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第79話 究極

 

 エシュゾ魔導学院跡は、

 異様な雰囲気に包まれていた。


 巨大な遺跡群は以前に俺が来た時と変わらず、

 だが今は至る所に岩くらいの大きさの黒い肉塊が落ちていた。


 それらは怪しく鼓動しており、

 まるで生きているかの様だった。


「なんでしょう・・・これ・・・」


 ロロが気味悪そうに呟く。


 だが、俺はその肉塊の放つ魔力に覚えがあった。


「これはまさか、デビルゴブリン・・・なのか?」


 俺は自分の予感に背筋が冷たくなる。


 肉塊はここから見渡す限りでも数十個。


 それが同じ密度でエシュゾ魔導学院跡に広がっているのであれば、

 その数は数百に至るだろう。


「・・・あ、主。この数のデビルゴブリンが孵化したら太刀打ちできるものは・・・」


 バロンが呟く。

 俺は頷くことでそれを肯定した。



「・・・急ごう・・・こいつらが還る前に・・・」



 俺たちはエシュゾ魔導学院跡の中央を目指し、

 再び走り出した。




 やがて、俺たちの視界に深い谷が見え始める。

 かつて俺が落ちた深い谷だ。


 改めて俺はその深さに息を飲む。

 あそこから落ちてよく生きていたものだとつくづく思う。


 だが、その谷にたどり着く前に、

 俺たちは異様な振動を感じ歩みを止めた。



「グオオオオオオオ!!!!」



 地響きのような野太い雄たけびが聞こえる。

 だがなにやら苦しそうな咆哮だ。


「グレイさん、あそこ!!」


 ロロが叫ぶ。


 ロロのが示す方向を見ると、

 そこには今までで巨大な黒い肉塊が蠢いていた。


「あれは・・・なんだ・・・?」


 目の前にある、

 禍々しいまでの魔力を放つ肉塊。

 デビルゴブリンの魔力とも違う、

 異様な気配だ。



「あ、主!」


 バロンが叫ぶ。

 俺たちの前でそれの肉塊がひび割れ、

 中からずるりと大きく黒い身体がはいずり出してきた。


「なっ・・・」


 俺は驚き声を失う。


 肉塊から出てきたのは、

 もはやゴブリンとは言えない何か他のものであった。


 牙のような物が身体の至る所から生え、

 翼の様なものが中途半端に二対。

 瞳は五つ。

 全てがちぐはぐと言えるような姿をしていた。


 そして何よりその全身には皮膚が張っておらず、

 体表がヌメヌメとした肌が体液にまみれている。


 思わず吐き気を催すような姿。


 隣を見るとロロは口元を抑えて、

 声を上げるのを耐えていた。



「・・・あれが、ゴブリンキング・・・」



 隣でバロンが声を漏らす。


 洞窟の中で彼が目撃したと言う姿からも、

 すでに大きく姿を変えているようだ。



「・・・あれはもうゴブリンキングなんかじゃない・・・」



 俺は目の前の生物を見つめ、呟いた。

 俺はそれを見て何やら不思議な気持ちを抱く。

 怒りでも、悲しみでもないこの気持ち。

 それは恐らく、憐み。




 ―――――生物は究極には至れない。




 かつてロロが言った言葉が俺の脳裏に蘇える。


 目の前に居るのは進化を繰り返し、

 究極を手に入れようとしたゴブリン。

 自らの欲望の行きついた先。

 その成れの果てがあのおぞましい姿だ。



 あれもまた、『ゼメウスの箱』が影響を及ぼしたものの一つ。


 もし道を間違えていたら、

 俺もあの様になっていた可能性があったのだろうか。


 そう考えると俺は目の前のそれを放って置くことが出来なくなった。



 俺はゼメウスの『白の箱』が生み出した、

 究極(アルティメット)ゴブリンを葬るために一歩前に出た。



 見れば向こうもこちらを敵として認識した様子だ。

 悲しそうに唸り声を上げながら這いずり寄ってくる。



「今楽にしてやる・・・」


<ファイアボール>


 俺は右手に魔力を集束、圧縮し、魔法を放つ。

 それと同時に究極アルティメットゴブリンへ向け駆け出した。




「グオオオオオオオオオオオオ!!」




 俺の魔法に反応するように、究極アルティメットゴブリンが雄たけびをあげる。

 そして俺の<ファイアボール>を簡単に弾いた。


「主!」


 バロンが叫ぶ。


「手を出すな!」


 俺は叫びながら、次の魔法を放つために魔力を集束する。


<フレイムボム>


 究極アルティメットゴブリンの身体が爆発に包まれる。


