第83話 復興
ノワール村は戦いの事後処理に追われていた。
千匹以上のゴブリンとデビルゴブリンの死体。
魔物の死体は放って置けば、
大地が腐り、草木の育たぬ死んだ大地と化してしまう。
そのため、素材をはぎ取った後は焼いておく必要があった。
通常、ゴブリンからは魔石が採れる。
ノワール村復興のためにもそれなりの金が必要だろうと、
騎士たちは丁寧にその魔石をはぎ取っていった。
不思議だったのはデビルゴブリン。
デビルゴブリンの体内には魔石と言ったものは残されておらず、
本来魔石がある場所はすかすかの空間となっていた。
最後まで気味の悪さを残し、
戦いは終わったのであった。
アリシアは、
戦いが終わってから丸1日眠り続けていた。
魔力枯渇による疲労。
彼女ほど魔力を有している者が味わうその疲労は、
誰よりも深いものであった。
傍らにはアンとダリル。
彼女らはほぼ不眠不休でアリシアの看病をしていた。
彼らにとっては、
ゴブリンの魔石よりも大事なことであった。
「ん・・・・」
翌朝。
アリシアが目を覚ます。
目を開けたそこは部屋のベッドの上。
そして傍らには椅子に座り、
折り重なるようにうたた寝をするアンとダリルの姿。
アリシアはその姿を見て、
彼女たちが自分をずっと看ていてくれたのだと察する。
「・・・ありがとう・・・」
アリシアは二人の寝顔に声を掛ける。
二人は眠りながら幸せそうな顔をしていた。
アリシアはその笑顔を見て思った。
自分たちは勝利したのだ、と。
アリシアは軽く身支度をして、
部屋を出た。
「わ・・・」
アリシアは外に出て驚いた。
あちこち壊れてはいるが、
すでに村の中にゴブリンの死体はなく、
それどころか壊れた民家などの再建が始まっていた。
なかには騎士以外の顔ぶれも多く居り、
おそらく避難していた村人が戻ってきたのだろう、
と想像することが出来た。
村はすでに復興に向け、
動き出していた。
アリシアは忙しく動く騎士たちの中に、
シルバの姿を見つける。
起きたばかりで動かない身体を動かし、
シルバに駆け寄る。
「シルバ!」
アリシアが声をかけると、
シルバが振り向いた。
「おお、アリシア殿!」
シルバが駆け寄るアリシアに対して両手を広げる。
その仕草があまりにも自然過ぎて、
アリシアは思わずシルバの腕の中に飛び込んでしまう。
シルバはアリシアを抱きしめる。
「ちょ、ちょっと・・・シルバ・・・離しなさい」
アリシアは赤面しながらシルバを離そうとする。
だがシルバはその抱きしめる両手を離そうとはしなかった。
「良かった・・・貴女が目覚めて・・・本当に良かった・・・」
どうやらアリシアは、相当深く寝ていたらしい。
シルバに心配をかけていたことが分かると、
アリシアはその抱擁を甘んじて受け入れることにした。
「・・・すごい勢いね。もう復興が始まってるなんて」
アリシアが言う。
「ええ。騎士たちが頑張ってくれています。それに村人たちも・・・人は逞しい生き物ですな」
シルバが遠くに視線を向けて言う。
「・・・キリカ達は大丈夫なのかしら?勝手にここに助けに来ちゃったんでしょ?」
「その様です。しかし今回の件で教皇とその取り巻きがしてきた事は、間違いなく明るみとなるでしょうな。少しは汚職も減ってくれれば、かつての様に騎士たちが正義に迷うことも無くなるのですが・・・」
「・・・色々と思うところがあるようね。」
「ない、と言えば嘘になります。しかし私はもう第一線を退いた身。物言う立場にはありません」
「・・・第一線ね。私よりゴブリンを倒してた癖によく言うわ。あれが退いた者の戦いとは到底信じられないわよ」
「ホホ、そうでしたか?後進の活躍の場を奪わぬよう、謙虚な戦いを心掛けていたつもりでしたが・・・」
