スライサー
「マイ姉様、見てて下さい! いくっすね!」
赤毛の戦士アンジュは包丁を掲げると、まな板の上の肉のブロックを切り始めた。さすが戦士だな。
僕らは今キッチンにいる。マイが肉を薄く切りたいとの事でうちらで1番剣の扱いに長けたアンジュを召喚した。僕、マイ、導師ジブルがそれを見ている。
さすがアンジュ。包丁を握るのも様になっている。けど、うちの連中は基本的におおざっぱだ。精密な作業に向いてる者は居ないんじゃ?
「出来たっす!」
アンジュは切った肉をつまみ上げる。それをマイがまじまじと見る。
「ありがとう。けど、分厚いわね……」
僕も近づいて見る。肉はピロピロで厚さ2ミリくらい。めっちゃ薄いじゃん。
「すみません。お役にたてなくて」
「いいわよ。やっぱ人力じゃ無理ね。半凍りにしたらもっと薄く切れると思うけど、やっぱ生がいいのよね。生が」
そうか、マイは生がいいのか。
「そうよね。やっぱり生じゃないとね」
導師ジブルが会話に加わる。コイツは何かと下品な方に話を持って行く。それくらいで止めとけよ。
「生のをのみ込んだら、そりゃ最高よね」
生の何を飲み込む気なんだよ。まだギリギリセーフか? いやアウトか?
「ダメよジブル。アンちゃんじゃないんだから生のお肉たべたら」
ジブルが蠱惑的な顔で唇舐める。童女面でそんな事しなさんなよ。
「あーら、マイ、肉は肉でも肉ボゲェ!」
とりあえず、ジブルの後ろに回って脇腹をつついて黙らせる。何言おうとしてんだよ。
「マイ、ジブルは放置。また変な事言ってるだけだから。それよりもっと肉、薄く切りたいのか?」
「そうなのよ。しゃぶしゃぶのお肉切ったり、ローストビーフを切りたいんだけど、やっぱり人力じゃ分厚いし、時間かかるわ。ねぇ、ザップ、隣のお店と代金半分こでスライサー買ってもいい?」
マイのおねだりはレアだ。調理器具が増えたら当然僕らの食卓が潤うので、迷う事は無い。
「ああ、いいよ」
「それでは、お買いあげありがとうございます」
ジブルが頭を下げる。と言う事は魔道都市のブツを買うのか? ヤバい値段なんじや? 怖いから聞かんとこ。
そして、しばらく後には隣の店のキッチンにブツは届いていた。うちのメンバーと隣のお店の人達みんな集まっている。ジブルが軽くチェックして口を開く。
「お待たせしました。迷宮産の魔法のチャクラムを使った万能スライサーです。しかも吸収型の魔石により半永久的に使えます。ではスイッチ、オン!」
台座に回るチャクラムが付いていて、台座の高さを変えると、歯と台座のズレが出来てその上を滑らせたものがズレの大きさに切れるようになっている。魔法のチャクラムってこんな使い途があったのか……
「ここにとり出したるは、鋼の剣。はい、これがみるみるうちにスライスされていきます」
ジブルが鋼の剣をスライサーの上を滑らせると。シャンシャン音がしてスライスされていく。オーバースペックだ。何があったら鋼の剣をスライスするのだろうか? けど、調理をする者たちはキラキラとした目で見ている。いろんな用途を考えてるんだろな。
そして、その夜は隣の店『みみずくの横ばい亭』で、しゃぶしゃぶパーティーをした。しゃぶしゃぶって薄切りの肉をお湯にくぐらせてポン酢や出汁で食べるものでとっても美味しかった。脂が落ちて食べやすく、どれだけでも食べられそうだった。みんなしこたま食べてたので、それだけでもスライサーの価値があったってもんだ。
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