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第90話 混乱の聖都



ブルゴーに帰った俺たちを待っていたのは、

顔面蒼白になった教会関係者たちと、

聖魔騎士団の騎士たちであった。


教皇は自らの取り巻きと、

聖魔騎士団の上級騎士たちを連れ姿を消したと言う。


その行き先は誰にも分からず。

ブルゴー内部は大混乱に陥っていた。





「ロロは?」


俺はアリシアに尋ねる。


「教皇が居なくなったから、その代理に駆り出されてるわ。キリカはその補佐に」


「そうか・・・」


俺は答えた。


ここは大聖堂の部屋の中。

俺たちは客人扱いと言うことで、

客室を充てがわれていた。


「『ゼメウスの箱』の事も言う機会を逃しちゃったし、せっかくのあの子の決意が無駄になりそうね・・・」


「そうだな、なんとかしてやりたいが・・・」


アリシアが言う。

教皇が姿を消した今、

聖女まで居なくなっては流石に混乱が大きくなりすぎる。


ロロは自らの意思に反し、

聖女を続けざるを得ない状況となってしまった。


「こうなると『ゼメウスの箱』に関する件は公表を控えたほうが良いわね。もちろんロロの魔法のことも」


アリシアが言う。

俺は無言で頷いた。




「失礼します」


ノックと同時に扉を開けたのはバロンであった。


「主、お時間をいただけますか・・・?ロ、聖女がお呼びです」


「俺だけか?」


「はい。南の塔の屋上でお待ちです。時間が無いのでお早めに」


バロンはそれだけ言うと部屋から出て行った。


彼はキリカと一緒にロロのフォローをしている。

どうやらロロと同じく上流階級の出身らしく、

そのあたりの政治、事務能力には長けているそうだ



「・・・ロロが俺だけに用事。なんだろう?」


俺はアリシアに尋ねる。


「・・・知らないわ。でもあんた、あの子のこと泣かせたら殺すわよ」


アリシアが言う。

その目は笑っていなかった。


「ちょっと待て、よく分からん」


「・・・なんでそこだけはポンコツなのかしら。せっかく死んで生き返ってもそこは治らないのね」


アリシアからの辛辣な一言。

俺は意味も分からずに涙目になり、

ロロが待つ南の塔を目指すのであった。



・・・

・・



「グレイさん!」


南の塔の屋上ではロロが待っていた。

屋上には花壇が広がり、

色とりどりの花が咲いている。

よく管理が行き届いているようだ。


「大丈夫か?」


俺は尋ねる。

ロロの顔には疲労の色がはっきりと浮かんでいた。


「は、はい。大丈夫です。すみません、こんな顔で・・・」


ロロは慌てて謝罪する。


「い、いや、そんなことはないけど。・・・大変そうだな」


俺は尋ねた。


「はい。教皇様の行方は分からず、皆が戸惑っています。今ここで私が聖女を辞める事は出来なくなってしまいました」


ロロは沈んだ表情をする。


「そう心配するな。状況が落ち着いたら改めて準備すればいい。長い人生には決断とタイミングが合わない事もある・・・」


俺は言う。

ロロは俺の言葉を聞いて、

何かを考えている様子だった。


「そう・・・ですか。そうですよね。うん、そうだ。そうします」


ロロはそう言って笑う。

無理に笑っているような気がしないでもないが、

俺は何も言わなかった。



「それで、どうした?こんな所に呼び出して」


俺はロロに尋ねた。

そう言えば甦ってから彼女と二人で話すのはこれが初めてだ。


ロロは何かを考えているようで、

ゆっくりと俺に視線を向けた。





「・・・『ゼメウスの箱』、に関することをお話したくて」


ロロは言った。


「・・・ちょうどいい。俺もそれを聞きたいと思っていた」


俺は答えた。



七つあるうちの発見済みの『ゼメウスの箱』は4つ。


