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第56話 穏やかな破壊の力

 


 俺とアリシアがテントを訪ねると、

 中からどうぞと声がした。


 入ってみると、テントの中にはキリカ一人だけ。

 俺たちはキリカに促されるまま椅子に座った。



「アリシア殿、体調はどうですか」


 アリシアの顔を見たキリカが尋ねる。


「・・・ありがとう。大丈夫よ、迷惑かけてごめんなさい」


 アリシアが頭を下げる。


「そ、そんなとんでもない。こちらこそ情報不足でアリシア殿を危険な目に合わせてしまい大変申し訳ないです」


 キリカも頭を下げる。



「それで、再攻撃をかけると聞きましたが・・・」


 俺はキリカに尋ねる。


「えぇ、その件でお二人にご相談が」


「相談?」


「デビルゴブリンについてです」


 キリカが言う。

 その言葉に隣のアリシアの緊張度が高まったのが分かった。


「本部には連絡を入れましたが、あのデビルゴブリンに関する情報は皆無でしょう。あいつは明らかにこれまでの個体を凌駕しています」


「突然変異、というやつでしょうか」


 俺の問いにキリカがこくりと頷く。


「はい。調べて分かったのはあのあたりの地下には高濃度の魔力を滞留させる地脈もあるとのこと。このゴブリンの大量発生の中であのような強力な能力を有するモノが生まれたと考えるのが妥当でしょう」


