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第95話 金策


「これは大変なことになった・・・」


俺は呟く。


1500万ゴールドの借金。

それは途方もない額の借金だ。


たとえ魔導士として依頼をこなしていったとしても、

年単位の返済が必要だろう。


俺は自らの行いを悔やんだ。



俺は大聖堂から離れ、

ひとり魔導士ギルドを訪ねていた。



「ようこそ、魔力の神の使徒よ・・・」


シスターが俺を出迎えてくれる。


「今日はどのような御用ですか?」


シスターは尋ねる。


「・・・報酬だ。とにかく報酬の高い依頼を上から見せてくれ」


俺は言う。


「報酬ですか・・・?今出ている中で高い依頼ですと・・・こちらですね」


シスターは依頼書を机の上に並べてくれた。


・火竜討伐(最低日数5日 200,000ゴールド)

・霜降りゴールドマリーの発見(状態次第。最低30,000~/本)

・トロルの討伐(30,000ゴールド/匹、目撃情報5匹)



「これだけ・・・か・・・?」



俺は絶句する。

一番高額な火竜の討伐ですら20万。


借金を返済するのにとてつもない数の討伐が必要になる。

そうなれば返済の前に死んでしまう。



「東の大陸は、西の大陸に比べて魔導士の報酬が低いですからね・・・」



シスターはそんな事を言う。

たしか以前アリシアが同じことを言っていた。


「そうですか・・・何か他にありますか?ダンジョンとか・・・」


「確かにダンジョンはあるにはありますが・・・ブルゴーの近くにはダンジョンはなく、間もなく雪の季節になりますので移動も難しくなるかと・・・中には安全のため封鎖されるダンジョンもありますので」



シスターは答えた。



俺は記憶に新しいダンジョンの事を思い出す。

東の大陸にはあのゼメウスにもオススメされた、

有名なダンジョンがあるではないか。



「有名な『図書館迷宮』はどうなんですか?」



俺の言葉にシスターは更に苦い顔をする。



「・・・あちらは東の大陸の重要文化遺跡でもありますので、入るにはそれなりの手続きか、特別な許可が必要です」


「そうですか・・・」


俺はそう答えると、

肩を落とし、

ギルドを後にした。




・・・

・・




「・・・それで私の所に来た、という事ですな?」


「ええ、シルバさんなら色々ご存じかと思いまして」



ここは宿屋の一室。

シルバさんが滞在している宿だ。

知り合いの伝で安く泊めて貰っているらしい。



「ふふ。この際、酒場を本気で切り盛りして、借金を返済するのはいかがですかな?」



シルバが茶化すように言う。



「・・・ノウハウも何もないですよ。まず一人前になるだけでも、何年かかることやら・・・」


俺は苦笑する。

元店長は俺を仕込む気満々の様だが、

客商売をする自信はない。



「ふむ。そうですか・・・、しかしもし定職に就くとしても、この東の大陸で旅人のグレイ殿が就ける職となると限られておりますな。それにそのような金額を稼ぐとなると・・・」



