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第205話


「ただいま、お祖母様」


「おかえりなさい、アリシアちゃん」


エスタの町に帰った俺たちを出迎えたのは、

アリシアの祖母テレシアと彼女が営む孤児院の子供たちだった。


どこから知ったのか、

子供たちは頻りに翼竜討伐の話を聞きたがり、

アリシアはあっという間に子供たちに連れ去られてしまった。


残された俺とテレシアはお互いに視線を合わせ苦笑する。


「おかえりなさい、グレイさん」


テレシアが声をかける。


「ただいま、テレシアさん」


俺はそう言って、彼女に答えた。


うん、なんか悪くないな。

俺はそんな事を考えていた。



・・・

・・



「おぅ、グレイ。今日もソロか?」


そう言って話しかけてきたのは、

エスタの街の魔導士グリオールだ。


筋骨隆々で巨大な剣を装備した、

魔導士と言うより戦士と言った様相の男だ。


エスタの街で活動する内に、

俺には顔見知りが増えていた。


「あぁ、そうだ」


「先週も一人じゃなかったか?お前と<紅の風>はペアだと思ってたんだが違うのか?」


グリオールの言葉に俺は頷く。


「いつでも一緒と言う訳じゃないんだ。アリシアは別件で忙しいようでな」


俺は答えた。


フォレスから戻ってから、

アリシアは孤児院のほうの手伝いが忙しくなり、

一緒に魔導士としての活動をすることはなかった。


「そうなのか。じゃあ良かったらウチのチームと一緒に依頼をやらないか?大物でな、ちょうど助太刀が欲しかったんだ」


グリオールは言った。


ちょうどいい、と俺は思った。

試したいこともあったし、

何より大物は実入りが良い。


「ああ、構わないぜ」


俺は答えた。



・・・

・・



「グレイはテレシア様の孤児院に世話になってるのかい?」


依頼の現場へと向かう最中、

話しかけてきたのはグリオールのパーティーメンバーである、ニケだ。

背の小さい女の魔導士で、どことなく猫を思わせる雰囲気を纏っている。


「あぁ、そうだ」


俺は答える。


「そっかそっか、テレシア様は優しいからね。実は僕たちもあの孤児院の出身なんだよ」


ニケが言う。


「そうなのか?」


俺の言葉にニケと、他のメンバーも同時に頷く。


「そうだ、私とニケはこのエスタの孤児でな。グリオールはボルドーニュの孤児で、テレシア様に引き取られたのさ」


そう答えたのはもう一人のパーティーメンバーであるララァだ。

彼女も女性の魔導士で、主に回復魔法を得意とする。


ニケが猫なら、彼女はリスかな。

俺は彼女の横顔を見て、

そんなことを思っていた。


グリオールとニケとララァはBクラスの魔導士であったが、

間もなくAクラスに昇格するだろうと言われている実力者たちだ。


そんな彼らが助力を必要とする依頼が、

簡単なものであるはずがない。


今回の依頼は、

エスタ近くの荒野に現れたという魔物の討伐であった。


「ニケ、どうだ?」


グリオールが尋ねる。


「うん、間違いない。魔力の痕跡が至る所にある。自分のテリトリーだって誇示してるみたいだよ。うん、おそらくあの岩場にいると思って間違いない」


斥候役も務めるニケが答えた。

彼女の視線の先に、岩場があった。


「こちらの接近には気が付いているようだな」


ララァが言う。

ニケがそれに頷いた。


「作戦は?」


俺はグリオールに尋ねる。


「俺とニケが先行する。おそらく周囲には眷属どもがいると思うから、グレイはララァのサポートと遊撃を頼む」


俺はグリオールの言葉に頷いた。


俺は視界の先に見える岩場に意識を向ける。

ニケの言うとおり、威嚇代わりの魔力がビリビリと向けられていた。

こいつは気を引き締め無いといけないな。



・・・

・・


「いたぞ・・・」


グリオールが言う。

彼が言葉とともに吐いた吐息が白くなった。


「綺麗・・・」


そう呟いたのはララァだ。

俺たちの視線の先には真っ白な毛並みの巨大な狼が居た。


長い年月を生きて、

魔力を纏った魔狼。

フェンリルと呼ばれる魔物だ。


あれからわずかに進んだだけなのに、

辺りの気温は恐ろしく低くなっていた。

これもやつの魔力の影響だろう。


フェンリルは青白い魔力を纏い、

こちらを警戒している。

その魔力からは辺りを凍てつかせる冷気が放出されていた。