北の大陸の黒の箱、

南の大陸の緑の箱、

ロロが見つけた白の箱、

そして俺が開けた灰色の箱だ。


そのうち開封済みとされているのは二つ。

白の箱と、灰色の箱。


つまり俺と彼女は長い歴史上で、

唯一『ゼメウスの箱』を開けた人間と言える。




「グレイさんも、『ゼメウスの箱』を開けた・・・んですよね?」


ロロが恐る恐る、と言った様子で尋ねた。


「・・・そうだ。俺が見つけたのは灰色の箱。西の大陸のダンジョンでたまたま見つけた」


俺は答える。

もはや彼女に隠し事は不要だろう。


「・・・やはり、そうですか。え、と・・・灰色と言うのは?」


ロロは尋ねる。


「俺は・・・元々魔法の適性を持たないと言われている『灰色』だったんだ。」


俺は正直に言った。


「『灰色』・・・?グレイさんほどの魔導士がですか?」


ロロが驚いたように尋ねる。



驚くのも当然だ。

灰色の適性を持つものは、

魔法が使えない、と言うのが魔導士の常識だ。

現に俺も今は黒魔導士と名乗っている。



「・・・そうだ。それどころか、こんな若い姿をしているがこれもゼメウスの魔法で若返ったに過ぎない」


「若返、り・・・?」


ロロは更に驚く。


「・・・俺が灰色の箱から手に入れたのは『時間魔法』。時の流れを操ることの出来る力なんだ」


「『時間魔法』・・・そうだったんですね・・・だから・・・」


ロロはそう呟いた。

彼女の中でいろいろなことが納得されているようだ。


「そうだ。まぁ俺はそこまで自由に使いこなせていないがな。だからまだ修業中だ」


俺は答えた。



冷静に考えると、

俺が話している内容は常識を外れた内容が多い。


それこそお互いに『箱』を開けたと言う共通点がなければ、

こんな話、にわかには信じられないだろう。


果たしてロロには伝わっているだろうかと彼女を窺うと、

彼女はなにやらブツブツと呟き、

自分の中で俺の話を色々と噛み砕いて理解しようと務めているように見えた。




「・・・あの、細かい話ですが白いゴブリンを呼び出した魔法は?あれはどちらかと言うと私の生命魔法に近しい魔法だと思うのですが」


ロロが尋ねる。

細かいが適切な質問だ。

たしかにあれは時間魔法ではない。


この質問が出てくるということは、

俺の話を理解はしてくれているということだろう。


俺は少し安心して、

彼女の質問に答えた。


「・・・実は灰色の魔導士は適性がないのではなく、黒魔法と白魔法を両方使える適性なんだ。俺はそれをゼメウスに弟子入りすることで手に入れた」


俺は答えた。


それに対し、

ロロから返って来たのは意外な部分での反応であった。


「・・・大魔導ゼメウスに弟子入りですか・・・?一体どういうことなのでしょうか」


その表情は疑問に満ちている。

俺は違和感を感じてロロに質問した。


「・・・ちょっと待ってくれ。箱の中で彼と出会わなかったか?あの中には少年時代の彼の精神体が封じられていたはずだが・・・」


今度は俺がロロに尋ねる。


箱を開けているのであれば、

ゼメウスと話をしているはずだ。



「・・・会ってません。私は箱に触れ、気が付いたら生命魔法と箱に関する知識を習得していました・・・グレイさんは違うんですか?」


ロロが答える。

俺の狼狽する姿に彼女の方も不安を感じたようだ。


「どういうことだ・・・」


俺は呟くように言った。

ロロはゼメウスとは話していない。


俺はてっきり『ゼメウスの箱』はそういう機能の道具なのだと思っていたが、

違うのだろうか。


「・・・分かりません。私とグレイさんだけでは答え合わせのしようがありませんし・・・」


ロロは言う。

たしかに彼女の言うとおりだ。


俺と彼女の状況が異なるのであれば、

どちらが例外だったのかも判別することが出来ない。

