表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/213

第40話 強敵


凄まじい水流の中、ナマズに咥えられていることにより、

俺は一切の抵抗をすることが出来なかった。


気が付いた時にはナマズは姿を消しており、

俺は川辺に打ち上げられていた。


身体にはべっとりとナマズの粘液と思われるものが付着している。

臭い。


「最悪だ・・・」


こんな姿をヒナタに見られた日には、

しばらく側に寄ってこないかも知れない。


俺はため息ついて、顔を上げた。

ここはどこだろう。


側を流れる川で入念に身体を洗った後、

俺は川辺を歩き出した。

まずはヒナタを探して合流しなくては。





「まずいな・・・」


歩き始めて早々に俺は問題に直面する。

目の前には分岐路。

左右に道が続いていた。


ここまですべての行程はヒナタ任せにしてきたから、

ここでどちらを選ぶべきか俺には分からなかった。

誤った道を選べば大幅に時間を失うことになるし、

何が待ち構えているかも分からない。


俺はヒナタの言葉を思い出す。



―――――――通常ダンジョンは奥に行くほど濃密な魔力が充満している。それが洞窟内の空気に交じって出口に向かって流れてくる。



「魔力、か・・・」



ヒナタが俺とはぐれたからと言って帰還を選ぶとは考え辛かった。

となると最奥を目指して進むのが、最もヒナタと合流する確率が高い方法だろう。



俺は目を閉じて、意識を集中した。


魔法を使う際には魔力を集束する。

魔導士それぞれで魔力を集束する際のイメージは異なるが、

俺の場合は身体を取り巻く魔力の流れが、

右手を中心に次第に小さな渦になっていくイメージだ。


いつもは自分の体内にある魔力をそのように動かしているが、

今回は自分の外にある魔力を探す。


俺は自分ではなく周囲に、意識を飛ばしていく。


次第に自分の周りに、

なにかねっとりとした重たい空気が流れているようなそんなイメージが沸く。


周囲の空気の中に、軽いところと、重いところ。

そんな判別が出来るようになってきた。


これが魔力ってことで良いのだろうか。

俺は更に意識を集中する。


さらにイメージは明確になる。

軽い空気と、重たい空気はふわふわと浮遊しており、

どちらかと言うと重い空気の方が移動が速く、

どこかから漂ってくるように思えた。


重たい空気の大半は、

二つの通路のうちの右側の通路から流れてくる。


俺はそこで息を吐いて、

意識を元に戻した。



「・・・右、かな」



俺は半信半疑ながら、

自分のイメージを信じて分岐路を右に曲がった。



しばらく行くと、

俺の目の前に大きな扉が現れる。


このダンジョンの入り口と同じデザインの扉。

ダンジョンの最奥の証だ。

どうやらナマズに咥えられて、

いつの間にか最下層に到達してしまっていたらしい。



俺はそっと扉に触れる。

扉は開いた様子はなく、どうやら俺が一番乗りだという事が分かった。


「さて、どうするかな・・・」


俺は考えた。

おそらくここで待っていれば、ヒナタと合流することが出来るはずだ。

彼女の進行スピードを考えれば、一時間もしないうちにここに現れるだろう。


ヒナタと合流し、主を倒し、街に帰還する。


それが想定される最良の選択肢だが、

ふと俺の心にある考えが浮かぶ。


「・・・俺一人で倒せるもんなのかね」


思い出すのはヒナタと共に戦った、

オークキングやゴブリンクイーン。

それからあの恐ろしい炎龍のことであった。


そういえばヒナタと一緒に行動することが多かったから、

俺は強敵と呼ばれるような相手と1対1で戦った経験がない。


今の自分の力はどの程度のものなのか。

リエルの修業により自分がどれほど成長したのか。


その好奇心は次第に大きくなり、

俺は普段の自分では考えられないような危険な選択肢を取ろうとしていた。


「ダメだったら大人しく逃げればいいか」


俺は扉に手を伸ばし、

扉に魔力を伝導した。


