表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

61/213

第60話 ブルゴーのギルド


「こちらでございます」


シルバが言う。


ブルゴーのギルドは、

港町ボジョレと同じくらい質素な建物であった。


軒下にギルドの目印である双頭龍のエンブレムが無ければ、

それとは気が付かないだろう。


俺たちはシルバを先頭に、ギルドの中へと入った。





「ようこそお越しいただきました。魔力の使徒よ」




中に入るとシスター風の女性が挨拶をしてくれた。

ボジョレのシスターよりも少し若いように見える。



「こんにちは、お嬢さん。マスターは居ますか?」



そんなシスターに、

にっこりと微笑みながらシルバが尋ねる。


シルバの素敵スマイルがシスターに直撃し、

彼女の顔が見る見る内に紅潮していく。



「は、はい。マスターは奥におります!お呼びいたしますか?」



「ありがとう。お願いできますか?」


シルバの頼みに嬉々として応じるシスター。

これがイケメンの力か。

俺はそう思った。



やがて奥からシスターが戻ってくる。



その後ろには見るからに凶悪そうな顔をした、

大柄の男がいた。


大柄の男はシスターを下がらせ、俺たちの前に立った。

彼にジロリと睨みつけられ、俺は思わず身構える。



「シルバ殿!お久しぶりでございます」



大柄の男は突然、跪いてシルバに挨拶をした。


「えぇ、お久しぶりです。ルシード。元気でしたか?」


シルバはそれに当然の様な顔で答えた。

ルシードと呼ばれた男は嬉しそうに答える。



「えぇ!元気にやっておりますとも。貴方がブルゴーに来るなんて珍しいですね!騎士団本部に行くんですか?」


ルシードが尋ねる。


「いえ、今日は客人をご案内しました。私はただの付き添いですよ」


そう言ってシルバは俺たちを見る。

ルシードの強面の表情が俺たちに向く。


「・・・シルバ様のお客人、ですか?」


ルシードがこちらを窺う。


「俺はグレイです。家名は無い、ただのグレイ。西の大陸から来ました魔導士です。それでこっちが・・・」


「アリシア。Sクラス魔導士<紅の風>よ」


俺たちはルシードに名乗った。

ルシードが立ち上がる。


「なんと!あなたが<紅の風>様でしたか!お待ちしておりました。初めまして、私がこのブルゴーのギルド長をしております、ルシードと申します。」


ルシードがアリシアの手をがっちりと握る。

アリシアが少し引いているのが分かった。


「お、お待たせしてしまい申し訳ありません。道中で色々ありましたもので・・・」


アリシアが謝罪の言葉を述べる。


「いえいえ、来ていただいただけでありがたい話です。さっそく依頼人に連絡し、面会の準備をいたします!」


ルシードが言う。


「面会?私は依頼を受けに来たのですが?」


アリシアは尋ねた。


魔導士への依頼は、基本的にはギルドを通して行われる。

依頼前に依頼主と面会と言うのは珍しいことだ。


「えぇ、ですが依頼主が<紅の風>様に一目会いたいと。依頼内容は直接お話しする、とのことです」


ルシードが言う。


「・・・その依頼主はどなたなのかしら?」


アリシアは尋ねた。


「はい、もちろん隠す必要もありませんのでお教えいたします。<紅の風>様をお呼びしたのは聖女ロロ様です」


ルシードは答えた。



・・・

・・


東の大陸では、

この世界の創生神と言われている、

魔力の神を崇拝している。


全知全能の魔法の父。

それが魔力の神だ。


そして、

その魔力の神の意志を現世に伝える存在、

と言われているのが聖女である。



聖女は一時代に一人まで。

前任の聖女が亡くなる前に、

次代の聖女が任命される。


次代の聖女は候補者の中から、

最も強力な白魔法の適性を持つ女性が選ばれるのだと言う。


教皇が政治的なトップだとしたら、

聖女は人々の精神的な支柱となる存在。


東の大陸の中でも大物中の大物である。


その聖女からの依頼がアリシアに舞い込んだのだ。



・・・

・・




ギルドから出た俺たちは、

シルバの案内で宿へと向かう。


シルバに最高の宿があると紹介されたが、

本当にその言葉の通りだった。


『清流のキンググリズリー亭』


サービスも丁寧で、料理も美味い。

おまけに宿泊費も良心的ときている。

俺たちは改めてシルバに感謝した。



俺とアリシアは夕食を終え、

今後の事について話し合っていた。



「いや、だからなんでそんな大物からの依頼って知らないんだよ」


俺はアリシアに言う。


「しょうがないでしょ。依頼主名を受注する魔導士に公表するかどうかは、向こうに決定権があるんだから。たぶんシオンもそんな大人物からの依頼だって知らなかったと思うわ」