俺はなんとも気味の悪い違和感を胸の中に残した。







「・・・キリカ達と相談し、しばらく『ゼメウスの箱』と、生命魔法に関する事は隠すことにしました」


ロロが言う。

予定では『ゼメウスの箱』の件を公表し、

()()()聖女を辞めると言う話の流れにするつもりだった。


「それがいい。今の状況では余計な混乱を招くだけだ」


俺は答える。


「はい。なのでグレイさんの事も秘密にします。アリシアさんとシルバさんは勘付いているご様子でしたが・・・」


ロロが言う。


俺の方についてはロロの聖女の件とは関係がないので、

むしろ隠してもらったほうが助かる。


ただ魔導士としては、

いつか『灰色の箱』の発見を公表する責任があるとは思う。

だが、それは別に今でなくてもいいだろう。


それより気になったのは、

アリシアとシルバについてだ。


たしかに彼らの前では何度も『時間魔法』を使用している。

気がつかれる要素も多いだろう。


「アリシアが・・・そうか」


俺は呟く。


「そうです。もしもアリシアさんに話してないのであれば、早く話してあげてください。あの方は本当に健気に、グレイさんが話してくれるのを待っていますよ・・・」


ロロが心配そうな表情で言う。

たしかに彼女の言うとおりだ。


道中で彼女に話す約束はしたが、

なんやかんやあって完全にタイミングを逸してしまっていた。


ゴブリンとの戦いでも、

彼女に話していれば協力を頼めるシーンがいくつもあった。


「そうか・・・そうだよな・・・」


俺はロロのアドバイスを素直に聞き入れ、

アリシアに全てを話す決意をする。





「・・・それから、もう一つだけ。いいでしょうか?」


ロロが言う。


「どうした?」


俺が尋ねるとロロは少し顔を紅くした。


「あ、いえ、その・・・グレイさんは、箱を開ける条件についてはご存知なのでしょうか」


ロロは尋ねる。


「ああ。箱を開けられるのは箱が求める適正と人材像に一致する人物だけ、だったか。灰色の箱が求めていたのは『夢』だった。」


俺は答える。


「・・・夢、ですか。・・・なんだかグレイさんらしいですね」


ロロは少し安心したような顔で笑う。


俺はその表情が気になり、

彼女に尋ねた。


「・・・白の箱はどうだったんだ?俺も適性的には開けられたかも知れないが、ゼメウスに箱の求める人物像じゃないと言われてな・・・」


「・・・適性じゃない。アハハハハ、それもまたグレイさんらしいですね」


俺の言葉にロロが笑う。


「ど、どういうことだ?」


俺は戸惑い尋ねる。

何か変なことを言ったのだろうか。


「えっと・・・知りたいですか?なんだか恥ずかしいです」


ロロは悪戯っぽい笑顔で焦らす。

少し楽しんでいる様子だ。


「頼む」


俺は素直に懇願した。

ここまできてそれを隠されたら生殺しだ。




ロロは俺に向きなおし、

コホンと咳払いをしてから話し始める。


「・・・『白の箱』が教えてくれました。命の魔法を開けるのに必要なのは、『愛』。他人を愛し、慈しむことの出来る人間だけが、箱を開けることが出来るんだって」


ロロはそう言って恥ずかしそうに笑った。


「愛・・・」


「そうです。なんだか恥ずかしいですが、箱が、偉大な大魔導ゼメウスが私のことを肯定してくれたような気がして勇気が湧きました。」


ロロは嬉しそうに笑う。

たしかに彼女は愛に溢れた人物だ。

箱が求める人材にはぴったりだろう。


「・・・そう、だったんだな」


俺は答えた。


そこで気が付く。

だが、ちょっと待てよ。

条件が愛で、俺がそれを開けられなかったと言うことは

俺が愛を持ってない、と言うつもりだろうか。


ゼメウスめ、完全に俺を見誤ったな。

どう考えても俺は愛情に溢れた人間だろ。


俺が一人でブツブツ言っている横で、

ロロは一人顔を赤く染め、

