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第53話 突入

 

 翌朝、俺たちはキリカに招集され集会所に集まっていた。


 10名以上の騎士がその場にいたが、

 朝一番で、皆眠そうにしている。


 うん、俺はまったく眠くない。


「グレイって朝に強いわよね」


 隣でアリシアが恨めしそうに言った。

 彼女も酷く眠たそうだ。



 他の騎士たちに紛れシルバの姿を見つける。

 彼は俺たちに気が付くと目線だけで挨拶をしてくれた。


 そう言えば昨日は途中から姿を見なかったけど、

 どこにいたのだろう。


 そう思っているとキリカが話を始めた。


「集まってくれてありがとう。実はこの街道周辺のゴブリンの本隊が居ると思われる場所が分かりました」


 キリカの言葉に騎士達がざわざわとする。


 ゴブリンの本隊。

 それを倒すのが、この討伐隊の使命だ。


 キリカに視線で促され、シルバが一歩前に出た。

 コホンと咳払いをして話始める。


「昨日、逃走するゴブリンを追跡したところ、やつらは一心不乱にある場所を目指しておりました。おそらくそこが彼らの根城と考えて間違いないと思われます」


 シルバが言う。

 ゴブリンを追跡。

 姿が見えないと思っていたが、

 そんなことをしていたのか。


 ゴブリンとは言え、

 魔物を尾行するのは並大抵のことではない。

 どれだけ有能なんだ、この御者は。

 俺は思う。


「という訳です。そこで我々はゴブリンの討伐に向かう部隊と、このまま村の守護に当たる隊を分けて使命を遂行することにしました。この少ない人数では隊を二分する事による戦力ダウンが心配でしたが、幸いにして今はこの隊に強力な助っ人が二人もいます。戦力面ではまったく問題ないと言えるでしょう」


