで」
マイの声で、僕たちは剣を降ろす。
今日はアンジュに剣術を教えて貰っている。格闘と違い木剣でも、僕が剣を使うと相手に大怪我させる恐れがあるので、いい弱体の呪いのアイテムが手に入った時だけ、アンジュが稽古をつけてくれる。けど、それもぶっ壊れたので模擬戦はここまでだな。
ちなみにアンジュは僕たちの中で唯一騎士の使う剣術を学んでいる。元々は騎士になりたかったらしいが、今は力に飲まれて2本の巨大斧を使う、戦士と言うより、狂戦士だ。
「はい、どーぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
マイが差し出したぬれタオルで汗を拭う。しばらくアンジュは息を整えて、口を開く。
「さすがっすねー。まるで獣と戦ってるみたいでした」
「おいおい、それって褒め言葉になってないだろ」
「いやー、いい意味で獣っすよ」
いい意味の獣ってなんなんだよ。
「ただ攻撃あるのみでしたね。けど、剣術って言うのは、その獣や魔物という身体能力が高い者に対して、有史以来人間が技術を繋いできたものっす。私の中には今まで生きてきた沢山の戦士から引き継いだものがあるっす。それで、兄さんに足りないと今日特に思ったのが『寄せ足』ですね」
「なんだソレ?」
「足を前に出すじゃないすか、その時にしっかりと後ろの足も引いて足幅を一定に保つ事です。そうしないと次の動きが遅れるんすよ」
「それがどうしたんだ?」
「兄さんはですね、前の足を出したら後ろの足の引きつけが甘いんす。それから無理矢理攻撃するから少しづつバランスを崩していくんすよ。さっきはトリッキーだったので一撃入れるのがやっとでしたけど、兄さんの動きが分かったから次はボコボコですよ」
「じゃ、やる?」
「無理無理無理ですよ。呪い無しだと、兄さんが全力で振るった攻撃を逸らすだけで、骨もってかれるっす。マイ姉様と模擬戦やればいいっすよ」
マイが居るから言えないけど、マイは教えるのがあんまり上手くない。しかも剣術だと一方的に僕がボコられる。
「いやー、マイ相手には全力出せないからな」
「私相手なら全力出せるんすか。ひどくないすか?」
「いや、なんかアンジュだったらOK的な?」
「何言ってんすか、私も痛いのは嫌っすよ」
「少し、少しだけだから」
「しょうが無いですね……」
「お、鬼! 鬼畜っ!」
アンジュが右手を押さえて何か言ってる。果たして、アンジュが言った通りになった。僕は鬼畜じゃないので、アンジュの剣を狙ったんだけど、アンジュの剣を弾き飛ばしたら、腕をやられたみたいだ。可哀想なのですぐに癒してやって、それからは僕がシャドーするのにアドバイスして貰った。たった足を引き寄せる事を意識するだけで、かなり連続攻撃しやすくなった。