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第69話 境界線上のカタストロフ

 

 聖女ロロはブルゴーの街を歩いていた。

 彼女は時折、護衛も付けずにこうして街中を出歩くことがあった。


 それがバレる度に教皇に危険だ、と小言を言われているが、

 元々聖女になる前は戦場近くの教会まで足を延ばして祈りを捧げていたこともあったのだ。


 平和なブルゴーの街中なら何も問題は無いと彼女は考えていた。


 それに今日に限って言えば、彼が一緒だ。


  今日は久し振りにブルゴーに帰還した幼なじみと、

 街外れの公園で待ち合わせをしている。

 ロロはそれが楽しみで、自然と早歩きになっていた。



 やがて公園に到着する。

 この公園は良い。

 ロロは思った。


 美しい庭園と、ブルゴーの街並みが一望できる。


 時間帯によっては人通りが皆無となるのも、

 魅力の一つだ。

 一人になりたい。

 最近、そう思う時間が増えてきたように思う。



「そういえば・・・」


 ロロは先日、この公園に立ち寄った時の事を思い出す。


 たまたま居合わせた若い男。

 出で立ちからして、恐らく魔導士だろうと推測した。


 だがロロは彼に対し不思議な雰囲気を感じ、

 気が付けば話しかけていた。

 人見知りの自分が、あんなことをするなんて驚きだ。



 話しかけたは良いものの、

 見ず知らずの他人だから当然会話など続かない。


 二人の間に流れる沈黙の時間。

 だが不思議とそれを不快には感じなかった。

 いや、むしろ心地よいとまで思えるような時間だった。


 彼は、とても穏やかな人だった。

 名前を尋ねることが出来なかったのが悔やまれが、

 また会えたときはぜひ名前を聞きたいと思った。


「・・・結婚するならああいう人がいいな」


 ロロは呟き、ため息をつく。

 聖女とは言え、ロロは年頃の少女だ。

 当然、恋愛を夢見ている。


 いつか聖女の役目を終える時が来たら、

 誰かを愛し、子を成すことがロロの夢であった。


「・・・結婚なんてしたら負け、だぞ」


 後ろから声を掛けられ驚き振り返る。

 そこに居たのは自らの待ち人でもある、

 幼馴染だった。


「盗み聞きしないで!い、今のは違います!」


 赤面して否定するロロ。

 恥ずかしい場面を見られてしまった。


「盗み聞きなんてしない。我が地獄耳(デビルイヤー)に聞こえぬものはない、と言う事だ」


 幼馴染は答え

 ロロの隣に腰掛けた。


「い、良いから、今のは忘れて」


「わかった」


「とにかく、おかえりなさい。無事でなによりですバロン」


 ロロはそう声をかける。

 幼なじみと言うのは、

 キリカと共に南方から帰還した聖魔騎士のバロンであった。


 ロロとバロンは、

 彼女が聖女に、

 バロンが騎士になる前からの長い付き合いなのだ。


「ただいま、ロロ。今回は我が人生を大きく変える運命の出会いがあった。早く君に話したくて堪らなかったよ」


 そう言ってバロンは顔を手で押さえ、

 クックックと笑う。


 幼馴染ながら気色悪い笑い方だ。

 何度も改善させようとしているのだが、

 一向に治らない。


 本人はカッコいいと思っているらしい。


「は、話は先に聞きましたよ。<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>様と共闘したのでしょう?まさに神の御導きですね」


 ロロが言う。

 彼女の頬は紅く染まっている。


「その通りだ。むしろ神と言うのであれば、あの御方自身がそれだろう。ゴブリンを無慈悲に屠るあの狂気に満ちた顔。ロロ、君にも見せたかったよ」


 恍惚と語るバロン。


 うちの幼馴染は少し、

 拗らせている。


 ロロはそう思った。


「・・・つまり噂通りと言う事ね。あぁ、なんて素敵なのでしょう。私も早くお会いしてみたいです」


 ロロが言う。

 その言葉にバロンがピクリと反応した。


「待て、<紅の風>がこの街に来たのだろう?ならば我が主も共にいたはずだ。まったくSクラス魔導士を隠れ蓑にやつらの目を欺こうとするとは我が主の狡猾さには脱帽するよ・・・」


