表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/213

第78話 甘言

 

 爽やかな寝起き。


 うん、よく寝た。

 すでに日が昇り、

 辺りは明るくなっていた。


 こんなにもすっきりとした目覚めはいつぶりだろうか。



「って、寝すぎだろ!」


 そう言って、俺は飛び起きる。


 周囲を見ると、

 バロンとロロが既に起き、

 身支度を始めていた。


「あ、主。おはようございます」


 バロンが言う。


「ああ、おはよう・・・じゃない。寝過ぎた」


 俺は言う。


「し、しかしゴブリン殺戮者(スレイヤー)様、まだお身体が・・・」


 ロロが心配するように言う。

 どうやら寝ている間に回復魔法を掛けられたようだ。

 ゴブリン達との戦いで負ったはずの傷が、

 すべて治っていた。


 そこでふと気が付く。

 そうだ。

 俺は彼女の魔法で眠らされたんだった。

 なんて強引なことをするんだ、この子は。

 俺はそう思った。


「いや、ありがとう。もう大丈夫だ。それよりも時間が無い。俺はゴブリンキングを見つけないといけない」


 ゼメウスに言われた時限は、今日の日没まで。


 なぜその時間なのかは分からないが、

 大魔導ゼメウスの言い付けだ。

 守らないわけにはいかない。


「それは申し訳ありませんでした・・・」


 ロロが悲しそうな顔をする。


「いや、いいんだ。それからゴブリン殺戮者(スレイヤー)じゃなくて今まで通り、グレイと呼んでくれ。なんで突然そうなった?」


 俺が言うと、ロロは頬を赤く染める。


「い、いえなんでもありません。分かりました、グレイ様・・さん!」


 なぜだか目を覚ましてからロロの様子がおかしい。

 俺が何かしたと言うのだろうか。


 だがそんなこと今はどうでもいい。

 今は急ぎゴブリンキングを見つけないといけない。


「主が言っているゴブリンキングと言うのは、もしやあの巨大なゴブリンのことでしょうか」


 バロンが言う。


「知っているのか?」


 俺は尋ねる。


「はい、捕まっている時に見ました。洞窟を出てどこかに向かう様子でしたが・・・」


「行き先までは分からない、か」


 俺は言う。


「あ、あの。関係があるか分かりませんが・・・」


 ロロが言う。


「なんだ?」


「あの昨日からずっと、あちらの方角から何かを感じるんです。なんでしょう、とても嫌な感じ」


「何かを?」


 俺はロロが言ったことを考える。


 彼女は俺よりも魔力の察知能力が高い。

 俺に感じられない何かを捉えてるのかも知れない。


「・・・何も手掛かりはないんだ。とりあえず向こうに向かってみるか」


「・・・主、もしや一人で行くつもりですか?」


 バロンが尋ねる。


「当然だ。二人は早くロワール村に向かった方がいい。せっかく危機から脱したんだ。俺と共にいるとまたゴブリンに襲われることになるぞ」


 俺が言うとバロンが強い視線でこちらを見た。


「・・・構いません。この命、既に主に預けました。それに二度もゴブリンに遅れを取ることはありません」


「わ、私もご一緒します!」


 二人が答える。

 心配ではあるが、正直助けてくれると言うのであればこれほど嬉しいことは無い。


「・・・すまん、恩に着る」


 俺は二人に頭を下げた。


「・・・止してください、主。俺はもう貴方に忠誠を誓いました・・・」


 バロンが照れる。


 俺は頭を上げ、尋ねた。


「ひとまず、ロロの言う方に向かってみよう。あちらには何があるんだ?」


 ロロとバロンが視線を合わせ頷く。

 そしてこちらを向き直し、言った。




「主、この方角にあるものは、エシュゾ魔導学院跡です」



 俺は二人の案内で、

 再び滅びた学園都市へと向かった。



 ・・・

 ・・

 ・




 戦闘が始まって数時間。


 アリシアの魔力は底を尽き、

 大型の魔法が撃てないほどに疲弊していた。


 にも関わらず、

 ゴブリン達の勢いは一向に弱まらない。

 その理由は群れの中に混じるデビルゴブリンの存在であった。


 昨日は姿を見かけなかったはずなのに、

 今日は既に十匹近くのデビルゴブリンを倒した。


 先日のデビルゴブリンには及ばないものの、

 どうやら個体ごとに千差万別の能力を有している様で、

 そのたびに対応に時間が掛かった。