そして大きく深呼吸をしていた。



そしてロロは俺の目を正面から見つめる。


「・・・箱に後押しされてしまったので、勇気を持って伝えますね」


「なにをだ?」


俺は尋ねる。


「私、グレイさんが好きです。大好きなんです」


ロロはゆっくりと、

だがはっきりとした言葉で、

答えた。


「え」


俺は間の抜けた返事をしてしまう。

いや、だって。


「・・・え、ってなんですか。え、って。本当にグレイさんは鈍感です」


「いや、だって俺は爺・・・ではないか。えっと、その・・・」


俺はロロの思いがけない言葉に、

しどろもどろになる。


「もう。だから箱に選ばれなかったんですよ!グレイさんはご自分の事をまるで分かってません」


「ご、ごめんなさい・・・」


何故だかロロに怒られ、俺は素直に謝った。


たしかに元々、

人との関わりをほとんど持たない老人だったから、

恋愛なんて感情は消えていた。


あ、でも待てよ。

同じ老人でもシルバはもっと愛に溢れている感じはあるな。

となると、ロロの言う通り俺が、そうなだけか。


「ううむ・・・」


俺は唸り声をあげて考える。

たしかに箱に選ばれなかったのも、当然なのかもしれない。


そんな俺を見て、ロロはため息をついた。


「・・・とにかく。私は今は聖女です。グレイさんに答えを求められる立場ではありませんが・・・聖女を辞めた時には真っ先に答えをいただきに行きますよ。・・・幸い、グレイさんの反応を見ていれば恋敵たちとは対等の立場だと言うことが分かりましたから・・・」


「こ、恋敵・・・」


「そうです。もっと周りに目を向けてください。グレイさんは、その・・・素敵な方なんですから!」


ロロが顔を真っ赤にして言う。

そのあまりのストレートな愛情表現に、

思わず俺も照れてしまう。


「あ、いや・・・ありがとう・・・そんなこと言われたの初めてだったから・・・素直に嬉しい・・・でも、俺そういうの考えた事もなくて・・・」


俺は素直に答えた。


「・・・わかってます。ちゃんとグレイさんが自分と向き合えるまで待ちますよ。返事を待たせるんですから、私のお願い、一つくらい聞いて貰いますけどね」


ロロが笑う。



「・・・俺に出来る事があれば」


俺は答える。


「本当ですか?約束ですよ?」


ロロは真剣な表情で俺に迫る。


「あ、ああ・・・」


俺は返事をした。

初めにあった時より、

随分と強くなったもんだ、

と俺は思った。


誰かに肯定されると言うのは、

これほどまでに勇気を与えるのか。


俺はそう思った。

結局、その後も俺はロロにチクチクと苛められ、

その度に謝罪をした。


自らの愚鈍さを謝罪すると言うのは、

なかなか自己肯定感が破壊されるものだ。


やがてロロは時間が来てしまったと言い、

残念そうに仕事に戻っていった。


「さっきの約束、忘れないでくださいね。飛びきりのお願いを考えておきますので」


ロロはそう言って笑った。

俺はそれに笑顔で答える。








公務に戻ったロロをバロンが訪ねる。


バロンはロロが何をグレイに話すつもりかを理解していたので、

その様子見も兼ねている。


だが、バロンは扉を開けてロロを見た途端。

部屋に入るのを躊躇する。


そこではロロがにやけた顔をしながら、

先程の数倍以上のペースで公務を片付けている姿があった。



「フフフフ。大魔導ゼメウスが認めた私の愛、グレイさんに必ず手に入れて見せます。負けません・・・負けませんよ・・・アリシアさん。フフ、フフフフ」



バロンはロロには声を掛けず、

そっと部屋を出た。



「強くなったな・・・ロロ」



バロンは弱気な幼なじみの成長に、

優しく微笑むのであった。


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