龍との契約
「はやく帰らないと……」
雷が落ちる。雨が降る。
山へ山菜を取りに出ていたら悪天候に見舞われた。
視界が悪くなる。ぬかるんだ道も滑りやすくなって危険だ。
慎重に歩みを進めながら山を下る。
真昼なのに夜みたいに暗かった。光が差し込まない。
村のみんなは大丈夫かな。
山を抜けて村が見えた。
見たこともない服装の人が眼前に現れた。
「ここから先は進入禁止だ」
「え、なんで。あそこの村の者です」
「ここから先は進入禁止だ」
なんとか掻い潜ろうとするも、できなかった。
つかみかかる。暴れる。何をしても効果がない。
大人と子どもというハンデをなしにしても敵いそうもなかった。
「くるぞ、準備しろ」
声がとぶ。
「おい、こいつはどうする」
「捨て置け」
「……しかたねえな。【障壁】」
半透明な半球状の膜に包まれた。
「……動くなよ」
それだけ言って村へ向かった。
膜を破ろうと叩くが、破れない。そこから動くことができなかった。
そのとき、空が割れる音がした。
そして空から何かが落ちてきた。
驚いたのも束の間、空から落ちてきた何かの下には村があった。
やめろ……。落ちるな……。
衝撃が地面を伝わってくる。
土煙が晴れると、そこには変わり果てた村があった。
村の方から光が立ち、大きな音がするようになった。
逃げ惑う人達が村からでてくる。
空から落ちてきたのは巨大な蛇のような怪物だった。
それさっきの服装の人たちが攻撃する。
「不遜なやつらめ……」
そう聞こえた気がした。
次の瞬間、人間が、弾け飛んだ。
内側から割れるように。
赤い水が舞う。
覆っている膜にべっとりと血がついた。
「え……」
事態が呑み込めなかった。
ひとの姿形はどこにもなかった。
村の方をみる。今度は水の柱が立っていた。
激しい音が相変わらずしている。
そのとき、膜が溶けた。
村へ向かって走りだした。
建物の残骸と血の痕だけがあった。
巨大な蛇が横たわっていた。
「なんなんだ……なんだよ、お前は」
「私か……私は、神だ。そして龍、お前たち人間はそう呼ぶ」
「父さんを、母さんを、みんな、みんなをかえせ」
「心配するな、すぐお前も同じところに送ってやる」
龍の目が開く。
初めてだった。初めて体中を血液が循環しているのを感じた。
せせりあがってくるものを逆らわずに吐いた。それは血だった。
「ふん……お前ごときか弱いヒトすら殺せないとはな」
龍が光を放つ。
「もう終わりか……」
龍の体が消えかけていた。
「ふざけるな。……殺して、殺してやる」
近くにあった木の欠片を手に取り殴りかかる。
「憐れだな、ヒトの子よ」
何度も何度も殴りかかる。
「どうだ、ヒトの子よ。取引きをしないか」
「取引き」
「そうだ。私はじき消える。お前もすぐ死ぬ。生きたいか、それとも死にたいか」
「……たい。……きたい。……生きたい。生きたい、死にたくない」
「ならば我が宿主としてその運命に身を投じよ」
龍は光となり消えた。
そして目の前が真っ暗になった。