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第207話


あれから『灰色の魔導士』の手記には、

新たなページが次々と更新されていた。


そこにはリシュブールの戦闘を描写してるものが多く、

筆者はまるで側で目の前で見ていたかのように、

リシュブールの魔法を精緻に記述していた。


古龍の軍勢との戦い、

帝国の魔導兵との戦い。


それは創作とも思えるような、

冒険活劇であった。


だがそのお陰で俺は、

彼が時間魔法をどのように使用していたのかを、

知ることが出来た。


俺にとっては、いわばこの手帳は教科書だ。


そして俺は彼の戦闘を模倣するために、

訓練を開始していた。



「・・・・」


精神を統一し、

右手に魔力を集束する。


そこまではいつもと同じだ。


だが俺はそこから更に、

指先へと魔力を集める。


最も魔力を集めやすいのは人差し指、

次いで中指、薬指だ。


そうしてそれぞれ指に集めた魔力を使用し、

俺は時間魔法を発動させる。



<時よ>


俺以外の時間が止まる。

ほんのひと呼吸の間の時間停止、

そしてまた時間が動き出す。


<時よ>


二本目の指で魔法を発動する。

またひと呼吸の時間が停止する。


<時よ>


そして最後の指。


今まで使用していた時間魔法よりも短い時間停止。

その分、身体にかかる負担と、魔力の消費は少ない。

だがそれでも今の俺では指三本が限界だった。


手帳によれば、

リシュブールはこの方法で魔法を断続的に使用し、

戦闘中の時間を自由自在に操ったという。

それが本当ならば、恐ろしいほどの魔力だ。



俺は時間魔法が切れると同時にその場に倒れ込んだ。


「・・・クソ・・・限界だ・・・」


俺は呟いた。


こうして毎晩、時間魔法の訓練をしているが、

俺はこれまでにない充実感を覚えていた。



偉大なる師の残した禁忌の魔法。

何も分からずに手渡されたあまりにも強大な力。

手帳のお陰で、明確な道筋が開かれたような気がした。



それはつまり――――


「俺は、まだまだ強くなれる・・・」


そう考えると楽しくて仕方が無かった。


俺はすっかり手帳に没頭し、

それに描かれる英雄リシュブールの軌跡を追うことに夢中だった。


こうして修行を始めて何日経ったっけ?