 キリカが言う。

 魔力濃度の高い場所では、

 新たに生まれる魔物の身体に変化が起きやすいのだ。


「再生、魔力耐性・・・まさに俺たち魔導士に対抗するために生まれてきたような存在ですね。」


 俺は言う。

 キリカもそれに頷いた。


「でも負けないわ」


 アリシアが言う。


「アリシア殿・・・」


「Sクラス魔導士<紅の風>の名に懸けて、あのデビルゴブリンは私が倒すわ」


 力強い目でそう宣言するアリシア。

 うん、色々と吹っ切れたみたいだ。

 これなら大丈夫だろう。


「しかし、魔力耐性を持つ相手にどうやって・・・実は再攻撃の最大の懸念点もそこにあるのです」


 確かにその通りだ。

 デビルゴブリンが現れるまでは俺たちはかなり順調にゴブリンを倒していた。

 同程度の数が出てきたとしても、

 同じメンバーが居る限りは負けることはないだろう。


 結局はあのデビルゴブリンをどう倒すか、がこの再攻撃の焦点になるのだ。


「作戦なんて要らないわ」


 アリシアが言う。


「それは、どういうことでしょう?」


「平地と、二次被害が起きないような場所を要求するわ。それさえ用意してくれたら、後は私がなんとかします」


 そう言って自信ありげに胸を叩くありアリシア。

 何か考えがあるのだろうか。


「それは頼もしい・・・ですが、平地ですか。いったいどうすれば」


 キリカが考え込む。


「それについては私にお任せください」


 急にテントの入り口から声が聞こえて、

 俺たちは振り向く。

 そこに居たのはシルバであった。

 いつ入ってきたんだ。


「近くに最適な場所を見つけてまいります」


「シルバ殿、かたじけない」


 キリカが頭を下げる。


「しかし問題は場所を見つけてもどうやってゴブリン共をおびき寄せるか、ですね」


 シルバが言う。

 キリカもうーんと頭を悩ませる。




 ゴブリンをおびき寄せる手段か。


 俺は記憶を探る。

 うん、一つだけ思い当たる方法があるな。


「・・・あの成功するかどうか分かりませんけど、こんなのはどうですか」


 俺はその方法を三人に説明した。








「なんとそんな方法が?本当に可能なのですか?」


 キリカが驚く。


「はい、実績はあります」


 俺は答えた。


「しかし、そんな方法聞いたこともありませんでした。さすがはゴブリン殺戮者(スレイヤー)殿ですな」


 シルバが笑顔で言う。

 俺は苦笑いを返した。

 あれ、これちょっとイジられてないか。


「必要なものを用意するのに、1日は必要かと思います。という事は、作戦決行は明日、という事でよろしいでしょうか」


「ええ。問題ありません」


 俺は答えた。

 こうして俺たちは、明日の作戦決行に向け動き出した。



 ・・・

 ・・

 ・



「大丈夫なのか?」


 俺はアリシアに尋ねる。


「何が?」


「いや、自信満々に倒すって宣言してたけど。何か手はあるのか?」


 俺は尋ねる。


「ないわ」


 俺は膝から力が抜ける。


「ないのかよ」


 だがアリシアは真剣な目でこちらを見る。


「簡単な事よ。魔力耐性が有ったとしてもそれを上回る火力をぶつければダメージは通るわ」


 アリシアが、なんとも脳筋な事を言いだした。

 どうやらデビルゴブリンの攻撃により意識を失ったのが相当悔しかったようだ。


「そ、それで大丈夫なのか?」


「大丈夫よ。赤魔導士にとって火力不足なんて最大限の侮辱だわ。全力で焼き尽くしてやるわ」


 アリシアの目がメラメラと燃える。


「無理すんなよ」


 俺は呟くように言った。


「と言うわけで、私は少し戦闘に向けて準備をするわ」


 そう言ってアリシアは手をひらひらと振って、どこかに言ってしまった。

 俺はひとりその場に取り残された。



 ・・・

 ・・

 ・


 俺は近くの森の中に川を見つけ、

 その岸辺に腰掛けていた。

 脚を水に浸し、ひんやりとした水の感触を味わう。


 別にサボっている訳ではない。

 このところ忙しく、ゆっくり考える時間も無かったため、

 こうして一人になり思考を開放しているのだ。


 考えることはもちろんゼメウスの箱に関する事である。

 白の箱の所在が掴めなくなったとゼメウスは言ったが、

 はたして俺はこの後どうすればいいのだろうか。



 ―――――箱を受け継いだものはワシと同じように他の箱を感じる事が出来るのじゃ。



 ゼメウスの言葉を信じ、こうしてはるばる東の大陸に来たが、

 今のところ手掛かりはない。


「とりあえず聖都に向かえば、何かわかるかね」


 俺は呟く。

 とにかく今は情報不足だ。

 考えるにしてもヒントが少なすぎる。


 俺が探しているのは、

 数百年もの間見つからない、

 あのゼメウスの箱なのだ。


 焦るだけ無駄だろう。


 俺は深く考えることを止め、

 とりあえず目の前のことに対処することに決めた。


 足を水に浸したまま、俺は横になる。

 青空に白い雲が流れているのが見えた。







「・・・デビルゴブリン、か。」


 アリシアは任せておけと言っていたが、

 俺の方でも色々と対策を考えておいた方がいいだろう。


 となるとやはり俺が思いつくのは時間魔法に関する事。


 実はリエルから宿題にされている時間魔法を使いこなす件について、

 前々から考えていることがあった。



 俺が時間魔法で出来るのは、

 時間を止めるということだ。



 停滞した時間の中では呼吸が出来ず、

 圧倒的な魔力を有する相手には不十分な時間停止となる、

 という欠点はあるものの、

 それ以外はほぼ無敵と言っても過言ではない能力だ。


 だが時間停止そのものは攻撃に使用することが出来ないため、

 どうしても間接的な効果しか期待できない。


 結局、最後は俺の火力次第。

 だからこそデビルゴブリンのように、

 そもそも俺の魔法が通じない相手には有効打となり得ないのだ。





 だがそれはあくまで、俺が今使える時間魔法を前提にした話に過ぎない。

 時間魔法はあの大魔導ゼメウスが編み出した禁呪だ。

 時間を止めるだけだなんて、そんなに底の浅いものであるはずがない。


 今は勝手に不可能だと思っている、

 時間魔法を攻撃魔法として使用することだってきっと可能なはずだ。


 この時間魔法に決まった形はないのだ。

 全ては俺の想像力次第だ。



 では時間を攻撃に転用するにはどうすればいいのだろう。



 俺はぼんやりと思考しながら、

 ゆっくりと右手に魔力を集束する。



 俺はかつての『僕』の姿を思い浮かべた。

 俺にとっての時間とはつまり『老い』であった。


 この世に存在する無機物も含めたすべてのものは、

 時の流れには逆らえない。


 生まれたてのひな鳥も、

 若く逞しい戦士も、

 そびえたつ岩山も、

 強く堅牢な剣も。


 時間と共にその力を失い、

 やがて朽ちていくのだ。



 万物を無に帰す、時の流れという緩やかな破壊の力。



 そう考えると俺は自身に宿る時間魔法の力が、

 ひどく恐ろしいものに思えた。


 その理を、魔法に転化することが出来るだろうか。

 俺はさらに強く魔力を集束した。



 時間を止める時には、

 はっきり言ってかなり乱暴に魔力を展開している。


 動いている時計の針に、釘を打ち付け、

 無理やり停止させるようなイメージで魔力を展開するのだ。


 原理も何もない感覚の世界の話だが、

 そうすることによって時計の針は止まり、

 打ち付けた釘が抜けるまで動くことは無い。




 だからまずはそれを変えてみる。



 釘で打ち付けることはせずに、

 時計の針を指でゆっくりと加速させるようなイメージ。

 イメージの中の時計の針を、

 時計回りにぐるぐると回していく。


 次第に魔力もその動きに同調し、

 不思議な光を放ち始める。

 トーンの暗い白色。

 見方によっては灰色に見えないこともない。


 俺は自分の魔法の変化に夢中になり、

 時計の針を何度も何度も回転させた。


 回転と共に俺の意識は深層へと落ちていった。




毎日暑いですね。

遂にブックマーク数200件を越えました。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。


引き続きグレイの冒険をお楽しみください。

しかし中々二つ目の箱にたどり着かないですね笑





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