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第55話 敗走


「・・・気を付けて、グレイ。そいつ普通じゃないわ」


アリシアが後ろから声を掛ける。

だが俺はその声に答えることが出来なかった。


なぜならば目の前のデビルゴブリンが吐き出す殺気から、

注意を逸らすことが出来なかったからだ。


「ギギギ」


デビルゴブリンは俺を標的に、

ジリジリと距離を詰めてくる。


闇雲に突っ込んでこないところから見ると、

それなりの知能と戦闘の能力を有しているのだと言う事が窺える。


俺もジリジリと間合いを詰め、

やがて俺たちは互いの戦闘圏内へと到達した。


「グギャア!!!」


デビルゴブリンが雄たけびをあげて、

腕を振り上げる。

そしてそのままそれを力任せに叩き付けた。

速い。


俺はそれを後方に飛ぶことで回避する。

叩き付けられた腕により地盤が破壊され土煙が舞う。


一瞬、俺はデビルゴブリンの姿を見失ってしまう。

だが次の瞬間、土煙の奥から、デビルゴブリンの腕が凄まじい勢いで現れた。


「なっ!」


俺はその腕に掴まれ、そのまま壁へと叩き付けられる。

思い切り背中を打ち付けたことにより、呼吸が止まる。


土煙が晴れ、デビルゴブリンが姿を現す。


俺は痛みに耐えながら、その姿を見て驚愕する。

信じられない。

デビルゴブリンの腕が、伸びただと。


「グレイ殿!」


俺が吹き飛ばされたのと同時に、

キリカがデビルゴブリンに斬りかかる。


身体強化の魔法により、

速く、重くなった剣はデビルゴブリンの腕を切り落とした。


「どうだっ!」


キリカが勝ち誇る。


だが次の瞬間、デビルゴブリンの腕が気味の悪い動きで胴体に引き戻され、

そのまま元通りに接合された。



「なっ!」



キリカが驚く。

再生された腕が振るわれ、キリカも同じく吹き飛ばされた。

地面を二度三度跳ね、キリカがようやく受け身を取る。



「どういうこと!腕が伸びて再生するなんて聞いてないわよ!」


アリシアが叫ぶ。


「ぐ・・・私にも分かりません、事前の情報ではデビルゴブリンは、ただのゴブリンの強個体だとしか・・・」


身体を起こしながらキリカが答える。


腕の伸縮に、再生。

通常のゴブリンではありえないような能力だ。


「なら、なんでも良いわ!とりあえず殺すわよ!」


そう叫び、アリシアが魔力を集束する。

だが俺は嫌な予感を感じ叫んだ。


「アリシア待て!!」


だがその声が届く前にアリシアの魔法が発動する。


<フレイムストリーム>

<ライトニングボルト>


アリシア得意の、炎雷同時魔法。

炎と雷撃が、デビルゴブリンを包む。


「どうっ!?」


アリシアが叫ぶ。

Sクラス魔導士の名に恥じぬ、強力な魔法。


だが驚くべきことに、

デビルゴブリンはほとんど無傷で炎の中から姿を現した。


「なっ!魔力耐性も強いって言うの!?」


アリシアが驚いて声を上げる。

このパーティ最高火力のアリシアの魔法が効いていない。


次の瞬間、デビルゴブリンがアリシアへと凄まじいスピードで腕を伸ばした。

魔法を放ったばかりのアリシアはそれに反応する事が出来なかった。


「危ない!アリシア様!」

「キャッ!!!」


ダリルが庇う形でアリシアとデビルゴブリンの腕の間に身を投じた。

二人はまとめて吹き飛ばされる。


「アリシア殿!ダリル!」


キリカが叫ぶ。


「っ!俺は大丈夫です!ですがアリシア様が!」


ダリルが答える。

傍らには力なく倒れるアリシアの姿。


どうやらアリシアは打ちどころが悪く、

気を失ったようだ。


「グギャアアアアア!!!!」


デビルゴブリンが再び雄たけびをあげた。


その声に呼応するように、

