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第54話 悪魔


廃聖堂の奥に、

不自然な床扉を見つける。


扉はすでに開けられおり、

地下へと階段が伸びていた。

薄暗く先が見えない。


「・・・地下室、ですかね」


俺は尋ねる。


「そのようです。暗がりは危険ですが、仕方ない。行ってみましょう」


キリカが答えた。


「待って」


アリシアは右手に魔力を集束し、炎を灯した。


「これで少しはマシになるでしょ」


「ありがとうございます」


俺もアリシアに習い、左手に炎をかざした。


すぐに松明のように火が点る。

アリシアのと比べると少し炎がちらついている。

だがこれでも無いよりはマシだろう。



「俺が前を歩きましょうか」


キリカに申し出る。

光源を持つ俺が前に立つほうが良いだろう。



「申し訳ありません、グレイ殿」


キリカは俺の申し出を受け入れた。

俺たちはゆっくりと地下室へと降りていった。





地下室は暗く、静かであった。

ここにもやはりゴブリンの姿は無い。


ここはどうやら物置として使われていたようで、

誇りをこぼった燭台や、食器などが散乱していた。


だがそれよりも俺たちの目を奪ったのは地下室の一番奥の壁。

地下室の壁が崩落し、

地盤が剥き出しになっている。

そしてそこには、更に奥へと続く地下通路がぽっかりと口を開けていた。



「・・・さらに地下へと続いているようですね」


キリカが呟く。


「これは手で掘られたような痕跡がありますね。ゴブリンが作ったのかもしれません」


シルバが答える。


結局、地下室の中には他に手掛かりはなく、

俺たちにはその穴から先に進む他に選択肢は無かった。



「気を付けてください。ここからはいつゴブリンが出て来てもおかしくありません」


シルバが俺に対して言う。

俺も同意見だった。


なぜならば先に続く地下道からは、ゴブリン特有の悪臭が漂ってきていたからだ。

この先には間違いなくゴブリンがいる。


「・・・入ります」


そうして俺は先頭を切って、

地下通路へと足を踏み入れた。






地下通路の中は予想外に広く、

身を屈めなくても通行が可能なほどの高さがあった。


中腰で歩くのは腰に来るし、

なにより戦闘面で圧倒的に不利だ。


地下通路は穏やかな傾斜で、

地下深くへと続いているようだった。


俺たちは無言でその道を進み続けた。

途中、幾度かの分かれ道があったが、

道の選択に悩むことはほとんど無かった。

ただしいと思われる道からは、

ゴブリンの悪臭が強く感じられたからだ。



そしてやがて、長かった地下道が終わる。

地下道は開けた空間へと繋がっていた。



「こんな地下空洞が・・・」


キリカが驚きの声を上げる

そこには鍾乳洞の様な洞窟が広がっていた。

地盤もしっかりとしており、大広間の様だ。


「穴を掘りどこかの山中の洞窟と繋げていたのでしょう。ここがやつらの根城・・・でしょうか」


シルバが呟く。

だがその割にはゴブリンの姿が見えない。


「当てが外れたのかしらね」


アリシアが言ったその時―――――――



「グギャアアァァァアアアアアアア!!!!!!」



鍾乳洞の更に奥の方から、

身も毛もよだつような雄たけびが響いた。


「っ!敵襲です」


キリカが剣を抜き、叫ぶ。

それと同時に俺たちも戦闘態勢を取った。


雄たけびに呼応するように、

鍾乳洞の奥からわらわらと何かが沸き出てくる。

間違いない、あれはゴブリン共だ。


だがこの暗がりの中、

松明の灯りだけでゴブリンと戦うのは危険かも知れない。

俺がそんなことを考えていると、

俺たちの後方に魔力が集束する気配を感じた。



<フレイムストリーム>



その瞬間、アリシアが魔法を発動する。

立ち上る炎の渦。


暗かった鍾乳洞が、炎の柱に照らされる。



「これで視界は確保出来るでしょ!戦闘が終わるまでは持たせるわ」



アリシアが叫ぶ。

さすがはSクラス魔導士だ。


そして炎に照らされ、次々と湧き出るゴブリンたちの姿が見えた。

ゴブリンだけではなく、ホブゴブリンやゴブリンジェネラルも混在している。


俺たちはアリシアの生み出した炎を中心に隊形を組んだ。



「来なさい!アリシア様に良い所見せるんだからっ!」

「うぉおおお!!アリシア様には指一本も触れさせんぞ!」