ああ、いいや。よく思い出せない。


俺は身体を起こし、

回復薬をがぶ飲みすると、

再び訓練を開始した。


――――バキン。

――――バキン。

――――バキン。


耳元で、何かが砕ける音が響き続けた。



・・・

・・




ある日の午後、

孤児院に一人の小柄な女性が訪れた。


「やぁ、グレイはいるかな?」


「ニケ?」


そう言って現れたのはグリオールのパーティメンバーであるニケだ。


「どうしたんだ?」


「うん、グリオールがすっかり意気消沈していてね〜。仕事にならないから私が変わりに来たんだよ」


「仕事?」


「うん、ギルドから呼び出しがあってね。フェンリルのこと、改めて聞き取りしたいそうなんだ」


ニケは答えた。


「あぁ、そうなのか。あれ?でも既に報告書は出してなかったか?」


俺の質問にニケが頷く。


「うん、もちろんさ。でも今回はちょっと別口みたいなんだ」


「別口?」


「うん、そう。だから良かったらグレイも同席してくれないかと思ってさ。上位の魔導士の同席があると何かと捗るし」


ニケがハハハと頭を掻いて言った。


「あ、ああ。それは構わないぞ。いつだ?」


俺は尋ねた。


「良かった。向こうの指定は今日の夕方なんだ。大丈夫?」


俺はその言葉に頷く。


「ああ、問題ないぞ」


「良かった、じゃあまた後でギルドで会おう」


そう言ってニケは去っていった。


パーティの中では自由奔放な印象だったが、

グリオールの代わりにきちんと役割を果たしているようだ。


俺は彼女を見送り、

午後の時間を確保するためにいろいろな予定を早めることにした。



・・・

・・


「あ、グレイ。ここだよー」


ギルドの到着すると既にグリオールとニケとララァの三人が到着していた。


「遅れてすまない」


俺は彼らに近づき、そう言った。


「いや、こちらの方こそすまない。ニケに呼びに行って貰ったが迷惑でなかっただろうか?」


そういったのはララァだ。


「いや、乗りかかった船だし、ギルドに協力するのは魔導士の義務だからな」


俺がそう答えると、

何故かニケとララァが苦笑いした。


「だ、そうだよ?グリオール?」


ニケが言う。


「チッ、分かってるよ。ちゃんと協力はする。報告書で出した内容をもう一度語れば良いんだろ?」


そう言って答えたグリオールは機嫌が悪そうだった。


「すまないな、グレイ。あれ以降、こうなんだ。何度も依頼失敗の話を聞かれてかなりご機嫌斜めだ」


ララァが俺に耳打ちする。


「構わない。気持ちは分かるからな」


俺は答えた。



その時、ギルドの奥から一人の男が出てくる。

彼は俺たちを見つけると、会釈し言った。


「お待たせしました、<青海の牙>のお三方と、Aクラス魔導士グレイ様ですね?」


グリオールたちと俺が同時に頷く。

どうやら<青海の牙>と言うのはグリオールたちのパーティ名らしい。

初めて知った。


「こちらへどうぞ。マスターがお待ちです」


俺たちはそう言ってギルドの奥へと案内される。



・・・

・・


「4人とも初見だな。エスタのギルドマスターをしてタトゥーインと言う」


そう言って現れたは切れ長の目をした、細身の男だった。


俺たちは彼に頭を下げ、促されるままに席へと座る。


「何度も、すまないな」


タトゥーインが言う。


「・・・本当だぜ」


グリオールが小声で言った。

それを聞いたニケがグリオールの足を蹴る。


「あの報告書だけでは情報が足りなかったですか?」


そう切り出したのはララァだ。

報告書を作成し提出したのは彼女だ。

自分の仕事に不備があったのか気になるのだろう。


「いや、そんなことはない。丁寧に情報が書かれており、新人の手本になるような報告書だった」


タトゥーインの言葉にララァの表情が柔らかくなる。


「では・・・今日は何を?」


ニケが尋ねる。


このパーティは女性陣がしっかりしているな、と俺は思った。


「もちろん先日、君たちが対峙したフェンリルのことだ。ギルドによる調査の結果、当該のフェンリルを強個体と認定することにした」


「強個体・・・?」


思わず呟いた俺に他の4人の視線が集まった。


「なんだグレイ君、強個体は初めてか?」


そう言ったのは尋ねたのはタトゥーインだ。


「ええ、まぁ」


俺は正直に答えた。


「あぁ、構わない。強個体と言うのは文字通り同一の魔物の中でも特別な力や能力を持ったものをそう呼ぶことにしてるんだ」


「そうなんですね、ありがとうございます」


俺は礼を言った。


「あのフェンリルは、やはり普通じゃなかったんですか?」


ララァの質問にタトゥーインが頷く。


「あぁ、魔力と眷属の数が通常の比じゃない。かの有名な『狼王』にも匹敵するような力を持っているとギルドでは考えている。・・・そうじゃなければ<青海の牙>にAクラス魔導士まで加えたパーティが負けるわけない、だろ?」


「狼王・・・?」


俺は呟くと、隣のララァが耳打ちしてくれる。


「狼王は有名な狼型の魔物だよ。Sクラス魔導士をも凌ぐ力を有していると言われる最強の魔物の一体だ」


「なるほど」


俺は答えた。


「どうするんだ?再戦するなら当然<青海の牙>は参加するぜ」


グリオールが言う。


「ありがたい。もちろんそのつもりだ。今、いくつかのパーティに声をかけていてな。恐らく合同依頼となるだろう」


タトゥーインが答えた。


「・・・グレイ、君も参加してくれるか?正直、Aクラスの君がいてくれると助かるんだ」


タトゥーインの目が俺に向く。


「もちろんです」


俺は彼の誘いに素直に応じた。


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