シルバはそう言ってニヤリと笑う。
「・・・ホントに良い性格してるわね」
アリシアはため息をついた。
「・・・私たち勝ったのよね、まだ信じられないわ」
「・・・同感です。最後の瞬間、お恥ずかしながら私はもう死を覚悟しておりました」
「それは私も同じよ」
アリシアとシルバは互いに頷く。
最前線にいた二人だから分かる、絶望的な状況。
あの瞬間、間違いなくアリシアたちは敗北していた。
「・・・なんだったのかしら。あの白いゴブリン」
アリシアが言う。
「・・・分かりません。あんなものは見たことも聞いたこともありません。それに、あの地の底から響くような悲鳴のような鳴き声がまだ耳から離れません。やつらがどうして我々に味方したのかは分かりませんが、あれは間違いなく邪悪な存在でした」
「・・・そうね。でもあれがなければ私たちは死んでいた。それは間違いないわ」
「・・・仰る通りです」
シルバによるとあの戦い以降、
周辺のゴブリンの数は激減したらしい。
あれほど荒れ狂っていたゴブリン達も沈静化したと言う。
それはこの一連の事件の解決を意味するが、
事情を知らないアリシアたちには、
どうしてそうなったのか皆目見当つかない、
と言った状況であった。
「・・・そういえば一つ、心当たりがあるの」
アリシアが言う。
「心当たり、ですか?」
シルバが問う。
「うん。・・・なんでだか分からないけど、一瞬だけあの白いゴブリン達からグレイの魔力を感じたわ。だからあのゴブリンが助けに来てくれたのはグレイの仕業なんじゃないかって思うの・・・」
そう言って、アリシアは頬を染める。
シルバはそれを黙って聞いていた。
「・・・ま、まったく。どこに居るのかも分からないけど、助けにくるならちゃんと助けに来なさいって感じよね。仕方が無いから体力が戻ったらすぐに探しに行くくことにするわ。あいつには言ってやりたい事が山ほどあるんだから」
アリシアは言った。
その表情は期待に溢れている。
だが反対に、シルバの表情は重かった。
その雰囲気に、アリシアが気が付いた。
「・・・シルバ?なに?どうしたのよ、そんなに重い顔しちゃって。あ、貴方にも言ってやりたいことがあるなら貴方も一緒にグレイを探しに行く?私はそれでも構わないわよ」
アリシアは声を掛ける。
シルバはアリシアの顔をジッと見て、
何かを言おうとし、それを躊躇した。
「・・・ど、どうしたのよ・・・」
「アリシア殿・・・」
「・・・何よ、ちゃんと言い、なさいよ。」
アリシアはそのシルバの曇った表情に、
嫌な予感を感じ取る。
「落ち着いて、よく聞いてください」
シルバはアリシアの肩を掴む。
そして決心したような表情でアリシアを強く見た。
だが、その視線に反してその手は震えていた。
「・・・なによ。どうしたの?」
アリシアはそう尋ねた。
シルバがこんな表情をするのはよっぽどのことだ。
「・・・昨日、森に索敵に出ていた騎士たちから報告がありました。エシュゾ魔導学院跡から下った河口で、倒れた魔導士を見つけた、と」
シルバは苦しそうに続ける。
「・・・遺体の状況からすると落下死。全身を岩に打ち付けており、即死であったと推測されます。そして私が、私自身が責任をもってその遺体を確認をしに赴きました」
アリシアは震える。
「・・・まさか、そんな・・・」
「アリシア様。発見されたその魔導士は、グレイ殿でございました。」
アリシアは声をあげることすら出来ず、
ただその場に座り込んだ。
嬉しいことにブクマが300を突破しました。
ランキングとは無縁の本作ですが、
読んでいただいている事が本当に嬉しいです。
細々とやっていこうと思いますので、
今後ともよろしくお願いいたします。




