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第89話 決意



俺が目を開けると、そこは暗い部屋の中。

だが目の前に人の顔があり驚いた。


「ア、アリシア・・・?」


目の前にいたのはアリシアであった。

彼女は目に涙を浮かべ俺の方を見ている。


「アリシア?・・・じゃないわよ・・・あんた、どれだけ心配させるのよ・・・」


アリシアが俺を睨む。


「ま、待てアリシア。これには深ーいわけが―――――――――」


俺が言い終わる前に、

アリシアが俺に抱きつく。

そして消えそうな声で呟いた。


「・・・でも・・・よかった・・・本当に・・・」


見れば、アリシアの目から大粒の涙が流れている。

俺はそっと彼女の背中を撫でた。


「・・・すまん、アリシア。心配かけた」


俺は彼女にそう言った。

するとアリシアはゆっくりと顔を上げて俺を見た。


「・・・私だけじゃないわ・・・あの子にもちゃんと謝りなさい・・・」


アリシアが涙声で言う。


「・・・え?・・・」


と俺が言うと同時に、

もうひとり俺の胸に飛び込んできた。


「グレイさん!!」


「ロ、ロロ!!」


俺は抱きつかれ思わず叫んだ。

一緒に究極(アルティメット)ゴブリンを討伐したロロ。

どうやら無事な様子で安心した。


だが彼女がなぜ、俺に抱きついてくるのだろうか。


「私・・・私・・・本当に心配して・・・」


見ればロロも涙を流している。


「すまなかった・・・ありがとうロロ・・・」


そう言って俺は彼女の頭を撫でた。

その瞬間、ロロは顔を赤くして「はうぅ」といううめき声を漏らした。



「・・・ここは?」


俺は起きあがあり、アリシアに尋ねる。


「ノワール村よ。あなたの体はここに運び込まれていたの」


「・・・そうか」


俺は徐々に状況を思い出す。


「グレイさん、私、その・・・」


ロロが何か言いたそうに口ごもる。

どうしたと言うのだろう。


「待ちなさい、ロロ。そこから先はみんなで話したほうが早いわ・・・」


アリシアがロロを制する。


「アリシアさん・・・」


俺もアリシアに視線を向ける。


「それに言いたいことなら私にだってたくさんあるんだから・・・」


アリシアが呟く。


「ん?なんだ?」


「な、何でもないわよ!」


アリシアは何故か顔を紅くして明後日の方を向いた。


なんとなく変な雰囲気になって、

俺はポリポリと頭を書いた。

ロロはその場でオロオロとしていた。


「・・・とにかく二人共、本当にありがとう。状況はよく理解している。それに二人の他に礼を言わないといけない相手がいるってこともな」


俺は言った。

アリシアは不思議そうに振り向いた。


「・・・お礼を言う相手?誰かしら・・・シルバ、バロン・・・それともキリカ?」


俺は首を横に振った。


「・・・いや、違う。俺を甦らせるために魔法を使ってくれた、聖女さんだ。ご老体にも関わらずこんな遠方までわざわざ来てくれたんだ。まずは彼女にお礼を言わないと始まらないだろ」


俺は言った。


「老・・・」


隣でロロがショックを受けている。

どうしたのだろう。


アリシアは少し気まずそうな顔をした後、

大きくため息をついた。


「半分は私のせいだけど。とりあえず貴方が何も状況を把握してないってことだけが分かったわ・・・」


「え」


アリシアにそう言われ、俺は訳がわからなくなる。


俺はそのまま二人に連れられ、密かに部屋を移動した。



・・・

・・




「・・・いやいや長く生きていますが、不死者(アンデッド)と会話するのは初めてです・・・」


「自分は北の大陸への討伐遠征の際に戦って倒したことがありますよ、シルバ殿。やつらを倒すには首を落とす必要があります」


シルバとキリカがそんな話をする。



「ちょっと!不死者(アンデッド)じゃないですよ!ちゃんと生きてます!」


俺は恐ろしい会話をしている二人に声を上げた。



「まさか死すら超越するとは・・・さすがは我が主です」


バロンはひとりでブツブツと言っている。

これは放っておけば良さそうだ。




「とにかく助けてくれてありがとうございました。・・・特にロロ。さっきは、その、すまなかった。君が聖女だと、その、知らなかったんだ」


俺は部屋の隅でイジけているロロに声を掛ける。

あの後、俺は初めてロロがあの聖女だと言うことを知った。

知らなかったとは言えかなり不敬なことをあれやこれやとしてしまった気がする。



「・・・ぜ、全然大丈夫ですよ。そもそも私が名乗らなかっただけですし・・・グレイさんの為を思って禁じられた魔法まで使ったのに、まさか私を老婆だと思っていたなんて、そんなこと何も気にして・・・」


