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第46話 信仰の街



「ここよ」


アリシアに案内されたどり着いたのは、

ごく普通の建物だった。


周囲の民家、商店と見比べても、

ほとんど見分けがつかない。


「ここがギルドなのか?」


俺は尋ねる。


「そうよ。あそこに目印があるでしょ。これからどこの街に行ってもあれが目印になるからよく覚えておきなさい」


アリシアの視線を追うと、

軒先に銀色の金属で出来た、

エンブレムのようなものが垂れ下がっていた。



それはギルドの紋章である、

双頭の竜の姿を象ったものだった。



「随分、イメージが違うんだな」



俺は西の大陸のギルドを思い出していた。


どこの街でも、一目でそれと分かる大きな建物で、

場所によっては貴族の屋敷なんかよりもよっぽど立派だった。


特にボルドーニュのギルドなんて、

ここの何倍も面積があるだろう。



「うん、たしかにそうね。西と東では魔導士ギルドも運営母体の考え方が違うから仕方ないけど」


「考え方?」


「うん。西の方は魔導士たちを中心とした豪華絢爛派、対する東は質素倹約を常としてる感じね」


アリシアは端的に言った。


「そのままだな」



俺は笑う。



「そうね。西の方だと、魔導士は選ばれしものだ、みたいな古い考え方の人もまだ多いわね。それが建物とか、設備とかに現れている感じ。魔導士への福利厚生も厚いしね。対して東の方は、どちらかと言うと、魔導士は人々に奉仕する立場だって考え方よ。魔導士への依頼に対する報酬も西に比べたらぐっと安いわ」


