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第97話 騎士任命


翌日、朝一番にロロが部屋に飛び込んできた。



「グレイさん!あの、キリカから聞きました!私の騎士になっていただけると!私、私・・・本当に嬉しいです。ありがとうございます・・・」


そう言ってロロは目に涙を浮かべている。



「あー、うん。そうなんだ」



俺は白目を剥いて答えた。


「・・・でも、どうして急に受けていただけることになったんですか?グレイさんは魔導士にこだわりを持ってると思ったのですが・・・」


ロロは尋ねた。


俺は言いたい言葉をぐっと堪える。

素直に喜んでくれているロロに、


恐らく君の身内と思われる誰かに脅迫されたからだよ、

とは言えない。


それにロロ様に本当の事を話したら分かっているね?

とも言われていた。


どんだけだよ。



「・・・こういうのもありかなって」



俺はなんかそんな感じの適当な返事をしておいた。


どうやらロロはその言葉が嬉しかったようで、

頬を紅くしていた。


「・・・あの、グレイさんが居れば、私、頑張れます・・・。これからよろしくお願いいたします!」


ロロはそう言って挨拶すると、

張り切って部屋を出て行った。




「どういうこと?」


アリシアが尋ねる。


「色々あったんだ、色々・・・何も聞いてくれるな」


俺は答えた。


「ふうん。まぁいいけど。どのみちしばらくはお別れだしね」


アリシアが言う。


「・・・お別れ?」


俺は驚き、

尋ねた。


「・・・うん。次の依頼が入ったのよ。次は南の大陸のエルフの里へ向かうわ。」


アリシアが言う。


「そう、なのか・・・」


俺は呟く。

なぜだか知らないけど、

アリシアとはこの先もずっと一緒に居る様な気がしていた。



「『白蝶』絡みの依頼だから時間が掛かると思うけど、終わったらまた戻ってくるわ」


アリシアが言う。


「『白蝶』・・・か。」


俺は呟く。


「うん、今回も噂レベルからの調査スタートだけどね」


アリシアが答える。


俺は『白蝶』と言う言葉を聞いて、西の大陸で『白蝶』を追うと言って別れたヒナタの事を思った。


そんな俺を見て、アリシアは言葉を続ける。


「・・・分かってるわ。もしヒナタちゃんに会ったら色々伝えておく」


「顔に出てたか」


俺は少し恥ずかしくなって尋ねる。


「グレイの考えていることなんて、すぐ分かるわよ」


アリシアが笑って答えた。


「すまんな、頼む。・・・それから」


俺はアリシアに言う。


「・・・それから?」



アリシアがじっと俺を見つめる。

だが俺は言葉を繋ぐのを躊躇した。


せっかくの旅立ちだ。

無粋な事を言うのはやめよう。



「・・・いや、なんでもない」


その言葉にアリシアは寂しそうな表情を浮かべる。


「そう・・・」


気のせいか、アリシアの目は少し潤んでいるように見えた。



・・・

・・



その日、ゴブリン討伐の成果を上げたに褒章が与えられると言う事で、

俺たちは聖魔騎士団の本部に呼び出されていた。


俺とアリシアは用意された綺麗な服に着替え、

促されるまま功労者側の列に並ぶ。


回りを見ると、

騎士たちが神妙な面持ちで立っていた。


俺たち功労者の列の目の前には、

騎士団の重鎮と思われる男たちと、

一人だけ若い白い鎧の騎士、

それからその中央に聖女ロロがいた。


ロロは俺に気が付くと、

嬉しそうに笑顔を向けた。

く、あの無邪気な笑顔は反則だろ。



今回の一番の功労者はやはり<紅の風>アリシアだ。

彼女はノワールの街を、獅子奮迅の活躍で守った。


その横には独自の判断で村へと駆け付けたキリカと、

その隊のメンバーが並び、

俺は一番端に並んだ。


シルバはこの式への出席は辞退して、

報奨金だけ受け取ったらしい。


この完全アウェーな重苦しい雰囲気に、

俺もそうすれば良かったかな、

と少し後悔する。




「静粛に!ただいまより、先のゴブリン討伐に関する褒章の授与を行う」


小太りの男が声を上げる。

それにより、周囲の騎士たちが一斉に姿勢を正した。

更なる緊張感が、会場に走る。



それを見て、

小太りの男は中央に座っていた白い鎧の男に視線を送る。


白い鎧の男は頷き、

ゆっくりと立ち上がった。



「諸君、よく集まってくれた。先日のゴブリンの件と言い、教皇様が失踪した件と言い、皆には大変な苦労を掛けているね」



大きくは無いが、よく通る声。

俺は自然とその言葉に耳を傾けた。



「・・・だが今こそ、聖魔騎士団は力を結集し再起を図る必要がある。騎士団長である私はもちろんの事、ここに居る騎士長たちも粉骨砕身の姿勢でそれにあたるつもりだ。ぜひ皆も力を貸して欲しい」


白い鎧の騎士は言った。


驚いたな。

あんなに若いのに騎士団長だったのか。

俺はそう思った。


「では先日のゴブリン討伐の立役者たちに褒章を送ろう。ここだけの話、聖女様が奮発してくれたから、皆感謝するようにね。では、カリュアド。後を頼むよ」


騎士団長はそう言って席に座る。


それと入れ替わるように、

騎士団長と同じ並びに座っていた、眼鏡の男が立ちあがる。



俺はそこで気が付いた。

あれ?

