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第86話 呼応



「嘘でしょ・・・こんな・・・」


アリシアは目の前の物の存在に眩暈を覚えた。

それは純白の箱。


「まさか『ゼメウスの箱』だって言うの?これが・・・?」


アリシアは呟いた。


こじんまりとした小さな箱である。

装飾もなにもなく、シンプルな六面体。

これが、かの『ゼメウスの箱』と言うのは、

いささか寂しい気もする。


また魔力的な存在感も希薄であり、

アリシアは未だに半信半疑であった。


「わ、私にはただの箱に見えます・・・」


ロロが呟く。


手に入れた張本人はそれと気が付かずにここまで運んできたのだ。

究極(アルティメット)ゴブリンが飲みこんだ、

少しレアなアイテム、位の感覚しかなかった。



「・・・ですが状況から見て可能性は高いかと。もしも本当ならば、歴史的な発見と言えます・・・」


シルバが言う。


現在発見されている『ゼメウスの箱』は二つ。

南の大陸の『緑の箱』と、北の大陸の『黒の箱』。

どちらもそれぞれエルフと帝国が厳重に保管している。


長い魔道士の歴史を見ても、

七つあると言われる『ゼメウスの箱』の内、

たった二つしか発見できていないのだ。

もしも三つ目が見つかったとなれば、

大陸を揺るがす大ニュースとなるだろう。



「これ、開くのかしら・・・」



アリシアが呟いた。



発見されている二つの箱。

その二つの箱も発見されて以降、

開封することが出来ていないと言われている。

最先端の魔導技術でも歯が立たず、

北の帝国では、箱の開封のために

さまざまな実験が行われているそうだ。




「・・・開けてみる、か」



バロンが言う。

その一言にアリシアとロロが身構える。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

「待ちなさい、バロン!」


慌ててバロンを止める二人。

見ればシルバも身を乗り出していた。


鬼が出るか蛇が出るかも分からない。

下手をすると、

それりよりも悪いものが出てくる可能性があるのだ。

もう少し心の準備を、と言うのが本音であった。



「開けないのか?」


「あ、あんたグイグイ来るわね」


「もしこの箱に我が主の手掛かりが入っているのであれば、開けるまでです。アリシア様」


バロンが言う。


「そうなんだけど・・・うーん、どうしようかしら」


アリシアが言う。


「・・・とりあえず開けてみませんか?その、あまり邪悪なものは感じませんし・・・」


「そ、そうね・・・」


ロロが言う。

二人に促されアリシアが箱に手を伸ばす。


そして箱を両手で持つと、

開閉する場所を探す。

なかなか取っ掛かりが見つからず、

アリシアは難儀する。


すると、その時―――――



「キャ!!!!!」



バチンと音が鳴って、

アリシアの身体が何かに弾かれた様に、

吹き飛ばされた。



「アリシア殿!」

「アリシア様っ!」


完全に宙に浮いていたアリシアの身体を

シルバが咄嗟に抱き留める。


二人はもつれる様に床へと落ちた。


「・・・いたたた。なんなのよ、今の」


アリシアが身体を起こしながら言う。

ただ身体が弾かれただけで、

ダメージはないようだ。


だがそもそも、

Sクラス魔道士のアリシアが弾かれたと言う事自体が問題だった。


「アリシア殿を吹き飛ばすとは・・・なんたる魔力・・・」


シルバが言う。


「・・・大丈夫、怪我はないわ。うん、よく分からないけど、箱から拒否された感じがしたわ。開けるのは難しいかもしれない」


アリシアが言う。


「なにか開ける条件があるのでしょうか」


ロロが呟いた。

アリシアほどの魔導士で開けられないと言うのならば、

誰が開けられるのだろうか。

ロロがはそう思った。



「分からない。当たり前だけど一筋縄じゃいかなそうね・・・」


一同は箱を前にただ沈黙するしかなかった。



・・・

・・




「・・・あのこれ、飲む、ます?」


アリシアが言う。

ちぐはぐな台詞にロロは思わず笑ってしまう。


「・・・フフフ、アリシアさん!無理に敬語は要らないですよ!」


その言葉にアリシアは安堵する。


「・・・ごめんね。なんかロロって聖女って感じがしなくて」


アリシアはカップに入ったお茶を渡す。

二人は夕食後に村の片隅にあるかがり火の前に座っていた。


「・・ハハハ、聖女らしく、ないですかね?」


ロロは笑って尋ねる。


「あ、ごめん!そうじゃなくて、近寄りやすくて可愛いって意味よ!」


アリシアは慌てて弁解する。