アリシアが答える。


依頼主情報保護のため、

しばしばそう言う事が行われる。


「急に大ごとになったな」


俺は言う。


「遅刻したの、不味かったかしら・・・」


アリシアが心配そうに呟いた。

たとえSクラス魔導士と言えど、

地位的には聖女には劣る。

今回は恭しく依頼を受ける必要があるだろう。


「分からん。ゴブリンより大事な用事だったかも知れないし、謝罪は必要かもな」


俺は言う。

聖女からSクラス魔導士への直接依頼だ。

重要な依頼で無いわけがない。


見るとアリシアが甘えるような視線でこちらを向いていた。


「ね、グレイ?あのさ・・・」


「一緒にはいかんぞ?」


俺はアリシアが何か言う前に断った。


「なんでよ!ケチ!」


アリシアが頬を膨らませて怒る。


「言っただろ?俺は『ゼメウスの箱』を探さないといけないって!ブルゴーに着いたし、そろそろ真面目に情報を集めないといけないんだ」


俺は答える。


「なによ!聖女が情報持ってるかも知れないじゃない!」


アリシアが言う。


「そうかも知れんが、そんな肩が凝りそうなとこには行きたくない。もし聖女が何か情報持ってそうなら、アリシアが聞いてきてくれ」


俺は答えた。

そんな俺にアリシアは終始不満そうに文句を言っていた。


・・・

・・


翌朝。

『清流のキンググリズリー亭』の前。

俺はアリシアを見送っていた。



「・・・ホントに見捨てる気?」



迎えの馬車に乗り込む間際。

アリシアが恨むような目でこちらを見る。


「あぁ、頑張れ。また後でな」


俺は笑顔でアリシアを見送った。


馬車は護衛の騎士を引き連れ、

山頂の大聖堂に向け走り出す。

ただの出迎えにしてはかなり仰々しい。


良かった。

すでに始まる前から肩が凝る気配が満々だ。

俺は安堵する。



「さて、俺はギルドにでも行こうかね」


情報集めの基本はやはりギルドだ。


俺は再びブルゴーのギルドへと向かった。






「ようこそお越しいただきました、魔力の――――あら?貴方は」


ギルドに入ると、昨日のシスターが出迎えてくれた。

反応から見るとどうやら俺の事を覚えてくれていたらしい。



「こんにちは」


俺は彼女に挨拶する。


「こんにちは、今日はお一人なんですか?」


そう言ってシスターはそわそわと周囲に視線を泳がせる。

その仕草で俺は気が付いた。

うん、これは間違いなくシルバを探しているな。



「ええ、今日はちょっと換金をお願いしたいと思いまして」


「承知いたしました。では素材をお出しいただけますか?」


シスターに促され、俺はごそごそと荷物袋を漁る。


先日、キリカ達と一緒に大量のゴブリンを討伐した。

その際に、ゴブリンの魔石もしっかり回収しておいたのだ。


もっとも討伐素材は、

給金の少ない下級騎士たちの重要な資金源になるらしく、

声高に分け前を要求するのは憚られた。


当然Sクラス魔導士のアリシアは受け取りを拒否したが、

俺は路銀も底を尽きかけていたので、

ほんの少しだけ魔石を分けて貰った。


ついでに、

港町ラスコで「海鳴きの洞窟」に入った際に得た素材も

一緒に換金してもらう事にしよう。


ごそごそと荷物袋を一番下まで漁る。

整理していなかったからかなりとっ散らかってるな。


ゴブリンの魔石、

吸血コウモリの牙、

ゴブリンの魔石、

ただの本。

ラスコの魚屋のチラシ。


ん、なんだ、この固いのは。

荷物袋の中を見ると、そこには懐かしの金属片。

ボルドーニュで騙されて買った【破壊不能金属の塊】だ。


こんなもん見たくもない。

他だ、他。

ゴブリンの魔石、

ウワバミの鱗。。。



「そ、そちらですべてでよろしいでしょうか?」


若干引きながらシスターが尋ねる。


「えぇ。こちらでお願いします」


俺は答える。

気が付くと机のうえには結構な数と種類の素材。


シスターは俺からそれらを預かると、

かんていのためギルドの奥へと入っていく。


俺は時間を潰すために、

ギルドの図書室に向かうことにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