ロロはめちゃくちゃ気にしていた。


俺は助けを求めるべくアリシアに視線を送る。


だがアリシアは、

自分でなんとかしなさいと言わんばかりに視線を外した。





俺が困り果てていると、

シルバが口を開いてくれた。


「・・・これからどうするつもりですか?ロロ様」


すると、ロロがようやく真剣な表情で顔を上げた。


「・・・分かっています。責任は取らないといけません」


ロロは答えた。


「責任?」


俺は尋ねた。

ロロに一体、どのような責任があるというのだろう。


だがシルバもキリカも暗い顔をして、黙り込んでいた。

そこで口を開いたのは、アリシアであった。



「・・・ロロは禁忌の魔法を使ったわ。これから聖女として信仰を集めることは難しいでしょうね」


「・・・なっ」


俺は驚き、ロロを見る。

ロロは困ったような笑顔で俺を見た。


「どういうことだ・・・なんで、そんな・・・」


俺はロロに尋ねる。


なぜそこまでして助ける必要があった。


その言葉が喉元まで出掛かったが、

それを俺が言ってはいけない気がしてぐっと言葉を飲み込んだ。




「・・・グレイさんへの想いが私を動かしたのは間違いありません。でもそれ以上に、あの時、貴方を助けられるのはが私だけだったから助けたんです。きっと同じ立場なら、アリシアさんも同じことをしたはずです。それも躊躇なく」


「だが・・・」


「いいんです!・・・それに元々、考えていたことですから。むしろ決心がつきました」


ロロはそう言って笑う。


「・・・考えていたこと、とはなんですか?」


シルバが尋ねた。


「・・・私、聖女を辞めます。」


「ほ、本気ですか。ロロ様。あなたは、まだ聖女になって日が浅い。それに後継者だってまだ育っていません・・・」


キリカが言う。


「・・・えぇ本気です。それにキリカ、どのみち教皇の傀儡となるのであれば誰が聖女を務めても同じだと思私は思うのです」


ロロは言った。

現教皇は野心家の支配者だ。

彼女の言うことにも一理ある。


ロロの強い視線からは、

これが単なる思い付きではなく、

以前から相応の意思があったであろうことが窺える。


だがしかし、本当にそれでいいのだろうか。







「他に手段はないのか・・・?」


静まり返った室内で、

俺は尋ねる。


「・・・もちろんあると思います。ですが私はこの道を選んだんです。聖女じゃなくても、いえむしろ聖女じゃない方が大陸の人々のために色々な事が出来るんじゃないか、って」


ロロが答える。


たしかに聖女という肩書きを失っても、

彼女が東の大陸最高の回復術士であることには間違いない。


それに加えて、今は白の箱から授かった『生命魔法』と言う超絶魔法もある。

救える命は計り知れないだろう。


もしこのまま教皇に囚われていれば、

それらを救う機会は決して訪れない。




「意志は固いようね。良いじゃない、私は応援するわよ」


アリシアが言う。

ロロはアリシアを嬉しそうに見た。


「・・・アリシアさん、ありがとうございます。こうして決心が付いたのは半分はアリシアさんのお陰です」


「わ、私?」


「そうです。私は貴女みたいに自分の意思で人生を歩けるようになりたいと思ったんです・・・」


ロロは言った。

持ち上げあられたアリシアは顔を真っ赤にしている。


ロロはそんなアリシアを笑顔で見つめていた。


その姿は俺の中のロロのイメージよりも、

かなり力強く成長したように思えた。




「しかし、これは大変なことになりますな・・・」


シルバが呟く。


「・・・私は今から頭が痛いです。教皇がどんな反応をすることやら」


キリカが答えた。


「『ゼメウスの箱』の発見は3つ目。そして開封されたのは歴史上で初めて・・・それに加えて死者を甦らせる魔法となると・・・」


シルバが唸る。


「世界中を騒がす事態になります。出来るだけ、教皇にはバレないように。そして公にする情報は入念に選ぶ必要があるでしょうね」


キリカがため息をついた。

その夜の話し合いは結論も出ずに終わる。


ノワールの夜は不安を抱えたまま更けていった。



・・・

・・



結局俺たちは村の撤収を騎士たちに任せ、

ブルゴーへと戻ることにした。


ゴブリン達との長い戦いが終わった。

その安堵から俺は、

帰りの馬車の中を殆ど眠って過ごす事になる。


そしてその二日後。


往路の半分以下の短い旅程で、

俺たちはブルゴに到着することが出来た。


そこで俺たちを待っていたのは、

せっかくのロロの決意に水を差すような衝撃的な知らせであった。


聖地ブルゴーから、教皇が忽然と姿を消したのだ。


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