あの男、見たことあるぞ。



「・・・それではまず、外部より我らに助力いただいた最大の功労者を称えよう。<紅の風>アリシア・キルフェルド殿」



カリュアドと呼ばれた男がアリシアの名前を呼ぶ。

アリシアは一礼し、前に出て膝を付いた。



一連の動作が流れる様に美しい。


人前に出て何かをすると言うのがやけに映えるな。

普段はポンコツなところもあるが、

やはりアリシアは一流の魔導士だ。

俺はそんな事を思った。


続いてカリュアドはキリカ、そしてキリカ隊の騎士たちを、

次にロワール村でゴブリンと戦った騎士たちに順に褒章を与えていく。


俺はそれを聞きながら

視線をカリュアドに向け続けていた。


うん、間違いない。

雰囲気も声も一致する。

彼は昨晩、俺を拉致した男の一人だ。


聖魔の騎士長の一人だったのか。

そりゃ侵入も容易い訳だ。

俺はため息をついた。



「・・・以上だ。皆、これからも励むように」



そんな事を思っていると早々に褒章の授与がが終わったようだった。


あれ、俺は?

ここに並ぶように指示されたんだけど。



俺が戸惑っていると、

カリュアドが俺に視線を向けた。


俺は昨夜の事を思い出し、

背筋が凍る。



「・・・では次に、新たな騎士の任命を行いたいと思う・・・」



カリュアドの言葉に、騎士たちがざわつく。



「・・・知って通り、ロロ様・・・聖女様は今まで近衛の騎士をお側に置いて居なかった。だが今回、初めてその役目を任される相手をお選びになった・・・これは大変悲し・・・喜ばしいことであり、皆もその者と協力し、今後もロロ様とこの大陸を広く守護して欲しい・・・」


カリュアドが笑顔で言う。

だが離れていても分かる。


カリュアドの目蓋やこめかみがプルプルと震え、

何かを堪えているように見える。


それに加え、なにやら周囲の騎士たちも不穏な空気になる。


まずい。

絶対にこれはまずい。


焦る俺を尻目に、

ロロだけがニコニコとした顔で俺を見ていた。

おい、止めろ。

今、そんなに嬉しそうに手を振るな。



「・・・では、前に出よ。魔導士グレイ」



カリュアドに呼ばれ、

俺は意識が遠のきそうになった。

周囲の視線が一斉に俺に向いた。



「・・・どうした、グレイ。前に出てくれ」



カリュアドが優しい声で言う。

だがもはやその笑顔からは、

感情が消え去っていた。


「あ、ああ・・・」


俺は全員からの刺すような視線の中、

前に出た。


騎士たちの視線から、

感じたくもない圧を感じる。


間違いない。

これは殺気だ。



「・・・ではロロ様、お願いいたます」


カリュアドが言う。


「はい!」


声を掛けられたロロが立ち上がり、

こちらに近付いて来る。


俺はロロの前に膝を付いた。


ロロはカリュアドから、剣を受け取り、

それを俺に向ける。



「聖女ロロはここに新たな騎士を任命します」



ロロが言う。

えっと、こういう時はなんて言うんだ。

リハーサルもしてないぞ。


と言うかワザと事前に教えなかったな。

カリュアドめ。


俺が戸惑っていると、

ロロが俺にだけ聞こえるように教えてくれる。


「・・・グ、グレイさん、ここはただ了承してくれれば大丈夫です」


俺はロロの助け舟に感謝し、


「謹んで」


とだけ答えた。


そしてロロは剣をカリュアドに戻し、

自席へと戻っていく。


俺は顔を上げた。


「では新たな騎士に祝福を。それから新たな騎士グレイには、今回のゴブリン討伐の功労も含め、騎士としての特別な称号を与えることになった」


カリュアドが言う。

なんだと、まだ何かあるのか。

俺は戸惑う。



「グレイよ、そなたは今後騎士として『小鬼の(ナイト・オブ)騎士・ゴブリン』を名乗るがよい」



カリュアドが言った。


「なっ・・・」


俺は絶句する。

戸惑う俺に、カリュアドが小声で言う。



「ロロ様の御意向だ・・・」


カリュアドはなんとも言えない表情を浮かべる。

その表情はもはや懇願に近いものであった。


そこで俺は確信する。

あぁ、断る選択肢は俺にはないのだ。



「・・・謹んで」


俺は絞り出すようにそう答えた。

会場が様々な感情の入り混じった拍手に包まれる。


狂ってる。

俺はそう思った。


こうして俺は新たな仕事と、

新たな称号、

そして多くの敵を手に入れたのであった。



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