 正面から戦いデビルゴブリンを倒せるのは、

 アリシアとシルバぐらい。


 互角だったはずの戦況は、

 徐々にアリシアたちに不利に転じていった。


 アリシアとシルバは、今やお互いの背中を守りあう様に戦っていた。

 二人を中心として戦う騎士たちも、今や満身創痍。

 このままでは時間の問題だ。

 アリシアはそう思っていた。


「・・・アリシア殿」


「なによ、今は話すのも辛いわよ」


「それは私も同じです。やはり今からでも貴女だけでも・・・」


 シルバが言う。


「見くびるんじゃないわよ。命欲しさに目の前の敵から逃げるほど、<紅の風>は腐って無いわ」


 アリシアは言う。


「でしょうな。ですが、Sクラス魔導士としてではなく、一人の貴女としてはいかがですか?」


「どういうことよ」


「・・・想い人の安否も確かめられぬまま死ねるのか、と聞いております」


「・・・ッ!」


 シルバのその言葉にアリシアは動揺する。


「そ、そんな・・・」


 アリシアの顔が分かりやすく紅潮する。


「貴女はまだ若い。ここで死なずとも恥じることなどありません。むしろ生きる事の勇気と言うものもあります。まだ彼が生きていれば、伝えたいこともたくさんあるでしょう」


 アリシアは何か言おうとして、

 そして止めた。


 次第にアリシアは目に涙を浮かべる。


「私は・・・」


 アリシアは唇を噛みながら、

 必死で涙を堪えながら、

 シルバの目をじっと見ていた。


 アリシアが弱いわけでは無い。

 シルバはアリシアを逃がすために、

 最も彼女に効果的な言葉を選んだ。


 Sクラス魔導士と言えど、

 中身はまだ若い少女。


 愛する者の事を口に出されては、

 生にしがみつく事を選んで当然だ。


「大丈夫。・・・私には奥の手があるのです。貴方が居なくなっても耐えられます。それにここらが潮時でしょう。騎士たちも隙を見て逃がすことにいたします」


 シルバは更に追い打ちを仕掛ける。

 彼女の杞憂が無くなるよう。

 彼女の罪悪感が薄れるよう。


 人の心の機微を察知できるシルバだからこそ、

 アリシアの葛藤が痛いほどによく分かる。

 そしてその天秤が、

 シルバの意図した方向に傾こうとしていることも。


 もう少しだ。

 シルバは思う。


 だが次の瞬間、

 アリシアは自らの頬を叩いた。


 バチン、と大きな音がする。

 その行動にシルバは動揺する。


「な、なにを・・・」


「・・・いったぁ・・・やってくれたわねシルバ。許さないわよ・・・」


 アリシアは恨めしそうにシルバを見た。


「・・・どういう・・・」


「・・・奥の手なんてないんでしょ?逃げるつもりもないんでしょ?・・・私に効きそうな事を言っても無駄よ・・・」


 アリシア再びシルバを強い目線で見つめた。

 その瞳には彼女が操るのと同じ、炎が揺らめいていた。


「私に嘘なんて通じないわよ。」


「私は・・・あなたを逃がそうと・・・」


「それが通じないって言ってるのよ!<紅の風>を舐めないでっ!!」


 アリシアが叫んだ。


「・・・ッ!」


「いい?Sクラス魔導士は、最高の魔導士の称号よ。そして<紅の風>はお祖母様から受け継いだ誇り高き魔導士の名前。私がそんな甘言に引っ掛かって逃げ出すと思わない事ね。騎士道精神があんた達だけのものだと思わないでちょうだい」


 アリシアの言葉に、

 シルバは再び自らの過ちに気が付く。

 彼女を見くびるのはこれで二度目だ。


「・・・申し訳ありません。アリシア殿。私が間違っておりました」


 シルバが頭を垂れる。

 それは少女では無く、一人の魔導士に対する敬意を表したものであった。


「・・・いいのよ。さあ、新手が来たみたい」


 アリシアが村の外を見つめる。

 その方角からは確かに大群が押し寄せる足音が聞こえた。


 だがそれは聞き覚えのある、ゴブリンたちの姿ではなかった。


「・・・違います、あれは・・・」


 シルバが目を見開き驚く。

 そこに姿を現したのは、

 甲冑に身を包んだ騎士たちであった。


「キリカ!!」


 シルバが叫ぶ。


「・・・お待たせしました。シルバ殿。助太刀に参りましたよ」


 キリカが笑う。


 そしてその後ろには、

 甲冑に身を包んだ騎士たちが勢ぞろいしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