第一話 荷物持ち追放される
初めまして、多分初めましてだと思いますが、『みやび』と申します。よろしくお願いします。
「役立たずのクソ野郎! お前を『ゴールデンウィンド』から追放する!」
石造りの部屋の中に、良く通る男の声が響き渡る。
乱暴に僕から魔法の袋を取り上げると、金髪イケメン勇者のアレフは、僕の腹を勢いよく蹴りつける。僕は苦痛に顔を歪める。殴られる蹴られるのはいつもの事だ。
「うぐっ!」
僕は口から吐瀉物を漏らしながら、その場に崩れうずくまる。
「そうね、この魔法の収納の袋があれば、ザップなんかもう要らないわよね」
厚化粧の無駄に発育のいい体をした魔法使いのポポロが、杖で僕をつつく。地味に痛い。
「魔法の袋は、飯も食わなければ、報酬も払わなくていいからな。それに、守ってやる必要も無い。今まで以上に探索がはかどるな」
勇者アレフは僕に唾を吐きかける。何だ、何でここまでされるのか? 僕は彼に何か悪い事をしたのだろうか?
「契約解除だな。おい、ザップ、俺たちの荷物を全部出せ」
禿頭巨漢の戦士ダニーに言われるままに、訳もわからず、僕は全ての荷物を魔法の収納から出す。
ガツッ!
ダニーが僕の頭に鉄拳を下した。
「まだあるだろう! 俺は全部出せっていったんだ!」
「ダニーさん、後は僕の私物しか……」
ゴスッ!
見てるだけかと思った極悪聖女マリアの前蹴りが、僕に食い込む。口から赤い生温かいものが溢れる。
「四の五の抜かすな! 全部だ・せ・よ!」
聖女マリアは僕の髪を掴むと、端正な顔を触れんばかりの距離まで近づける。
僕は観念して、魔法の収納から全ての物を取り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
僕の名前は『ザップ・グッドフェロー』。
大陸有数の実力と知名度を誇る冒険者パーティー【ゴールデンウィンド】の荷物持ちをしている。
僕は強くて格好いい冒険者に成りたかったのだけど、生憎手に入ったスキルは魔法の収納だった。色んな物をかなりの量収納出来る。
冒険者登録して採取クエスト等で日銭を稼いでいた時に、この憧れてたパーティーから加入しないかとの声がかかった。それはもう、天にも舞い昇る様な素晴らしい気分だった。
けど、実際は最悪だった。僕のパーティーメンバーでの扱いは、ただの便利な鞄だった。
役立たずと毎日罵られて、暴行を受ける日々。必死に少しでも強くなろうと努力したのだけど、この高レベルのパーティーでは、ほぼ戦闘の機会がなく、全くレベルが上がらない。
けど、いつの日にかはこのパーティーメンバーと肩を並べる強さに成りたいと思って、日々耐え続けて来た。
今、僕たちがいるのは、王国で最高クラス難易度の『原始のダンジョン』の地下39層で見つけた宝物部屋だ。
ゴツゴツとした岩壁に囲まれた、魔法の灯りで照らされた広い部屋の中央に宝箱が1つあり、その前に仕掛けられた落とし穴を魔法使いのポポロが感知し発動させて避けて進んだ。
ポポロが魔法で罠がない事を確認し僕が宝箱を開けると、中にあったのは謎の袋だった。鑑定の魔法をポポロがかける。それは魔法の袋、僕よりも容量が大きい収納魔法がかけてあるそうだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「役立たずのクソ野郎! 達者で暮らせよ!」
勇者アレフは魔法の袋に荷物を入れると、僕に背を向けた。
「アレフさん、冗談ですよね……」
僕は震える声で勇者の背中に話しかける。
「冗談じゃねーよ! 今まで面倒みてやった分の報酬は、少ねーがお前の持ち物で勘弁してやるよ。まあ、服まで取らない分感謝するんだな、ハハッ」
「うわっ。アレフやっさしーい」
「ついてくんなよゴミ虫!」
ポポロとマリアは僕に背を向けて、それぞれアレフの腕にしがみついた。
「じゃあな! 無事に戻ってきたら1杯奢ってやるよ!」
ダニーも僕に背を向ける。
「待ってくれ! 置いて行かないでくれ!」
僕はダニーに駆け寄りしがみつく。
「触んなよ! カス野郎!」
ダニーは僕を振り払うと、激しく僕を殴りつけた。
僕は激しくふっとばされる。運の悪い事にその先は、丁度さっきの宝箱の前の落とし穴だった。
「ウァアアアアアアッ!」
僕はたたらをふむと、バランスを崩して穴の中に吸い込まれて行った。
読んでいただきありがとうございます。これから物語が始まります。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
しばらく修行回で、七話からは強くなり、八話からはヒロイン登場ですのでよろしくお願いします。
第一話が全部で1番『いいね』が多いです。たくさんの『いいね』ありがとうごさいます。
2022,4,23
3番目にいいね100突破! ありがとうございます。 2023.415