第2話 OLは帰宅のために馬車に乗る
お盆の期間中だけ、無謀にも12時間ごとの更新に挑戦しまーす。ヽ(^o^)丿
ぱかぱか。ぎしぎし。ぽくぽく…
がたがた、ごっとん。
王城の東側にある停留所は、活気がありながらも、やや閑散としている。
ランチタイムをすこし過ぎた平日の、それも週の初めとあればこんなものかも知れない。
私だって、普段なら睡魔と戦いながら書類と格闘している時間だし。
こんな時間に、ここにいるのは家に帰るため。
ほどなくして、目的の馬車がやってきた。
「こんにちわ、アランおじさん」
「おぅ、いつもの嬢ちゃんでねぇげ。今日は上がりかぁ? おめ、すごく疲れた顔してんなや。でーじょうぶげ? 在宅(という名前の停留所)さ着いたら起こしてやっから、ちっと寝てたらよがっぺよ」
「すみません、おじさん。そうさせて。めいっぱい疲れてて……」
早上がりできたのは、おかみさんのお陰。つか、仕事が一段落したところでレフェリーストップを入れてくれた形になるのかしらね。
――あらあら、アヤカちゃん、お仕事ご苦労様。ごめんなさいねぇ、主人が無理難題を持ち掛けたみたいで。無理をさせちゃったわねぇ。体の調子はどう?
あらやだ、目の周りが黒くなってるじゃない。根を詰めすぎて病気になったら元も子もないわよぅ?
さっき最後の打ち合わせが終わりました、まあ、何とかなりそうですね。
――そう、それなら今日は帰っちゃいなさい。そして今週いっぱい休みなさいな。次に出てくるのは週明けからで良いですからね。
いくらなんでもそれは……
――いいのいいの。若い女の子に3徹なんて、主人も何を考えているのかしらね。あとで、よおぉく言っておきますから。安心して体を休めて頂戴。
……ドーモ、アリガトォゴザイマス。
…………
……
……と、まあ、おかみさんとの間で、こんなやり取りがあったわけで。
帰り支度を始めていたら、大番頭さんをはじめ、いろんな人から差し入れをもらってしまった。食べ物とか、疲労回復ポーションとか。
ストレージに入りきらない分は、秘書のお姉さんからもらった背負い袋にぎっしりだ。あの人も一人暮らしの厳しさや楽しさを知っているからかしらねぇ。
背負い袋の容量の半分は、お姉さんからの薄い本のぶ厚い束と井上さんからの酒瓶だったりするんだけどね。
お姉さん達が渡してくれた秘蔵の『貴腐人のメイドたち』全30巻。稀覯本だそうだけど、本棚の容積を圧迫するから腐教ヤメレ。
お酒の方は…… さすがにドワーフと言うべきでしょうね。でもあの銘柄って消防法で危険物指定されてない?
さすがに一升瓶4本はやばいわよ。5本までオッケー? そぉですか。
つーか、がっちり疲労が溜った身体に、この重量って何なの?
……うだうだ言っていても仕方がないわよね。
イイ女というものは、長々と愚痴を垂れ流すもんじゃないし。
停留所でアランさんに起こしてもらった私は、疲れた体に鞭打って、ラストスパート!
……はあ、何とか帰ってこれた。
「ただいまー、大家さん」
「おや、おかえり。早かったなや。半ドンけぇ?」
大家さんがつばの広い麦わら帽子を小粋にかぶり、一服ふかしていた。
今は引退しているけど、昔は王城で家老をしていた人らしい。今は敷地の一部を開放して、家を貸してくれている。古いけどしっかりした造りなので、私のような小娘の一人暮らしにはピッタリだ。
「ようやく仕事が一段落したから早上がりでいいって」
「そらいがったなや。だは明日からはゆっくり出来っかな」
「そりゃあ、特別休暇をむしりとりましたとも。明日から6連休よっ」
「はっは、それはいがったな。んだらゆっくり骨休めをすればよかっぺ」
好々爺然とした大家さんの笑顔を見て。
ようやく、実感がわいてきた。仕事が終わったんだな、って。
そう。
商会の現場事務所に泊り込みんでの4日間がようやく終わった。
ほんっ、とうに、長い長い4日間だったわ。
ううううう。
早くお風呂に入りたい。
頭がかゆいーー