 バロンが答える。


「それが・・・、<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>様にはお会いできなかったの」


「・・・どういうことだ?」


 バロンが驚く。


「<紅の風>様にお願いはしたのだけど。ダメだった。あの方に会うべきじゃないとまで言われたわ。大聖堂にお呼びするのも止めた方が良いときつく止められました・・・」


 ロロは不満そうに言った。


「なんだそういうことか。それならば<紅の風>が正しいな」


「どういうこと?」


 ロロが尋ねる。


「考えてもみろ。我が主は<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>とまで呼ばれる存在。今はその力を惜しみ無く正義に向けてはいるが、その本質は底も見えぬほどの『闇』。そんな存在が大聖堂に近付けばどうなる・・・?」


 ロロはバロンの言葉にハッとする。


「・・・そうか。属性の反発による『世界崩壊』(カタストロフ)が起きるのは必至。下手をすれば運命石の扉(シュタインズ・ゲート)を開放することにもなりかねない、ということね」


「その通りだ。<紅の風>もその事を理解していたのだろう。クク、紛いなりにも我が主が傍らに置くだけはある。さてはあの女も()()()()の人間か」


 バロンと話しているうちにロロもノッてきた。

 幼馴染バロンの影響により、

 彼女もまたこういった妄想が捗るようになっていた。


 無論、彼らが語っている内容に、

 魔導学上の根拠は一切無い。


「クク。そうと分かれば、こうしては居られない」


 バロンが立ち上がる。


「どうするつもりなの?」


「無論、決まっているだろう?北に向かったと言う我が主の元に馳せ参じる必要がある。『世界崩壊』の時は近い」


 そう言ってバロンは立ち去ろうとする。

 その後姿に、ロロが声を掛けた。


「待って」


 ロロの言葉にバロンが振り向く。


「私も行くわ」


「・・・本気か?」


 バロンが尋ねる。

 その言葉にロロは頷く。


「私も、誰かの力になりたいの」


 お飾りの聖女などもうごめんだ。

 ロロはそう思った。


「後悔、するなよ?」


 バロンが答える。


「しません。それに違反になるのはバロンも一緒でしょ?キリカ隊は聖都への駐留を命じられてるはずですよね?」


「くく・・・何人にも俺を縛ることなど出来ない。例え世界線が変わろうとも我と我が主の道は何度でも交わるさ」


 バロンが言う。


 こういう時に限っては、

 なんて心強い味方なのだろう。

 ロロはそう思った。


「・・・では話は決まりましたね。行きましょう、エシュゾへ。」


 ロロの言葉にバロンが強く頷いた。

 こうして二人は、

 北に向け聖地を旅立つのだった。




「・・・クク、それにしてもロロ。お前をそこまで掻き立てるとは。我が主も罪な男だ」


 バロンが笑う。

 幼なじみから見ても、

 ロロは奥手。

 色恋沙汰となれば殊更だ。


 自分が影響を与えたとは言え、

 彼女がここまで特定の異性に執着するのは初めてのことだった。


「そ、そんなんじゃないってば!」


 バロンの言葉にロロが顔を真っ赤にする。

 その表情は年相応の少女のそれで、

 端から見ればなんとも初々しい反応だった。


 だが―――――


「先ずはお互いの顔も知らないし先ずはそこからでしょ?あの方は私の事を気に入ってくれるかしら。自信はないけど、二ヶ月前に侍女のルミルさんに可愛いと言われたばかりだし大丈夫よね。あ、でももし私の事が気に入らなくても大丈夫。白魔法で顔を変えてあの方好みに変わることも出来るわ。大事なのってやっぱり顔より性格だし、私の中身を見てくれるなら全然それで問題ないわ。うーん、それでもやっぱり可愛い子供は欲しいし、難しい所ではあるけどね。あの方の子供なら何人でも生んで差し上げたいわね。上はやっぱり女の子で、下の子は男の子の方が良い、かな。お姉ちゃんになれば上の子はきっと私に似てしっかり者に育ってくれると思うの。だってそれってとても大切なことでしょ?変な男に捕まって、あの方にお前の教育が悪いんだなんて言われたら私は悲しくて死んでしまうかも知れない。あぁでもどうしよう。そう考えると少し心配になってきたわそうなるなら上も下も男の子の方が良いかしら、男の子は勝手に育つって言うものね。うん、それも良いかも知れないわ。あの方の子供ならきっと素敵だから、素敵な旦那様と二人の息子に囲まれて過ごすの。それって逆ハーってやつかしら?」


 ロロは独り言のように早口でまくし立てた。


「ねぇ、バロン?」


「どうした?」


 バロンは答える。


「私とあの方の子供はきっと素敵よね?」


 ロロの満面の笑み。

 バロンはそれに答えなかった。


 うちの幼馴染は少し、

 拗らせている。


 バロンはそう思った。


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