「い!いいんです、慣れてますから」


そう言ってロロは笑った。


「もう!そうじゃないのに!少しは話を聞きなさいよ!」


アリシアはそう言ってロロに詰め寄る。


ロロはそれがおかしくて笑い出す。

アリシアはなぜ笑われているのかもわからず、

気が付けばアリシア自身も笑っていた。




「・・・ここまで大変だったでしょ?よくたどり着けたわね」


アリシアが言う。


「いえ、私なんてバロンやグレイさんに守ってもらうばかりでしたから。アリシアさんの戦いに比べたら到底・・・」


ロロが言う。


「戦いが本職じゃないんだから当たり前よ。それにやっぱり、聖女はすごいなって改めて思ったわ」


「私が、すごい・・・ですか?」


ロロが尋ねる。


「そうよ。貴女は気が付いてないかもだけど、騎士たちは貴女が来たっていうだけで活気づいているわ。東の大陸の人にとって、貴女はやはり大事な存在なのね」


「そんな・・・」


「それに聖女の役目だって立派に果たしてるじゃない。食事のあと、救護所のある方へ向かってたの見たわよ?傷付いた騎士たちを癒しに言ったんでしょ?」


ロロはアリシアがそんなところまで見ていたことに驚いた。


「・・・あ、ありがとうございます」


ロロが顔を紅潮させて答える。

憧れの女性であるアリシアにそう言われて嬉しくないわけがなかった。


「私も・・・」


「え?」


「アリシアさんとは他人な気がしないですよ」


ロロが言う。


「・・・あらあら、それは慣れ慣れしいって意味かしら?聖女様?」


アリシアが睨む。


「い、いえ!そんなつもりでは・・・」


ロロが慌てて弁解する。


「なんてね。少しは疑いなさいよ。冗談よ。」


「・・・嘘だったんですか?ひどい!」


「人を信じすぎないことね。貴女みたいな良い子はすぐに騙されるわよ」


「ま、魔力の神はまずは人を信じなさい、と仰いました!」


「そう。そしたら魔力の神様も箱入りだったのね」


アリシアはそう言い放つ。

東の大陸の聖女に向かいこのようなことを言えるうのはアリシアぐらいだろう。

だが、そのことが逆にロロの心を打った。



「・・・アリシアさんは不思議な方です」


「私が!?」


アリシアは声を上げる。


「そうですよ!私アリシアさんみたいな方と話したことありません。小さい頃から私は聖女見習いでしたので、みんな結局はそのように私を扱いますから」


ロロがため息をついた。


「・・・そう、だったのね」


アリシアはロロの気持ちはわからなかったが、

ロロの立場なら理解できるような気がした。


自分もまたSクラス魔導師<紅の風>として、

無用なレッテルを貼られることが多い。





「あの・・・不躾ですが・・・」


「なに?」


「アリシアさんはグレイさんのことがその・・・好きなんでしょうか?」


ロロの突然の質問に、

アリシアが分かりやすく狼狽える。


「な、なにを・・・」


「ごめんなさい。アリシアさんがグレイさんを心配するお姿を見ていたら、その、旅の仲間以上のお気持ちがあるのかな、と感じましたので・・・」


ロロは遠慮がちに、

けれどストレートに尋ねた。


「・・・わ、私は・・・」


「アリシアさん、顔が真っ赤ですよ」


「うるさいわねっ」


アリシアは照れ隠しに声を荒げる。


「ふふ、アリシアさんも女の子なんですね。安心しました。・・・グレイさんは渡しませんけどね」


「え、今なんて?」


「なーんでもありません」


「ちょっとロロ!言い逃げは許さないわよ」



二人はそれから夜が更けるまで、

かがり火の前で話し込んだ。



・・・

・・



「ふぅ・・・」


夜半。

ロロは充てがわれた部屋へと戻った。

憧れのアリシアと話せて、彼女の心は満ちていた。


気さくで温かいアリシアとはいい友達になれそうだ。

ロロはそう思っていた。



「グレイさん・・・」


ロロはベッドに腰掛け、自らの想い人の名前を呟く。


その時、自分の荷物の中からまた

自分を呼ぶような声が聞こえた。


ロロはその声に誘われるように、

自らの荷物を漁る。


彼女を呼んでいたのはもちろん『ゼメウスの箱』である。


「『箱』が・・・」



ロロは箱を取り出し、机の上に置く。

こうして見る箱は、

なぜか昼間よりも美しく見えた。


ロロがその理由を探していると、

あることに気がついた。


「『箱』が、光ってる・・・?」


よく見れば『ゼメウスの箱』は、

白い光を放ち、瞬いていた。

それはあの白靄を彷彿とさせる光であった



ロロはゴクリと唾を飲み、

恐る恐る箱に手を伸ばした。


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