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第52話 崇拝



ゴブリンたちは数を減らすと、

次第に俺たちに襲い掛かってくるのを止め、

次々とその場を離れていった。


ふと気が付いて辺りを見ると、

すでに動いているゴブリンは居らず、

いつのまにか戦いは終息していた。





「・・・これで終わり、かしら」




アリシアが言う。

これだけ激しい戦闘の後だと言うのに、

彼女は呼吸一つ乱れていなかった。



「あぁ・・・そのよう、だな」



そんなアリシアに対し、

俺は息も絶え絶えと言った状態だ。

全力を上回るの力を出したので、

オーバーヒートしている。



「・・・フフ、辛そうね。でも凄かったわ。私にあそこまで付いて来れるなんて、グレイは実績さえ積めばSクラス魔導士になれるかも知れないわね」



アリシアが言う。


「今日のは、出来過ぎだ・・・」


俺は答えた。


アリシアの戦闘を間近で見て、

Sクラス魔導士の化け物っぷりを再認識する。



周囲を見るとゴブリンたちが大量に倒れてはいるが、

その大部分はアリシアの魔法によるものだ。

やはり火力と、スピードがケタ違いだ。




「・・・あら?あそこにキリカさん達が来てるわ?なんであそこで止まってるのかしら」



アリシアが言う。

俺も彼女の視線を追った。


「ホントだな、なんかこっち見てるけど。とりあえず合流するか」


俺たちは戦いの余熱で火照った身体を動かし、

キリカさん達の元へ向かうのであった。



・・・

・・



「――――――と言う事で村人は避難を済ませていたのでほとんど怪我人はおりませんでした!」


騎士の一人が最敬礼で、

村の状況を報告をしてくれる。


俺たちの到着が早かったため、

人的な被害はほとんどないと言うことだ。


だが俺はその報告よりも、

別の部分が気になってしまう。


目の前の騎士は、

明らかに俺に対して緊張している様であった。



「あ、ありがとうございます。あの、なんでそんなに緊張し

ているんですか?」


俺は尋ねる。


「も、申し訳ございません!!以後気を付けます!!大変失礼いたしました!」


騎士は俺に深々と謝罪すると、足早にその場を去る。

俺とアリシアはその後姿を見送った。




「今の人、グレイに怯えてたわよ?なにかしたの?」


その光景を見ていた、アリシアが言う。


「わからん」


俺は答えた。

たしかに、先ほどから周囲の騎士達から視線を感じる。


なにかあったのだろうか。

理由を聞こうにも、俺が彼らに近付こうとすると

まるで怯えているかのように、距離を取られてしまう。



「・・・とりあえずキリカさんのところに行こう。この後のことも話したいし」


キリカさんは村の一部を仮設の集会所にし、色々と後始末の指揮を執っている。


「そうね、そうしましょう」


アリシアが答えた。

俺たちは騎士達の盗み見るような視線の中、集会所へと向かった。



・・・

・・


「アリシア殿、と、ぐ、グレイ殿・・・・お疲れ様です」


キリカが言う。

明らかにアリシアに対する態度と俺への態度が違う。


騎士達のように怯えているようには見えないが、明らかにおかしい。

視線もまったく合わないし。


「この後の事を相談しにきました。状況はどうなのかしら?」


アリシアが尋ねる。


「あ、あぁ。村民たちは近くの草原に避難をしていたようで無事です。今、騎士を派遣して彼らをこちらに呼び戻しております。しばらくは村の修繕などが必要でしょうが、人的被害が殆ど無かったのは奇跡と言っていいですね」


キリカが言う。


「そう良かった。それでこの討伐隊はどうするの?ここを拠点にして村の修繕を手伝うのかしら?」


「いえ、村を襲ったゴブリンたちは倒しましたが、それもこの街道界隈に巣食うゴブリンのごく一部。討伐は継続しないといけません」


キリカが答えた。


「あれで、ごく一部なのね。でも全部殲滅するのは不可能だし、埒があかないわね」


「いえ、この辺りのゴブリンが一つの大きな群れだとすると、本隊と親玉が必ずどこかにいるはずです。それを倒すことが出来れば、群れは自然に瓦解するはずです。大きな群れを保つにはそれなりの力が必要ですから」