シルバが困ったような顔をする。



「・・・あの、『図書館迷宮』へ入るにはどうしたら良いんでしょうか」



俺は尋ねる。



「ふむ。『図書館迷宮』、ですか。あそこはSクラス難度の迷宮ですからな。お一人の申請で許可が下りるとは考えにくいかと」


「そう、ですか・・・」



分かってはいたが、

俺は肩を落とす。



「お力になれず申し訳ありません。何か情報がありましたら、連絡します」


シルバが言う。


「いえ、ありがとうございます」


俺はシルバに礼を言って、宿を後にした。


「・・・魔力の神の御導きがあらんことを」


シルバの声に、俺は会釈を返した。



・・・

・・



「グレイさん」


「ん、ああ。ロロか。お疲れ」


「お疲れ様です。どうしたんですか?元気が無いようですが・・・」


「いや、ちょっとな・・・」


俺は答えに困る。

自分を好いてくれている少女に、

借金の話はしたくない。



「・・・そうですか。あの、何か心配事があったらいつでも相談してくださいね」



そう言ってロロは心配そうに俺の顔を見る。

うん、この子は本当に良い子だ。

俺は改めてそう思う。



「ありがとう。だが大丈夫だ。ロロこそ大変なのに、悪いな・・・」


俺は言う。




「い、いえ。そんな・・・私なんて・・・あ、あのそう言えば私、グレイさんにお願いしたい事があってきたんです・・・」


ロロが言う。


「お願い?なんだ?」


「あ、あの・・・その・・・」


ロロはもじもじと口ごもる。



「ん?」



「グ、グレイさんが魔導士だと言う事はもちろん理解しています。そしてそのお仕事に誇りをもっているのも・・・」



ロロが言う。



「あ、ああ・・・その通りだが・・・」




「ですが、その・・・もし良ければ、あの私の・・・騎士に・・・なっていただけないかと?・・・」



「騎士?」



俺は尋ねる。

どういうことだろう。



「す、すみません。実は教皇様には近衛の騎士たちが居たのですが、私は、その近衛の騎士を選任しておらず・・・身辺警備に問題があると、苦情が・・・」



ロロが言う。

教皇が消えた今、

ロロの重要性は以前よりも増している。

周囲の苦情も致し方ないことだろう。




「・・・騎士、か。すまん、ロロ・・・それは出来ない」


俺は答えた。




「え、あ・・・はい。そ、うですよね・・・ごめんなさい私ったら・・・」




ロロは少し寂しそうな笑顔で言う。



「・・・魔導士に、いや人を助けられるようなカッコいい魔導士になるのが俺の夢なんだ。だから、騎士になるワケにはいかない。すまんな、せっかく声を掛けて貰ったのに」



俺はロロに謝る。



「いえ、お気になさらず!もしグレイさんがダメなら、キリカか、バロンか、その、他の誰かにお願いする予定だったので!」



「そうか?それなら助かる」



「すみません、突然変なことを。わ、私、まだ職務があるので、今日はその・・・ここで失礼しますね!おやすみなさい!」


「あ、おい!」


俺の制止も聞かずにロロは廊下を駆けて行った。


「・・・なんだってんだよ」


俺は呟き、自室に戻った。



・・・

・・




その夜。

俺の部屋にノックの音が響く。


「ん」


眠りかけていた俺は、

身体を起こしながら扉へ向かう。


「誰だ?」


俺は扉の外に向けて声を掛ける。

だが、それに対する返答は無かった。


「アリシアか?」


俺は再び尋ねる。

だがそれでも返事は返ってこなかった。





「気のせいか・・・」



俺はそう思ったが、

念のため扉の外を確認しようと鍵を開ける。


聖都に戻ってからの平和な生活に、

俺の警戒心は確実に薄れていた。



「・・・なっ!」



俺が扉を開けた瞬間、飛び込んできたのは五人。

黒づくめの装束に身を包んだ、男たちだった。


「なんだお前ら!」


俺は叫び、男たちと距離を取る。


黒づくめの男たちは顔を隠しており、

表情が読めない。



そのうちの一人が、覆面越しに声を出した。



「確保」



その言葉をきっかけに、

他の四人が一斉に飛び込んでくる。



「・・・くっ!」



完全に不意を突かれた俺は、

拳を構え応戦する。


四人は躊躇することなく、

俺に攻撃を仕掛けてくる。


明らかに素人ではない動き。

魔力を集束する時間も与えられない。


徐々に追い詰められる。


そして四人のうちの一人が放った拳を避けた瞬間、

背後から魔力の気配を感じる。



まずい。

そう思った時にはもう遅かった。




「ぐ・・・かっ・・・」


なんらかの魔法を背後から喰らった俺は、

その動きを止め、倒れる。



身体が痺れて動けない。

声も、意識すら遠のいていく、


「連れていけ」


その言葉と共に、

俺はどこかへと運ばれる。


そしてその途中で、

俺はギリギリで繋ぎとめていた意識すらも手放し、

完全に気を失った。


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