「グギャアアアア!!」


 究極アルティメットゴブリンが苦しそうな声を上げる。


 俺はそれを見て、ひとまずは安心する。

 よし、直撃さえすれば魔法は効くようだ。

 魔力耐性が高いあの個体の様に、

 魔法自体が聞かなかったらどうしようかと思っていた。



 俺は再び魔力を集束する。

 そしてその魔力を圧縮した。



<フレイムボム改>


 俺は溜めた魔力で、魔法を放つ。


 究極アルティメットゴブリンの身体に再び爆発が起きる。


 魔力が圧縮された<フレイムボム>は、

 一度だけでなく連鎖的に爆発が起きる。


 魔法は直撃し、究極アルティメットゴブリンは悲痛な叫びをあげるものの、

 その魔法が効いている様には思えなかった。



 それどころか―――――。



「・・・回復・・・してる、だと?」



 俺は呟いた。

 爆発により破壊された体表が、次々と再生されていく。

 その回復速度は、以前倒したあの個体よりも遥かに速かった。



「なら、これはどうだ?」


 俺は再び右手に魔力を集束する。


 そして大地を蹴り、

 究極アルティメットゴブリンと一気に距離を詰めた。



「グオオオオオン!!!」



 究極アルティメットゴブリンはそれを嫌がるように腕を振るう。


 俺はそれを回避し、

 究極アルティメットゴブリンの腹部に手を当てる。


 俺は集束した魔力を時計回りに回転させる。

 いつもよりスムーズに魔力が動く。

 俺の右手が灰色の光に包まれる。


 そしてその魔力をそのまま究極アルティメットゴブリンに叩きこんだ。



<時よ>



 俺の放った魔法が、

 究極アルティメットゴブリンの時を加速させる。


 俺はそのまま、

  究極アルティメットゴブリンから離れた。



「どうだっ!」



 時間と言う破壊の力。

 それを喰らえばすべてのものが朽ち果てる。



 そう思っていた俺の目に映ったのは、

 苦しみながら、

 なにやら様子のおかしい究極アルティメットゴブリンの姿だった。



 俺の時間魔法を受けた腹部を中心に、

 究極アルティメットゴブリンを構成する肉が蠢いている。





 次の瞬間。




 究極アルティメットゴブリンの腹部から、

 ゴブリンの姿をした上半身が生えてきた。




「キュアアアアアアアア!!!!!」

「グオオオオオオオオン!!!」




 新たに生えた上半身と、

 土台となった究極アルティメットゴブリンが同時に吠える。


 そしてあろうことか、

 上半身のゴブリンは魔力を集束し始めた。



 マズい。


 そう思い身体を投げ出した瞬間、

 上半身のゴブリンが赤熱した光線を口から放つ。



 俺が立っていた地面が一瞬で焼かれ、

 一直線に燃え盛る。



 とてつもない魔力濃度の魔法だ。

 俺はそれを見てゾッとする。



「進化・・・しやがった・・・」



 失敗した。


 俺は自分の判断を悔やむ。

 時間魔法による時間の加速が、

 究極アルティメットゴブリンを風化では無く、

 より凶悪に進化させてしまった。


 これでは時間加速はもう使えない。


 俺は究極アルティメットゴブリンを屠る奥の手を失った。


 どうする。


 俺が必死に考えを巡らせているが、

 解決策は思い浮かばない。


 そして最悪の事態は立て続けに起きる。



「グレイさん!」


 ロロが声を上げた。


 何事かと思い見ると、

 近くにあった黒い肉片が割れ、

 中から黒い肌のデビルゴブリンが生まれていた。


 どうやら、究極アルティメットゴブリンの魔力に呼応し、

 誕生が早まったようだ。


 そしてそれは辺りに連鎖的に広がり、

 周囲の肉片から次々と新たなデビルゴブリンが生まれていく。

 あっという間に周囲はデビルゴブリンによって埋め尽くされた。




 万事休す。



 俺の脳裏にその言葉が浮かんだ。




「グオオオオオオオオン!!!」

「キュアアアアアアアア!!!!!」

「グオオオオオオオオン!!!」

「ギャアアアアアアアアア!!!」




 究極アルティメットゴブリンとデビルゴブリン達の、

 大合唱のような雄たけびが響く。


 そして、

 ゴブリン達は俺たちに一斉に襲い掛かってくる。


 俺にはそれが、

 まるで一つの悪意の塊のように見えた。



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