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第47話 騎士団

 


 ボジョレを出立して、半日。

 俺たちは山道を進んでいた。

 比較的平地の多い西の大陸に比べ、

 東の大陸は山林が多いと聞く。


「・・・お二人方とも、この東の大陸には何度か?」


 御者の老紳士が俺とアリシアに尋ねる。


「私は、三度目かしら。グレイは初めてよね」


「ああ」


「そうですか。東の大陸は、西から来た方々には寂れて見えるかも知れませんが、慣れればいい所です。ぜひゆっくりとなさってください」


 老紳士は人の好さそうな笑顔を浮かべた。

 よく見ると目鼻立ちもしっかりしていて、

 若い時にはかなりのイケメンだったことが窺える。


「寂れてなんて・・・。むしろこの静かな雰囲気が心地よく思えてきましたよ。えっと・・・」


「あ、失礼いたししました。私は名前をシルバと申します。シルバ・シャンベルタン。どうぞお見知り置きください」


 老紳士シルバは馬車を操りながら器用に頭を下げた。


 ここまでの道中で分かったが、この人の操車技術はかなり高い。

 この山道でもほとんど振動を感じることが無いのだから、かなりのものだ。


「シルバさん、よろしくお願いします。シルバさんは東の大陸のご出身ですか?」


「ええ、そうです。この地で生まれ、育ちました。以前は私は聖魔騎士団に所属していたのですが、今は引退してこのようにゆったりと御者をしております。何か分からないことがあれば、何でも聞いてください。<紅の風>様のお役に立てれば、家族にも自慢できます」


 シルバはにこにことしながら、俺とアリシアに言った。


「聖魔騎士団?」


 俺は尋ねる。


「あぁ、聖魔騎士団と言うのは、東の大陸の国軍のようなものです。各都市の自治が強い西の大陸では珍しいかも知れませんね」


 シルバは答えた。

 たしかに西の大陸には各大都市ごとに自警団のようなものはあれど、軍隊や兵士のようなものは存在しない。

 西の大陸と東の大陸では、魔導士の立ち位置もかなり違うもののようだ。


「お国柄ってやつね。ついでに言うと、私たちが向かう聖地ブルゴーに聖魔騎士団の本部があるわ。」


「その通りです。さすが<紅の風>様はよくご存じですね。」


「ありがとう。でも道中は長いんだし、出来れば二つ名じゃなくてアリシアって名前で呼んでちょうだい。そっちのが気軽だわ」


 アリシアが言った。


「失礼いたしました。それではアリシアさん、グレイさん。ブルゴーまでの道のり、よろしくお願いいたします」


 シルバはそう言った。


「ブルゴーまではどれくらいかかるかしら?」


 アリシアが尋ねる。


「そうですね、順調にいけば10日と言うところです。」


 シルバは答えた。


「結構かかるのね」


「・・・はい、実はブルゴーに至る現在主要な道の一つが封鎖されていまして、迂回が必要なのです。それが無ければ、普段はあと3日は早く到着出来るのですが・・・」


 シルバは困った顔をした。


「封鎖、ですか?一体どうして」


 俺は尋ねる。


「はい。街道の途中で、ゴブリンの上位種が活性化しているようで、通行人に大きな被害が出ているのです。騎士団による討伐隊が組織されているようですが、準備に手間取っているとの噂です」


 シルバは困った顔をした。

 俺はゴブリンと聞いて、頬を引きつらせる。

 なんだか嫌な予感がする。


「・・・ふうん。そうなのね、困ってる人が居るなら力になってあげたいけど・・・」


 アリシアが言う。


「それはありがたい話です。ちょうど今夜は討伐隊の集結地になっている村で宿を取ることになりそうです。その関係者にちょっとした伝手がありますので、話だけでも聞いていただけませんか?」