キリカが言う。


「そうか、親玉ね。それなら話は早いわ。位置さえ分かればそこにこちらから仕掛けましょ。なんて言ったって、こっちにはゴブリン殺戮者(スレイヤー)さんが居るしね!」


そう言ってアリシアが俺の背中を叩く。



「いてっ。叩くな。そして、その二つ名は誤解だと言っただろ」



俺は答える。

その反応にアリシアは面白がってニヤニヤしているが、

キリカの表情は完全に強張っていた。


俺はどうしても気になり、堪らずキリカに声を掛けた。


「キリカさん、あの・・・俺、何かしましたか?」


話しかけられたキリカがビクッと身体を震わせた。


「な、なにかとはどういうことですか、グレイ殿」


キリカの声が上ずっている。

視線も完全に泳いでいた。


「ってそれですよ!明らかに反応おかしいじゃないですか!」


俺は言う。

その言葉に、キリカは迷いを見せる。

言いにくそうだ。


「いや、これはその。尊敬と言いますが、恐怖と言いますか・・・」


「・・・お願いだから教えてください。外の騎士たちも同じ感じなので気になって仕方ありません・・・」


キリカは意を決したように話し出す。


「あ、いや・・・その実はグレイ殿が・・・」




・・・

・・


キリカの提案で、今日はかがり火を囲みながらの野営となった。

村の入り口付近にテントを展開し、ゴブリンの残党の夜襲を警戒する。


アリシアは早々に酒を飲み始めていた。



「・・・知らなかったわ、グレイってヤバい人だったのね」


アリシアがグラスを傾けながら言う。


「・・・やめてくれ」


俺は泣きながら答えた。

いや、正確にはもはや涙も出なかった。

今日は俺も酒を飲んでいる。


「だって・・・ゴブリン殺しながら笑ってるなんて、そりゃキリカさん達も怖がるわよ。私も怖いわ。どういう性癖なのよ」


アリシアの言葉が真に迫ってる気がした。

これはまだ俺をイジッてくれてるんだよ、な。


「あれは違うんだ・・・決してゴブリンを殺すのが楽しかったわけじゃやないんだ・・・」


俺は何度も説明した言葉を繰り返す。

なんとかキリカさんは理解してくれたが、

周囲の騎士たちも理解してくれるかは怪しいところだ。



アリシアは俺を見てため息をついた。



「ったく、魔導士は正義の味方なんだから気を付けなさいよね。イメージが悪いわ」



ごもっともである。

俺はカッコいい魔導士になりたいのだ。

決して戦闘狂などに憧れている訳ではない。





俺とアリシアがそうして話していると、

数人の騎士がこちらに近付いてきた。


ゴツイ体格をしている男の騎士と、

暗い雰囲気の同じく男の騎士。

そして線の細い若い女性の騎士が一人。



3人は躊躇しながらこちらまで来ると、

俺とアリシアの前で姿勢を正した。



「お、お話し中失礼いたします!」


女性の騎士が言う。


「どうしたの?」


アリシアが答える。


「は、はい。私たち、<紅の風>様の大ファンでして、ぜひご挨拶をさせていただきたく参りました」


女性の騎士が頬を紅潮させながら言う。


「本日の戦い、お噂以上に素晴らしいもので感動いたしました!同じ戦線で戦う事が出来て幸せです」


女性の騎士に続き、ゴツイ騎士が言葉を続けた。

どうやら彼らはSクラス魔導士<紅の風>のファンのようだ。


「あ、ありがとう。なんか恥ずかしいわね」


アリシアが照れている。

正面から尊敬のまなざしを受けるのは、

やはり恥ずかしいのだろう。


「わ、私の名前はアンと言います。黒魔法に適性があります!まだ騎士になって3年くらいですが、いつかは<紅の風>様の様に立派な魔導士になりたいと思っています!」


女性の騎士が名乗る。


「お、俺はダリルです。俺は白騎士ですが、いつか<紅の風>様をお守り出来るように日々鍛錬しています!」


アンとダリルは感極まると言った感じで話している。

憧れの魔導士に会えると言うのは嬉しいものだ。


いいな、アリシア。

俺も早くみんなに憧れられるような立派な魔導士になりたい。


<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>なんて呼ばれてる場合じゃない。



「アンにダリルね。同じ魔導士だし、気軽にアリシアって呼んでちょうだい。」


アリシアが答える。

Sクラス魔導士だと言うのに気取ったところがまるでない。

こういうのもアリシアの魅力のひとつだろう。


「よろしいんですか、あ、アリシア様!」


アリシアの言葉に二人が声を上げて喜ぶ。


「ホントは様も要らないんだけどね。まぁいいわ。・・・えっとそちらの彼は?」


そう言ってアリシアはもう一人の騎士に視線を向ける。


近くで見ると線が細くかなり頼りなく見える。

長髪により表情が隠れているからか、どこか陰鬱とした雰囲気だ。


彼はアリシアを前にしても特に気を張っておらず、自然体であった。

気になるのはさきほどからチラチラと俺の方を見ている様だが。


「あ、いえ。彼はですね・・・」


アンがそう言って、恐る恐ると言った目で俺を見た。

状況が掴めないでいると、陰鬱とした雰囲気の騎士がついに口を開いた。


「自分は・・・<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>様の無慈悲なお姿に感動いたしました。あなたのような方が現れるのを、じ、自分はずっと待っておりました」


陰鬱な雰囲気の騎士はボソボソと小声で話す。

彼は長髪の隙間から熱い視線を俺向けていた。


「ち、ちょっと、バロン。貴方、そんなこと言って!もし<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>様の逆鱗に触れたら八つ裂きにされちゃうんだよ」


アンはバロンに注意する。

ちょっと待て、その注意もおかしいだろ。


そう思ったが、この状況がもはや情報過多で、

俺にはツッコむ事も出来なかった。。


アンの忠告に耳も貸さず、

バロンと呼ばれた陰鬱な騎士は、

俺の前に膝をついた。


「ゴブリンをこの世から根絶やしにする貴方の使命に、どうかこの私の命もお役立てください。我が主よ」


バロンは真剣な表情でそう言った。

その目は何かに心酔するように、ただ暗く濁っていた。

あ、これあかんやつ。



俺は彼にかける言葉もなく、ただ茫然と立ち尽くした。

流石のアリシアも絶句と言った状況である。


俺は誰からも尊敬されるようなカッコいい魔導士を目指していたはずだが、

いつの間にかゴブリンの殲滅に執着する狂人になってしまった。

そしてファンよりも先に、信者が出来た。


俺は泣いた。


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