扉は俺の魔力を感じると、音を立ててゆっくりと開いた。

扉が動く地響きで、パラパラと壁が崩れる。


開いた扉からは、ねっとりと重たい、今までで一番濃密な空気が

噴き出ていた。


俺は息を飲み。

大きく深呼吸。


そして、ダンジョンの主の間へとひとり足を踏み入れた。



・・・

・・


部屋の中は、洞窟の中だという事を忘れるくらい

綺麗に整っていた。



イメージは古い神殿の祭壇の間。


かがり火に照らされ、

岩作りの祭壇などが目に付いた。


そしてその中央には、

濃厚な魔力の放出源と思われる影がひとつ。


俺は一目その影を見た時、

普通に人間の魔導士がそこにいるのだと思った。


僧侶が身に着けるようなローブと、

長いつば付きの帽子。

それから先端に宝石の付いた王杓のような杖。


だが近付いてみて、それの異様な姿に俺は驚く。

帽子の下から覗く顔には、肉が無く、頭蓋骨が剥き出しになっていた。



「ワイトキング」



俺は呟く。

一部では死の魔術師とも呼ばれる魔物がそこにいた。



「貴様、不思議ナ魔力を放っているナ」


頭の中に、気味の悪い声が響く。


「話せるのか・・・?」


それは目の前にいるワイトキングの声であった。

肉を失った口から発せられたものではない。

脳内に直接響くような声だ。


「私ヲ舐メルナ。身体も記憶モ失ったガ、魔導士ダ」


ワイトキングは元は人間だったものが魔物として転生したものと言われている。

言葉を操るのも当然と言う事か。


「悪いが、倒させて貰う」


俺はそう言うと、

早速戦闘態勢を取った。


ワイトキングはそんな俺の姿を見ると、

ため息をつくような仕草を見せる。


「フン、私二単身で挑むナド愚かナ事ヲ。精々コノ退屈ナ命ノ呪縛を忘レさせてクレ、若キ魔導士ヨ」


ワイトキングは王杓を構えた。

ワイトキングの雰囲気が変わる。

その途端、濃密な魔力が全身から発散された。


俺の心拍数が一気に跳ね上がる。

間違いない、こいつはかなり強い相手だ。



「・・・力試しにはうってつけ、だな」


「力試シ?試ス事ナド出来ンヨ。ココが貴様ノ終幕ダ」


そう言うと、ワイトキングは王杓に魔力を集束した。

来る。


<アイスランス>


放たれた魔法は、地面を伝い俺のすぐ目の前で発動した。

巨大な氷の刃が俺を目掛け、地面から突き出す。

洗練された魔力。


俺はそれをバックステップで回避した。


<アイスランス>

<アイスランス>


王杓が青く光り続ける。

そのたびに、俺を追う様に氷の刃が幾本も地面から生み出された。


「・・・くっ」


魔法の発動が早い。

人間であればかなりの遣い手と言えるような魔法発動スピードだった。


「避ケルか、虫ケラよ。では、コレはドウダ・・・避ケラレハしまい」


そう言うとワイトキングは上空に王杓を掲げ、

それを大きく回し始めた。


王杓が一度二度と弧を描くたびに、

ワイトキングの頭上に小さな氷が無数に生まれる。

一つ一つが鋭く尖り、まるで短剣のように形作られた。


「行クゾ」


<アイスソードストーム>


ワイトキングは王杓を俺に向けて振り下ろした。

その途端、無数の氷の短剣が俺に向けて放たれる。

すさまじい勢いで短剣が迫る。


これを回避するのは不可能だと俺は瞬時に悟った。


右手を前に出し、俺も魔力を集束。

魔力は圧縮ではなく、拡散。


より広範囲に炎が到達するよう魔力を散らす。


<フレイムストリーム>


俺は魔法を発動させる。

拡散された炎の魔法は、渦巻く炎には成らず、

ただ高熱の空気の壁となり俺とワイトキングの間に展開された。


ワイトキングの無数の氷の短剣は、

その高熱の壁にぶつかると瞬く間に溶け、

大量の水蒸気となり蒸発した。

あたりに蒸気が立ち込め、一気に部屋の温度が上がる。


俺はワイトキングの魔法を正面から迎撃することに成功した。

だがワイトキングの攻撃は止むことがない。


「フハハハ、中々ヤルな。次はコレダ」


ワイトキングは王杓を俺に向け、更に魔力を集束する。

魔力は青白く輝き、