鍾乳洞の奥から、

さらにゴブリンが現れた。


さきほどまでと同程度の数。

だが戦線が決壊した状況では分が悪い。


このままではマズイ。

見ればアリシアがダメージを負ったことにより、

周囲を照らしていた炎の柱もその勢いを失いかけていた。

ここで視界を失えば、一気に危険度が増す。




「くっ!らえっ!」


<ファイアボール改>


俺は魔力を圧縮し、威力をあげた魔法をデビルゴブリンに放つ。

俺の魔法の着弾と同時に、炎弾が爆発し、

デビルゴブリンの頭部が火に包まれた。



「撤退だ!」


俺はキリカに声を掛ける。


「し、しかし・・・」


キリカが躊躇する。


「このままでは被害が出ます!グレイ殿に従いましょう」


シルバが俺の言葉を後押しする。


キリカは頷き、俺たちは来た道に向け、駆け出した。

気を失ったままのアリシアはダリルが背負って運ぶ。


「いけっ!」


俺は叫ぶ。

最後尾で皆の脱出を見守った後、

再び魔力を集束した。


<フレイムストリーム>


俺は以前アリシアがやったことを真似、

地下道に炎の壁を作り出した。


アリシアの魔法よりも小規模だが、

あの時より通路が狭いので足止めは出来そうだ。


「グギャアアアアアア!!!」


鍾乳洞からデビルゴブリンの雄たけびが響く。

俺の放った<ファイアボール改>も大したダメージは与えられていないようだ。


俺たちはその声に追われるように、

地下通路を逃げた。



・・・

・・



「どうやら追手はいないようですね・・・いつ現れてもおかしくありませんが」


周囲を警戒しに行ったシルバが戻ってくる。

俺たちは廃聖堂から脱出し、

森の中へとに逃げ込んでいた。


すでに時間は夜。

森は暗闇に包まれている。


「とりあえず森に居るのは危険です。早めに街道に出て村へ戻りましょう」


キリカが言う。


「アリシア様ぁ・・・」


声の方を見ると、

ダリルに背負われたアリシアをアンが心配そうに覗きこんでいた。


「あいつは・・・なんなんですか」


俺はキリカに尋ねる。


デビルゴブリン。

それは今までに無いほどに、異質な魔物であった。


手足の伸縮、再生、それにアリシアの魔法を弾くほどの魔法耐性。


そのどれもがゴブリンが有しているはずのない能力だ。


「分かりません」


キリカが答える。


俺たちは失意とデビルゴブリンの恐怖の中、

村へと引き返すため街道を急いだ。



・・・

・・



「・・・おはよう」


翌朝、テントから出るとアリシアが起きていた。


昨夜、村に到着した時にはすでに深夜と言える時間帯だった。

体力を回復すべく毛布に包まったが、

正直十分に眠れたとは言い難い状況であった。


「大丈夫か?」


俺はアリシアに声を掛ける。

ダリルに背負われたまま村に戻り、

意識を取り戻したのが明け方だったそうだ。


「情けなくて泣けてくるわ」


アリシアが悔しそうに言う。


「・・・仕方ないさ。デビルゴブリン、あいつの能力は異常だった」


俺は答える。


「あいつ、なんなのかしら・・・」


アリシアが呟く。


「わからん」


俺がそう答えると、アリシアはそれ以上何も言わなかった。

ただ時々、思い出したように悔しそうな表情をし、

そのたびに何かを言いたそうに俺を見て、そして結局言わなかった。





「失礼します、アリシア様、グレイ様。」


昼過ぎに俺たちのところにアンが来た。


「あら、どうしたの?」


アリシアが尋ねる。


「キリカ様がお二人をお呼びするようにと、どうやら再攻撃の作戦を立てるようです」


俺たちは互いに頷き、

キリカのテントへと向かった。



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