マイの黒歴史(後)
「じゃあ、ザップ、どこに行くの?」
あたしはザップに出来る限りの笑顔で話かける。
「ついてくれば解る」
けど、ザップは振り返りもしない。
「助けてくれてありがとう」
あたしは、さらに笑顔で話しかける。
「ああ……」
むー、聞いてるのかなぁ? もしかしてザップって女の子に興味がないタイプの人なのかなぁ? あたしってば、めかし込んで街を歩いてたら、そこそこに男の人にも声かけられたりするのに……
「あたしの名前はマイよ。マイマイって呼んで」
スタスタ歩くザップを追いかけながら、できるだけ明るく話かける。マイマイって言うのは、あたしの小さい頃の愛称だ。ぐずで、のろまのマイマイってよくからかわれてたから。少しは笑ってくれるかも?
「リュックをかせ」
おもむろに、ザップは立ち止まり手を差し出す。
「え、何で? マイは荷物持ちだよ」
ザップに、助けて貰って荷物まで持たせる訳にはいかないわ。
「遅すぎる。持ってやる」
ザップはあたしの後ろに回ると強引にリュックをむしり取る。その瞬間、あたしのリュックが消え失せる。えっ、な、何がおこったの?
「え、荷物が消えた? あの中には着替えやお水が入っていたのに……」
「必要な時は言え。出してやる」
「え、もしかして、ザップって魔法の収納もってるの? いいなぁ……」
魔法の収納持のスキル。それは荷物持ちをしてる者なら一度は夢見るスキルだ。収納の大きさにもよるけど、それだけで荷物持ちとしては一生食べていける。
「あたしもそれがあればもっと稼げたのに……」
あたしの言葉に、ザップは何も言わず歩き始める。けど、心なしかそのスピードが遅くなったような。
それからザップは全く迷う事無く迷宮を進んで行く。迷宮は魔物がはびこるはずなのに、全く遭遇しない。もしかして、ザップって気配察知のスキルも持ってるの? それで魔物を避けて進んでるのだろうか?
それから3回下に降りる階段を降りて行った。あたしがいたのが地下30層だから、今は地下33層。ザップはスピードを落としてはくれたけど、全く休む事無く進んで行く。はぐれて、魔物に襲われたら一巻の終わりだ。あたしは必死で追いすがる。けど、気を抜くとザップとの距離が開く。しかもこれまでの極度の緊張で、膀胱がうずきはじめる。ヤバい。あたしは若干内股になりながらも早歩きする。
部屋に入ると、ザップが何も言わずに壁を背に座り込む。部屋の中央には階段がある。そういえば前のパーティーで、この迷宮では、階段の部屋は魔物が来にくいって聞いた事がある。
あ、これって休憩って意味? 何も言わないからわかんないよ。けど、今しかないわ。
「お花を摘みに行きたいわ……」
あたしは勇気を振り絞る。ザップの表情は変わらない。
「花などないが?」
え、嘘、通じないの? やっぱりザップって野人なの? ザップは立ち上がりお尻をはたく。まずいわ。もうあたしは限界が近い。
「お花を摘みに行くって……ト、トイレに行くって事なの……」
あたしは何とか言葉を絞り出す。やっぱり男の人の前で言うのは恥ずかしい……
ザップは全く表情を変える事なくあたしに背を向ける。
「そうか、階段の途中で待ってる。終わったら来い」
ザップは進み始める。
「待って、置いてかないで!」
あたしはついザップの手を掴む。岩? 岩みたいにゴツゴツしている。けど、暖かい。
「待っている」
ザップはあたしの手を振りほどく。もし、もし、あたしが1人の時に魔物がきたり、もしかしたらザップは……
「一人にしないで! また置いていくつもりでしょう!」
あたしはザップの手を両手で強く握る。
「どうすればいい……そんな趣味はない」
あたしは、初めてザップが困った顔するのを見た。
「そこにいて、後ろ向いてて」
恥ずかしい。けど、それよりも置いて行かれるのが怖い。恥ずかしいより、怖いの方がいやだ!
「わかった……」
あたしは準備するけど、やっぱり無理。音を聞かれたりしたら、恥ずかしくて死にそうだ。
「まだか、階段でまってるぞ」
「お願い! 行かないで! やっぱり恥ずかしい……」
どうすればいいの? そうだ!
「待って! 歌って! 大声でなんか歌って!」
少しの間をおいて、ザップが口を開く。
「進め! 進め! 勇気をもった冒険者! いつかその夢その手に掴むまで!」
意外な事にザップが歌っているのは最近流行した歌だ。もしかして、ザップって見た目よりも若いの? しかも上手い。あたしは何とか人心地ついた。そして、歌ってるザップの手を取って、階段を降り始める。
とってもとっても恥ずかしかったけど、やっぱりザップは見た目に反して優しい。なんとか見捨てられないように頑張る事をあたしは決意した。
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