「随分違うんだな。これだけ大陸間の移動が楽に出来るのに」


「・・・西と東のギルドは長い間、交流が途絶えていた時期もあるみたいだから。それに、そんなに差が生まれるのには、もっと根本的な理由もあるわ」


「根本的な理由?」


俺は尋ねた。


「それは・・・ってなんでこんなギルドの前で話し込んでるのよ。良いから早く入りましょ。入れば分かるわ」


アリシアはそう言って、

ギルドの扉に手を掛けた。


「あ、おい。待ってくれ」


俺もその後に続き、

建物の中へと入る。



・・・

・・



ギルドの中に入ると、

そこは西のギルドとは更に異なった雰囲気の空間だった。



並ぶ椅子や、テーブルなども簡素なもので、

西のギルドの様に、

ある意味で商店の様な雰囲気は、ここにはなかった。



学校、病院、教会。


どこかそんな公的な施設を髣髴とさせる。


「ようこそ、お越しいただきました。魔力の使徒よ」



奥から声を掛けられ顔を向けると、

そこにはシスターと言った出で立ちの女性が居た。



「初めまして、<紅の風>アリシアと申します」


アリシアがシスターに丁寧に挨拶する。


「まぁ、あの有名な<紅の風>様ですか?なんと素晴らしい事でしょう。これも魔力の神の御導きですね」


シスターは目を瞑り、なにかお祈りの様な文言を呟いた。

そして満足そうに眼を開けると、今度は俺の方に向き直す。


「あ、俺はグレイです。」


俺の挨拶に、シスターはにっこりと笑う。


「はい、グレイさん。よろしくお願いいたします。」


シスターは丁寧に頭を下げた。


「今日は、東の大陸到着の報を東のギルド本部に知らせていただきたく参りました。この後、ブルゴーに向かう予定です」


アリシアが言う。


「ありがとうございます。聖地ブルゴーに向かわれるのですね・・・聖職者として羨ましい限りですわ」


シスターがため息をつく。


「・・・ええ。私も楽しみにしています。よろしくお願いいたします」


「確かに承りました。<紅の風>様、グレイ様に、魔力の神の御導きがあらんことを」


シスターはこちらを向いて微笑んだ。



・・・

・・



「どう?理解できた?」


アリシアが言う。


「あぁ、なんとなく理解した。そういえば東の大陸は魔力の神への信仰が盛んなんだったな」



魔力の神。

それはこの世界で広く信仰される神の名前だ。

魔力の神は、すべての魔法の祖であり、

この世界の創生神とも言われている。 



「そうよ。だから教義に則ってギルドも質素倹約するってわけ。ここでは魔導士は魔力の神の使途として扱われることが多いわ」


アリシアが言う。


「さっき言ってたブルゴ―って言うのは・・・あの聖地ブルゴ―でいいんだよな」


俺は尋ねた。

東の大陸には初めて来たが、

有名な場所は本などで読んで知っている。

特にブルゴ―は有名だった。


「そうよ。魔力の神が降り立った地とも言われる、聖地ブルゴ―。私はそこから依頼を受けているの」


「聖地、か」


ここで俺の中の好奇心が疼く。

ブルゴ―と言えば、色々な文献や物語にも登場する街だ。


観光目的で東の大陸に来たわけではないが、

一度は寄ってみたい街ではある。


「・・・い、一緒に行く?」


アリシアが頬を紅く染めながら言う。

俺はその誘いに驚いた。


「いいのか?ああ、行けるなら行きたい。せっかく東の大陸に来たしな」


アリシアは明るい表情になる。



「ふふ、いいわよ。シオンが合流するまで一人じゃ寂しいと思ってたの」



こうして俺とアリシアは、

ブルゴーまで一緒に向かう事で合意した、





その晩、アリシアは新しい旅の仲間が増えたことを祝いたいと言って、

俺を半ば強引にボジョレの街へと連れだした。


東の大陸の料理は西の大陸とは異なり、

薄味で俺の好みであった。

同じ海鮮料理でもラスコとはまるで違うんだな、と思った。


だが案の定と言うか、予想通りと言うか。

アリシアは夕飯を口に運びながら、

とにかく大量の酒を飲んだ。


順調に酔いが回ったアリシアは、

先日の反省が嘘だったかのように、

俺に絡み、泣き、愚痴を言い、


最後には、酒場で隣にいたおじさん連中と意気投合して

更に酒を飲んでいた。

気が付けばアリシアは酒場の中心で、

他の客と大いに盛り上がっていた。


俺はただカウンターの端で、

チビチビとノンアルコールのブドウジュースを飲みながら、

どんどんテンションが上がっていくアリシアを遠い目で見ていた。


とても長い夜であった。


・・・

・・



明くる日、ボジョレの街の入り口。

アリシアは真っ青な顔で、

今にも倒れそうだった。


「気持ち悪い・・・」


「あれだけ飲めば当然だ」


俺は言う。


「ね、グレイお願い。また回復魔法かけて」


アリシアが甘えてくる。


「ダメだ」


「なんでよ!」


「少しは苦しめ。じゃないと反省しないだろ」


「・・・けち」


アリシアは頬を膨らませた。


「さて、良いからそろそろ行くぞ」


二日酔いのアリシアは気にせずに、

俺はボジョレの街を出ようとする。

ここからブルゴへは大陸を北上する必要がある。


「ちょ、ちょっと待って!」


アリシアが俺を止めた。


「あん?」


俺は返事をする。


「もしかして歩いて行く気?今から馬車が来るわよ」


「馬車?」


俺は尋ねた。

昨日宿屋の店主に聞いて調べたが、

ブルゴへの定期馬車は無いし、

次の街へ向かう馬車の出発は明日だったはずだ。

てっきり歩いていくのかと思っていたが。


俺がそんなことを考えていると、

街の方からガラガラと音を立てて馬車がやってくる。


「あ、来た来た。昨日のうちに予約しておいたのよ。やるべきことはちゃんとやってるんだからね」


アリシアが馬車を見て得意そうな顔を剥ける。

だが俺は目の前に現れた馬車を見て、

開いた口が塞がらなかった。



「お前な・・・」


アリシアを睨む。


「なに?」


アリシアはきょとんとした表情を浮かべる。


「なにじゃないだろ!・・・どこぞの貴族だ、あんなデカい馬車に乗るのは!たかが移動なのに目立ってしょうがないぞ」


俺は目の前の馬車を指した。


金銀の装飾と、色鮮やかな鉱石により飾られたそれは、

厳かな東の大陸には似つかわしくないほど、豪華絢爛と言った装いだった。


付属の御者も、まるで執事の様に整った身なりをしている。

白髭がダンディな老紳士と言った感じだ。


この馬車一台をを手配するのに、

一体どれだけの費用が掛かることだろう。


「・・・え、ダメなの?だって馬車ってこんな感じでしょ?いつもシオンと移動するときはこうよ」



アリシアは言う。


忘れていた。

俺はため息をついた。

彼女は元は貴族の出身で、

今は泣く子も黙るSクラス魔導士の<紅の風>だ。

金銭感覚なんてあって無い様なものだ。


「お前・・・ホントあれなんだだな」


俺は冷ややかな目で言う。

その言葉にアリシアは少し慌てて答える。


「ちょ、ちょっとどういうことよ」


俺はその質問にはもう答えなかった。


結局、俺はアリシアの用意した馬車に渋々と乗り込み、

ボジョレの街を出立した。


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