 シルバは言った。


「もちろんよ。私たちの行程にも関わる話だしね。グレイも良いわよね」


 アリシアはシルバの話を快諾した。

 俺も首を縦に振ることでそれを肯定した。


 その後は村までの間、俺たちは色々な話をした。

 東の魔物の生態や特徴、有名な街や、名産品まで。

 シルバさんの知識は幅広く、話も上手だったので、

 俺たちは飽きることなく旅程を楽しむことが出来た。



 ・・・

 ・・

 ・


 それから夕方近くまで馬車を走らせ、

 俺たちは目標の村に到着する。


 そこは川岸に広がる村であった。

 村の入り口近くにいくつものテントが張られている。


「あれが、討伐隊の宿営です」


 シルバが説明をしてくれた。


「テントの数にしては、魔導士の数が少ない気がするわね」


 馬車から顔を出して外を見ていたアリシアが言う。


「はい、それがまさに起きている問題なのですが・・・、とりあえず宿に向かいましょう。懇意にしている宿がありますので、そちらをご紹介しますよ」


 俺たちはシルバの案内で、村の宿屋へと向かった。







『碧空のウッドペッカー亭』。

 こじんまりとした建物だが、

 清掃の行き届いた綺麗な宿屋だ。


 宿屋に入ると、宿の主と思われる女性が受付に居た。

 美しい女性ではあったが、けだるい感じから、どことなく年齢を感じさせた。

 彼女は俺たちを見て言う。


「・・・いらっしゃい。来てもらって悪いけど、今日は―――」


 彼女が俺たちの話を聞く前に、言おうとした言葉を遮り、

 シルバが一歩前に出た。


「・・・キキ、お久しぶりです。相変わらず美しいですね」


「! あら、シルバさん。お久しぶり!」


 途端に宿の主は頬を紅潮させ、背筋を伸ばして立ち上がる。

 俺たちも、シルバの思いがけない行動に驚く。


「部屋を頼んでもいいですか?やはりこの村ではあなたの宿が一番ですので。客人をぜひご案内したいのです」


 シルバはそのままにこやかに続ける。

 なんだ全身からイケメン臭がプンプンするぞ。


「あ、あら、嬉しいわ。もちろんよ、3部屋でいいのかしら?」


 宿の主は俺たちを見て尋ねる。

 俺たちは頷いて肯定した。


 シルバはその言葉に少しだけ考えて、宿の主に尋ねる。


「・・・大丈夫ですか?討伐隊が集まっていて部屋が埋まっているのでは?こちらのお二人を優先していただいて、私は物置でも構いませんよ?」


 シルバが言う。


「やだ!貴方と、そのお連れの方をそんな風に扱う訳ないでしょ?良いから私に任せておいて」


 宿屋の主はそう言って、いそいそと部屋の準備をしに行った。





「ちょうど空いていたようでラッキーでしたな」


 シルバが俺たちに向け、ウインクしてみせる。

 その仕草もあまりにカッコよくて、俺は顔を引き攣らせる。


 この人、かなりやり手だな。

 俺はそう思った。







「失礼します」


 俺たちが夕食を食べ終わった頃、どこかに姿を消していたシルバが声を掛けて来る。


「あら、シルバさん。どこに行ってたの。もう食事は済んじゃったわよ」


 アリシアが言う。

 今日は俺に飲酒を禁止されたため、少しだけ不機嫌だ。


「申し訳ありません。ただ、討伐隊のリーダーに会う手はずを整えて参りました」


「もうですか?どれだけ仕事早いんですか・・・?」


 俺は尋ねる。


「いえ、ちょっと昔の仲間がおりましたもので。それでいかがですか?今から少しであれば面会が可能ですが。話だけでも聞いていただけませんか?」


 シルバは尋ねる。


「・・・いいわ。ちょうどこのまま寝るにも退屈だったしね」


 アリシアは厭味ったらしく俺に言う。

 おい、どういうことだ。


「では決まりです。討伐隊のテントにご案内いたします」


 シルバに連れられ、俺たちは宿屋を出立した。








 討伐隊のテントは、村の入り口近くに展開されていた。

 夜になると分かるが、テントのいくつかは人気が無く空となっている様子だ。

 これから討伐作戦を控えている部隊の雰囲気ではない。



「やっぱりおかしいわ」



 アリシアが小声で言う。

 俺もそれに同意した。


 俺たちは広がる討伐隊テントの中でもひときわ大きなテントの前に到着し、

 シルバが見張りと思われる男に何かを告げる。


 見張りの男はシルバに向け敬礼をし、

 恭しくテントの中に招き入れた。

 俺たちは戸惑いながらも、その後に続く。



 テントに入ると、そこには魔導士や戦士の格好をした人々が卓を囲んでおり、

 まさに会議の真っ最中と言った感じであった。


「おぉ!お久しぶりです、シルバ殿」


 そのうちの一番奥にいた戦士と思われる女性がシルバに声を掛けた。

 俺よりも歳上のようにも見えるが、

 他の騎士に比べると若い方だ。


「お元気そうでなによりです。キリカ」


 シルバも気軽に答える。

 周りにいるメンバーもにこやかで、俺たち、いやシルバが歓迎されているのだと言う事が分かる。


「いや、貴方が来てくれただけでもありがたいです。そちらの方々は」


 キリカと呼ばれた女性が、俺たちに視線を向ける。

 その視線に反応するように、アリシアが一歩前に出た。


「初めまして。私は西の大陸の魔導士、<紅の風>アリシア・キルフェルドと申します」


 アリシアの挨拶に、テントの中がざわついた。



「<紅の風>だと」

「あのSクラス魔導士の?」

「話に聞くよりも、若いな」



 アリシアに好奇の視線が集まる。

 それを制したのは、女戦士キリカの声であった。


「静粛に」


 威厳のある声に、テントの中が静まる。


「<紅の風>殿に失礼ですよ。彼女はシルバ殿の客人でもあります。礼を失えば誇り高き聖魔騎士団の恥となりますよ」


 キリカの叱責に、テント内の緊張感が増した。


「失礼しました、<紅の風>殿。部下の非礼を許していただきたい」


 キリカがアリシアに頭を下げる。


「そんな、気になさらないでください。慣れておりますので」


 アリシアも恐縮する。


「このような場で会えたことを光栄に思います。ぜひ我らに助言いただきたい」


「・・・喜んで承ります。お力になれれば、ですが」


 アリシアが答える。


「さて」


 キリカの視線が、今度は俺にと向かう。

 たしかに順番的には俺が名乗る番だ。


 だが、この流れで挨拶するのも少し勇気がいるな。

 まぁ仕方ないか。

 俺も一歩前に出て名乗る。



「俺の名前はグレイ。家名はない、ただのグレイだ。アリシアと同じく、西の大陸の魔導士だ」



 俺の挨拶に、一同が静まり返る。

 キリカや周りの騎士たちは明らかに驚いた表情だ。

 あれ、これはどういう反応だろう。


 俺が戸惑っていると、

 キリカが口を開く。






「間違っていたら申し訳ないのですが・・・ひとつ確認させてください」


「はい?」


 俺は尋ねた。


「・・・貴方はもしや、西の大陸で<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>と呼ばれている魔導士殿ではないでしょうか」




 俺は目の前が真っ暗になった。



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