体力の魔力が圧縮されているのだという事が分かる。

同時に強烈な冷気が王杓から漏れ出している。


だが俺も負けじと魔法を集束する。

逃げる必要などない。


俺は右手に魔力を集約し、

今度はそれを限界まで圧縮した。

より多く、より小さく。

込めた魔力は次第に赤い光となり、

俺の右手を輝かせた。



< アイスストリーム >

< フレイムストリーム改 >



俺とワイトキングはほぼ同時に魔法を発動。

圧縮されたそれぞれの魔法は、

まるでレーザー砲のような勢いで発射された。


超高熱と超低温の冷気の光線。


俺とワイトキングの中間で激突した魔法は、

お互いの魔法を打ち消し合いながら放たれ続ける。


二つの魔法の交差地点から、

とてつもない量の水蒸気が噴き出す。



「・・・貴様カナリの遣い手だな」


ワイトキングが放たれ続ける魔法の向こうから、

言葉を発する。


「お前に褒められてもなんも嬉しくないが、ありがとよ」


俺も魔法を放ちながら答える。

脳に直接語り掛けるワイトキングとは違い、

俺は小声で呟いただけだがどうやらワイトキングには伝わったようだった。


肉を失った頭蓋骨だが、ニヤリと笑うのが見えた。

その瞬間、俺たちの魔法は同時に爆発し、はじけ飛んだ。

お互いの魔法がお互いの魔法を相殺したようだ。



ワイトキングは水蒸気の向こうから、俺に声をかけた。


「いいゾ!楽しクナってきた!退屈を持て余し、ここで無限の時間ヲ生きていたが、たまには全力を出すトしよう!」


ワイトキングがそのローブを脱ぎ捨てる。


「そりゃどーも、やる気なんか出さなくていいのによ」


俺はそう言ったが、

俺自身もまたレベルアップした自分の魔法にワクワクしていた。


まるで自分の身体の一部の様に、

魔力を魔法を操ることが出来る。


まだ試したりない。

もっとこいつと戦いたい。

心からそう思い始めていた。



・・・

・・



「ハあッ!!」


ワイトキングは俺に接近すると、

その白骨化した右脚で俺に蹴りを放った。

俺はそれを防御し、反撃に同じく蹴りを放つ。


ワイトキングはそれを状態を状態を反すことにより避け、

俺の身体が流れたところに魔法を発動させた。


「アイスランス」


俺の脚元から、氷の刃が伸びる。

マズい。



俺は身体を投げ出し、転がるようにそれを回避する。

だが回避は間に合わず、右脚の肉が僅かに切り裂かれた。


「ぐっ!」


痛みに顔がゆがむ。


俺はそのまま回転し、

受け身を取りながら身を起こした。


だが顔を上げた瞬間、

ワイトキングが目の前におり、

深く腰を落として俺に突きを放った。


「ムン!!」


ワイトキングの正拳突きが俺の腹に決まる。


「ぐはっ!」


そのあまりの威力に、俺は吹き飛ばされた。

痛みで目の前がチカチカする。


本気を出すと言った途端、

ワイトキングの戦闘スタイルが中距離から接近戦へと変わった。


「・・・武闘派のガイコツってどういうことだよ」


俺は呟いた。


「私にも分からん。だが身体が勝手に動クのだ」


ワイトキングが答える。

気のせいか、だんだんと言葉が流ちょうになっていく気がする。


「貴様と戦っていると、何故かワクワクスルな。私二既に記憶ナドないが、遠い昔二貴様と戦った事ガあるような懐かしい感覚がスルよ」


「俺はお前なんか知らんけどな」


俺は答える。


「フン、今のハ言葉の綾だ。私も貴様ナド知らン。呪われタ私ニハもはや何モ残ってハ居らぬ。タダ、この時間ヲ楽しませテクレレバそれでいい」


ワイトキングは笑う。


「付き合ってやるよ。俺もまだまだ戦い足りないんだ」


俺は再び構えた。

魔法だけじゃない、セブンさんにも体術を叩きこまれたんだ。

向こうが格闘術を使うのであれば、それすらも正面から受けてやる。


「クク、良イゾ。魔導士のクセニ中々漢気がアルじゃないか」


ワイトキングも構える。


お互いが同時に地面を蹴り、

俺たちは再び交錯した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