「愚かなゴブリン共め・・・我が主の贄となるがいい」



アン達3人組もそれぞれやる気になっている様子だ。

俺は少しだけ心強い気持ちになった。


よし、ここでこいつらを殲滅してやるか。

俺もまた魔力を集束する。


<フレイムボム>


俺は接近するゴブリンに向け、魔法を放った。

爆発と共に、ゴブリンの小さな身体が爆散する。

だがゴブリンたちは仲間の死などまるで意に介さない様子で、

黄色い歯をむき出し俺たちに向かってきた。


雪崩の様にゴブリンたちが迫ってくる。


「やっ!」


<フレイムランス>

<フレイムランス>



後方からアリシアが魔法を追加する。

地面から炎の槍が突き出し、

何匹ものゴブリンを串刺しにする。


「でやああああ!!!」


キリカが先頭のの一頭を切り捨てた。


「うぉおお!!」


ダリルもゴブリンの群れの中に突っ込んでいく。


ゴブリンとの大乱戦が開始された。



・・・

・・



<エアニードル>


アンが魔法を展開する。

鋭利な空気の棘が空中に幾本も作られ、放たれた。


見えない空気の刃は、

ゴブリンたちに突き刺さり、

ゴブリンたちが悲痛な叫びを上げる。


「うぉおおお!」


ゴブリンたちの群れの中で、

ダリルが両手斧を振るう。


ダリルはキリカが見せたような身体強化魔法を使用している様で、

たったの一振りで何匹ものゴブリンを薙ぎ払っていた。

重戦車のような、凄まじいパワーだ。


そしてパワー型のダリルに対し、

ゴブリンの間を駆け抜ける様に戦う影が一つ。

陰鬱な騎士バロンだ。


バロンは身体強化の魔法のうち、スピード特化と思われる魔法を駆使し、

両手に持つダガーで、次々とゴブリンを切り裂いていた。

バロンの影が群れの間を走るたびに、ゴブリンの悲鳴と血しぶきが飛ぶ。



「主、主、主、あるじ、るじるじ・・・」


バロンが俺の近くを走り抜けた時に、

何かブツブツと呟き続けている言葉が聞こえた気がしたが、気にしないことにした。


かなりやるじゃないか。

俺は彼らの姿を見て、そう思った。


キリカが実力者と称するだけの実力はある。



だが、アン、ダリル、バロンよりも一際目立っていたのは、

やはりあの男であった。



「ハアァっ!!!」


シルバは老体とは思えないような動きでゴブリンを次々と斬っていく。

しなやかで洗練されたその剣技は目を見張るほどのものであった。

ヒナタの剣技も美しかったが、それ以上だ。


シルバは他の誰よりもゴブリンを倒していたため、

必然的にゴブリンたちがシルバの元に多く集まる。


次第にシルバの周囲をゴブリンが取り囲む形となった。


まずい、カバーしなくては。

そう思った俺はシルバに向け走り出す。


だが、次の瞬間。

シルバは両手を合掌し、魔力を集束し始めた。

とてつもない量の魔力が、一瞬にしてシルバを包む。


ゴブリンたちは身の危険を感じ、

シルバから離れようとするがもう遅い。


シルバは魔力を纏った両の手を、そのまま地面へと叩き付けた。


<轟>


聞いたことも無い様な魔法名。


シルバの周囲に居たゴブリンたちが、

一斉に吹き飛んだ。


俺は唖然とする。


「グレイ殿、こちらは心配無用です」


シルバがこちらに笑顔を見せる。


「ハハッ、シルバさん。貴方、本当に何者なんですか」


俺は苦笑いを返した。






各自の奮闘によりゴブリンとの乱戦は、

完全にこちら側が有利な状況となった。

次第に数を減らすゴブリンたち。


もう少しだ。

そう思った時に、鍾乳洞の奥から再びあの雄たけびが響く。



「グギャアアァァァアアアアァァアァァアアアア!!!!!!」



「グレイ!」


アリシアが俺に声を掛ける。


分かっている。

先ほどより雄たけびの発生源が近い。


声の主は間違いなくこちらに近付いてきていた。


やがて鍾乳洞の奥から、それが姿を現す。



「・・・黒い、ゴブリン?」


俺は呟いた。


現れたのは、通常のゴブリンよりも長身痩躯で、

全身が黒い皮膚に包まれているゴブリンであった。


「ッ!デビルゴブリンです!」


俺の近くにいたキリカが叫ぶ。

これがデビルゴブリン。


俺は目の前のゴブリンに得体の知れない恐怖を感じた。

デビルゴブリンの目が怪しく光る。



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