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第87話 師から弟子へ


暗く深い闇の中。


俺の心はどこまでも沈み、


今や闇と同化しかけていた。


思考する時間も減ってきたように思う。


今では思い出したように、


自分の存在を再認識するのみ。


それもいつまで続くだろうか。



長い放浪の末に、


俺は気が付いていた。


これが死なのだ、と。


永遠の放浪と、


無限の闇。


いつしか消えていく自我。



自分の今いるこの場所が、


つまりは死そのものなのだ、と。




俺は死んだ。


死者は考えない。


そろそろ楽になろう。


そして俺はいつからか俺は考えることをやめた。


いや、やめようとした。


だがその度に、


俺の脳裏によぎる何かが、


楽になることを、


思考を止めることを阻害した。





「ヒナタにもう一度会いたかったな」


かつての仲間。

今は別れた彼女との再会を、俺はまだ果たせていない。





「アリシアには結局、本当のこと言えなかったな」


時が来たら真実を話そうと決めた。

結局その時が来る前に俺は死を迎えた。

俺は彼女に本当のことを何も話せていない。


そのほかにも幾つものことが脳裏によぎり、

俺は考えることを止めることが出来なかった。




そして俺はそのうちにあることに気が付く。


「そうか・・・これが未練か・・・・」


俺は久しぶりに声を出し呟く。


後ろ髪引かれる想い。


俺にはまだまだやりたいことが、たくさんあったのだ。

俺は、戻りたい、生きていたいと強く願った。





その時、どこまでも続く闇に一筋の光が差す。


俺は思わずその光の方を凝視した。

眩しくて目が眩む。


だが俺はそれにも構わず、

その光を凝視した。


やがて目が光に慣れてくる。


「・・あ・・・ああ・・・」


そして俺はその光の正体に気がつき、声をあげる。

自然と体が震える。


その光に照らされ、

俺は久しぶりに自らの身体を見ることになった。


俺はここにいる、まだ存在している。

そのことが嬉しくて自然と涙がこぼれた。


そこに現れ、俺を照らしたのは扉であった。



かつてエシュゾ魔導学院跡の谷底で見たのと同じ。


ダンジョンの入口に存在する、

魔法じかけの扉がそこにあった。



そして、その扉はギギギと音を立てて、

ゆっくりと開き始める。


そしてその扉の向こうから、

見知った顔が現れる。



「・・・やぁ、久しぶり。また会えて良かった」



そこに現れたのは、少年の姿をしたゼメウスであった。


俺は流れる涙を止めることが出来なかった。



・・・

・・



「・・・落ち着いたかい?」


ゼメウスが尋ねる。

俺は頷くことでそれに応えた。


ここはかつてゼメウスと話をした、

『時の回廊』の中の部屋だ。


「・・・まずはお礼を言わないとだね。君のお陰で助かったよ。本当にありがとう」


ゼメウスが言う。

俺はパクパクと口を動かす。

いつの間にか喉が枯れていた。




「・・・俺は・・・すでに死んでいたんだな・・・」


俺は一番気になっていた事をゼメウス尋ねた。



「ん?ああ、そうだよ。君は君が言ったとおり、エシュゾ魔導学院の石橋の崩落に巻き込まれ、そして死んだんだ。・・・谷底に落ちて無傷なわけないだろう」


そう言ってゼメウスが笑う。


「それも・・・そうだ、な」


俺はその言葉に妙に納得してしまう。


「・・・この『時の回廊』は生者は入れない場所なのさ。あの世とこの世の狭間にあるからね。本当は不死鳥の羽か、双頭龍の鱗を使うことで初めて入ることが出来るんだけど・・・君はそれをすっ飛ばして入ってきてしまったんだ」


「・・・俺が実際に死んだから、か」


「そう。それと前に言ったように君の中の時間魔法が鍵になってね。いや本当に予想外だったよ」



ゼメウスが笑う。





「・・・もう分かっているかな?白魔法の真髄がどういう魔法か」


ゼメウスは尋ねた。

俺は頷く。


「・・・以前あんたが言っていただろ。白魔法の真髄とは、神が定めし生命への干渉だ、と」


「うん、言ったね」


「・・・そこから導かれる回答はひとつだけだ。『白の箱』に残された白魔法の真髄。それは『死者蘇生』だな?」


俺は言った。


「うん、正解だ。僕はそれを生命魔法と読んでいる。今回は簡単だったね。ヒントもたくさんあったし」


「あぁ、なんせ自分で一度体験しているからな。・・・残り少ない魔力で、俺を生き返らせてくれてありがとうな」


俺は礼を言う。


「・・・ふふふ、礼を言われるほどの事じゃないよ。君には箱を探して貰いたかったし。・・・あの時の僕では魔力不足だったから不完全な蘇生だったけどね。でも君は限られた時間の中で見事目的を達してくれた」