踏み出した足元で、パキリと霜が割れる音がした。



「・・・チッ、やはりこちらに気が付いてやがる。奇襲は無理だな」


「魔狼は警戒心が強いからね。仕方ないよ」


グリオールとニケが言う。


「・・・上等だ、俺達の力を見せてやるぜ」


そう言ってグリオールは白魔法で己を強化し、

大剣を構える。


周囲の空気がピリと張りつめる。


「行くぜ!」


グリオールが走り出し、

それに続き、

俺たちもフェンリルに接近する。


フェンリルは大きく唸り声を上げて、

魔力を放出した。


フェンリルから放射状に氷が生まれる。

刃のように鋭い氷はまっすぐ俺たちへと迫る。


「おおおるるぁあああ!!!」


突進の勢いそのままに、

グリオールが大剣を振るう。


氷の刃は砕かれ、

その勢いを失う。


「後は任せて!」


そう言ってグリオールの背後からニケが飛び出す。


見事なスイッチだ。

彼らの連携の高さが伺える。



<ウインドカッター>


ニケの短剣から幾つもの風の刃が生み出される。

風の刃は空気を唸らせてフェンリルへと向かう。


「ウォオオオオン!!!」


だがフェンリルが一鳴きすると、

足元の大地から氷の柱がせり上がった。


ニケの魔法は氷の柱に阻まれ、

フェンリルに至る前にかき消される。


「クソッ!遠距離は駄目だっ!ニケ、接近するぞ!」


グリオールが叫ぶ。


「分かってるよ!」


魔法を阻まれたニケは、

既に短剣を構え直し駆け出していた。


それに続くようにグリオールも大剣を担ぎ走り出す。


その直前、グリオールは俺の方をチラリと見る。


俺はそれに頷き返すと、

右手に魔力を集中する。

そのまま間髪入れずに魔法を放った。



<ハイフレイムストリーム>



俺が放った炎は一直線にフェンリルへ向かう。

当然先程のようにフェンリルの氷に阻まれるが、

それも織り込み済みだ。


俺の魔法はフェンリルには届きはしなかったが、

代わりに俺の魔法が道を作った。


俺の炎により氷が溶けた道を、

グリオールとニケが一気に走り抜ける。


「グゥウウウォオオオ!!!!」


グリオールが野獣のような咆哮と共に、

大剣を振り下ろす。


重量のある大剣とは思えないような剣撃。


フェンリルはそれを回避するが、

その回避先にはニケが待ち構えていた。


「獲った!!」


ニケの短剣がフェンリルの喉元に届く瞬間、

フェンリルの目が青白く光る。


そして放たれる衝撃波。


「グッ!?」

「なっ!」


それにより二人は吹き飛ばされ、

俺とララァの近くまで後退してくる。


「大丈夫か?」


すかさず白魔法で回復するララァ。

見ればグリオールの右腕が凍りついている。


「ぐぅ・・・流石に強いな」


肩で呼吸をしながらグリオールが言った。


「見て!」


ニケが叫ぶ。


俺たちが体勢を立て直している間、

フェンリルは次の行動を起こしていた。



「オオオオオオオオオオオン」



辺りに響くような遠吠え。

俺たちは思わず耳を塞ぐ。


「ぐ・・・なんだ・・・」


それと同時に、

辺りにフェンリルによく似た気配が現れる。


「なっ!眷属を呼び寄せやがった!」


グリオールが驚きの声を上げる。


見ればフェンリルの氷の中から、

次々と白い毛並みの魔狼が生み出されていく。


「ちょっと、どこまで増えるんだこいつら!」


ララァが言う。


たしかに想定よりも遥かに多くの魔狼が生み出されていく。


魔狼たちはフェンリルの声に応えるように俺たちに向け駆けてくる。

俺たちはあっという間に魔狼の群れに取り囲まれてしまった。


「・・・撤退だ!」


グリオールの判断は早かった。


未だ凍ったままの腕の治療を止めさせると、

フェンリルから距離を取るように動き出す。


「グリオール、殿は任せろ。先に行け」


俺は彼に声を掛ける。


「ぐ・・・すまねぇ、グレイ」


俺は彼に頷くと、

ニケとララァを先に行かせる。


<フレイムボム改>


小型の爆発を弾幕の様に張り、

俺は魔狼たちの接近を阻止する。


次から次へと襲いかかる魔狼に向こうに、

悠然とこちらを見つめるフェンリルの姿を見た。


「・・・チッ」


この状況では、

あれを試している時間もない。


俺はグリオールたちが十分な距離を取ったことを確認し、

俺自身も戦線から離脱した。



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