 そう言ってキリカはこちらに視線を向けた。

 たしかに戦闘面では俺たちがいればある程度は担保できるだろう。


「では、隊の編成は追って連絡します。討伐隊は昼過ぎには出立です!各自準備を怠らぬように」


 キリカの言葉により、その場は散会となった。



 ・・・

 ・・

 ・


 昼過ぎに村の入り口に集まったのは7人。

 俺とアリシア、シルバ。

 それにキリカの他に3人の騎士である。


 見ると、その3人は知っている顔であった。


「挨拶は済んでいると聞きました。アン、ダリル、バロンはこの討伐隊でも優秀な騎士です」


 キリカが言うと、3人は頭を下げた。


「アリシア様!私、光栄です」

「うぉおおお!アリシア様は俺の鋼の肉体が守りますよ!」

「ふふ、主・・・ゴブリン共の命をあなたに注ぎます」


 三者三様のリアクション。

 かなり濃ゆいメンバーだ。


 戦力的にはかなりこちらに寄せた感じもするが、

 村を再びゴブリンが襲う可能性は低いだろう。


 俺たちはまだ陽の高いうちに、

 村を出発した。





 シルバの先導で俺たちは街道を進む。

 今回は馬車では目立ちすぎるため徒歩での移動となる。

 御者の務めから解放されたシルバは、

 自ら進んで荷物持ち(ポーター)を務めてくれた。

 俺たちは彼の申し出を一度は断ったが、

 ただで給金を貰うわけにはいかない、

 と押し切られてしまった。


 だが俺とアリシアの二人分の荷物を持っているにも関わらず、

 シルバの足取りは誰よりも軽やかだった。



「街道のゴブリンたちは、どうやら近くの廃聖堂に巣食っているようです」


 シルバが歩きながら説明をしてくれた。

 昨日敗走したゴブリンたちを尾行すると、

 その殆どがある地点を目指して逃げて言ったとのことだ。


「廃聖堂、ですか。地図にはありませんでしたが・・・」


 キリカが言う。


「えぇ、私もあのような場所に聖堂があるとは思いませんでした。きっと地図にも乗らないような古い建物なのでしょう」


 シルバが答えた。


「そこに本隊と親玉が居ると考えればいいのね?」


 アリシアが尋ねた。


「それは分かりません。ですが間違いなくやつらの根城の一つです。可能性は高いでしょう」


 シルバの答えに、

 アリシアは少し真剣さを増したようだった。






「・・・ところでシルバさんは戦闘はどうなんですか?」


 俺は尋ねた。

 ゴブリンとの乱戦になれば、彼を巻き込む可能性も高い。

 ただ者ではない雰囲気はひしひしと感じるが、

 戦闘シーンを見ていない以上、

 念のために確認しておいたほうが良いだろう。


「な、グレイどの・・・シルバ殿は・・・」


 キリカが驚いたように声を上げる。

 だがシルバはそんなキリカを手で制した。


「たしなみ程度ですが、剣の心得がございます」


 笑顔で答えるシルバ。

 その全身から強烈に覇気がにじみ出ていた。



「そうですか、それなら安心です」


 俺はそれだけ答えた。


 たしなむ程度なんて絶対嘘だ。

 そう思った。






 シルバの案内で、森の中を歩き続ける。


 俺たちが廃聖堂に到着したのは日没前となった。

 街道を外れた森の中に、不自然なほどに立派な聖堂が姿を現す。


 思ったよりも大きいな。



「どうしますか?ゴブリンは夜になると活動が活性化すると言われていますが・・・」


 聖堂を前にシルバが言う。

 キリカは少し考えるような仕草を見せた。


「グレイ殿、アリシア殿。どう思われますか?」


 キリカは俺たちに尋ねた。


「別に突入してしまっても良いんじゃないかしら。近くで野営をして夜に襲われても面倒だし。活動が活性化すると言っても戦闘が強くなるわけじゃないわ」


 アリシアが言う。

 大雑把な回答に思えるが、

 理にかなっている。


「俺もアリシアに賛成です。暗くなると夜目が効くゴブリンの方が有利だ」


 キリカは俺たちの答えに、大きく頷いた。


「では、準備ができ次第突入しましょう」


 俺たちは装備を整え、

 荷物を隠し、

 戦闘の準備を始めた。


 ・・・

 ・・

 ・



「うぅ・・・緊張します」


 突入前に、同行の女騎士アンが弱音を漏らした。


「あら、アン。心配なの?」


 アリシアが声を掛ける。


「い、いえ!ゴブリンは問題ないのですが、近くでアリシア様が戦っているかと思うと私、ドキドキします!」


 アンがアリシアをキラキラした目で見ていた。

 その視線には熱がこもっており、

 今にもお姉さまとでも呼び始めそうな勢いだ。


「そ、そう・・・まぁ無理をしないことね」


 アリシアが苦笑いで答えた。


「アリシア様、アリシア様!いざとなったら俺を盾にしてください。なんなら俺ごとゴブリン共を焼き払ってくれても構いません!貴女の魔法に焼かれるなら本望です!」



 今度はダリルが鼻息を荒くしている。


 アリシアはもはや引いている様子で、

 ええとか適当な返事をしていた。


 ファンが居るというのも大変だな。

 俺はそう思った。




「主・・・間もなくです。ゴブリン共を血祭りにあげ、その命を貴方に捧げます・・・フフ、フフフ」


 バロンが近くでぼそぼそと何かを言っていたが、

 怖かったので完全に無視した。


 ファンが居るというのも本当に大変だな。




「では行くぞ、前衛は私とダリル。中衛はグレイ殿、アン、バロン。後衛はアリシア殿にお願いいたします。シルバ殿は遊撃として全体のフォローを。とは言え状況に応じて各自その時に最適と思う行動をするように。撤退の場合は私が指示を出す」



「わかったわ」

「承知いたしました」



 アリシア、シルバがそれぞれ答える。

 騎士3人も、ようやく緊張感が高まってきたようだ。


 そしてキリカを先頭に、

 俺たちは廃聖堂の中に足を踏み入れた。









「なにも、居ませんね・・・」


 俺はキリカに言った。


「た、確かにそうですね・・・」


 キリカも答える。


 廃聖堂の中にはゴブリンの一頭の姿もなく、

 俺たちは肩透かしを食らった気分だった。


「ふむ、我が主に恐れをなして逃げたか・・・」


またバロンが何かを言っていた。

よしスルーだ、スルー。


俺たちはどうしたものかと、

三々五々、廃聖堂の中を調べ始めた。


「皆さん」


戸惑う俺たちに、シルバが声を掛ける。


「・・・奥に階段を見つけました。どうやらここから地下に道が繋がっているようです」


俺はもはやシルバがどのような成果を出しても驚かなくなってきていた。


俺たちはシルバの案内で廃聖堂の奥へと進む。


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