ゼメウスは答えた。


「・・・いや、結局最後はグダグダだったよ。でもあんたがこうして戻れたと言う事は箱は開いたんだな」


俺は尋ねた。


「あぁ、そうだ。聖女の手によってね」


「聖女?」


俺は尋ねる。


「なんだ、知らないの?・・・彼女は、うん。なかなか面白い人だね。まさか白魔法の真髄を今代の聖女に渡すことになるとは思わなかった」


「・・・どういうことだ?」


俺は尋ねる。


「もう分かってると思うけど、七つの箱にはそれぞれ七つの禁忌に属する魔法を残してある」


ゼメウスが言う。


「・・・たぶん、いやおそらくそうだろうとは思っていた」


「うん、だろうね。君は変なところで勘が良いから」


ゼメウスが言う。

同じようなことを灰色のゼメウスにも言われた事がある。


「聖女が魔力の神が定めた禁忌に触れる魔法を覚えるなんて・・・皮肉なものだよね」


ゼメウスが言う。

確かにその通りだ。





「これで俺の役目も終わりだな」


俺はゼメウスに言う。


「そうだね。灰色の僕とこの僕からの依頼を達成してくれたし、君には感謝しかない」


ゼメウスはそう言って頭を下げた。

憎まれ口の多い彼だが、

どうやら本当に感謝してくれているようだ。


「いや、あんたの弟子になれて良かったよ。少しの間だったが、憧れの魔導士になれたしな。さぁ、この後はどうすればいい?やっぱりあれか?光に包まれて俺は消えていくのを待つのか?」


俺はそう言って笑う。

だがゼメウスは不思議そうな顔で俺を見た。


「・・・なに言ってるの?」


ゼメウスが困惑した表情で言う。


「え?」


俺は声を上げる。


「さっき言ったろ?聖女に白魔法の真髄を渡してあるって」


ゼメウスが言う。


「・・・生命魔法、か?だが聖女が、自ら七つの禁忌を破るわけが・・・」


「うん、僕もそう思った。けど彼女、君を救えるって分かったら嬉々として習得してたよ。・・・むしろ急かされて恐かったくらいだよ」


その言葉を聞いて驚く。

俺にはよく理解できなかった。

聖女とは面識はないはずだが。



「とにかく、間もなく君は生き返る。そしたらここから出られるよ」


ゼメウスが言う。


「そ、そうなのか・・・なんか腑に落ちないけど」


俺は戸惑いながらも、ひとまずゼメウスの言うことを信じることにした。




「君は、これからどうするんだい?」


「これから・・・?」


「そうさ。灰色の箱を開けて、白の箱も手に入れた。この後はどうするつもり?」


ゼメウスは尋ねる。


「・・・特に考えたことなかったな。魔導士になってからはとにかくあんたとの約束を果たすことしか頭になったし・・・」


俺は考え、正直に応えた。


「・・・そう、か。でもせっかく人生をやり直しているんだ。やりたい事をやらないと損だよ?」


ゼメウスがため息をついて言う。


「そうだな・・・あぁ、でも。ある意味では今、この瞬間がやりたい事をすでにやっている状態なのかも知れないな」


俺は答える。


「どういうことだい?」


「ん、いや。俺の夢って、魔導士になる事だったからな。こうして魔導士として魔法を使って、活動して、不思議なことや見たことないものに出会う・・・それが出来ているうちは俺の夢は叶い続けてるってことだな」



俺は呟くように言った。

ゼメウスは驚いたような顔をしている。



「・・・はは、ごめん。なんか同じような言葉を言っていた人を知っているからさ。でもそうか、そうなんだね・・・」


ゼメウスは優しい顔で俺に微笑んだ。


「ああ。だからあんたには感謝してる。若返らせてもらうばかりじゃなく、今度は生き返らせて貰うんだからな。またチャンスを貰ってしまった気分だ」


「はは。それはいいね。ぜひ深く感謝してくれよな」


ゼメウスは笑った。





やがて――――――



「お、なんだ、これ・・・」


俺の身体を白い靄のようなものが包む。


「始まったようだね」


ゼメウスが答える。


「・・・ホントに生き返るんだな。・・・ゼメウス、色々とありがとう」


「こちらこそだよ」


俺とゼメウスは互いの手を強く握った。


「最後に師匠から弟子に、一つアドバイス。いや、オススメかな、をしてみてもいいかい?」


ゼメウスは尋ねた。


「アドバイス?それはむしろありがたい話だ。なんだ?」


俺は尋ねた。


「・・・折角、東の大陸に来たんだ。もし目的地が無いなら『図書館迷宮』に行ってみるといい」


「『図書館迷宮』?あの有名なダンジョンか?」


俺は尋ねる。


「そう。それさ。あそこは良いよ。魔導士にとっては夢のような場所だ。君も気に入ると思う。そしてそこに行ったら、ぜひ『永遠の挑戦者』と言う本を探して読んでみて欲しい。あれは良い本だから」


「『永遠の挑戦者』・・・聞いたことのない本だな」


「ふふ、このゼメウスのオススメだから期待してくれ」


「わかった」


俺が了承すると、俺の身体を包む白靄の量が増える。

それに伴いあれだけ冷え切っていた身体が徐々に温まるのを感じた。


「では、またいずれ会おう」


「ああ、ありがとう。ゼメウス」


俺は返事をする。

それと同時に意識が薄れていった。




「・・・我が弟子に、魔力の神の加護があらんことを・・・」


ゼメウスの声が聞こえる。


俺の意識はそこで途切れた。


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