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第202話




耳元でバキンと大きな破壊音が聞こえて、

我に返る。



目の前には巨大な翼竜。

全身をアリシアの炎に焼かれながらも、

動けない彼女目がけて滑空してくる。



まずい。

俺はアリシアを守るため、

咄嗟に右手に魔力を収束する。



<時―――――




「グギャアアアアア!???」




だが時間魔法を発動しようとしたその時、

巨大な翼竜は更に強力な炎に包まれた。


爆発が起き、

巨大な翼竜の身体が破壊される。


そのまま身体のコントロールを失った巨大な翼竜は、

崖下へと墜落していった。



「・・・舐めんじゃ・・・ないわよ」



見ればアリシアが右手を掲げ、

魔法を放っていた。


アリシアはよほど魔力を使ったのか、

その場に膝をついた。



俺はその姿に安堵する。

流石はアリシアだ。

彼女なら一人で群れを撃破することも可能だったのではないだろうか。



俺とアリシアの視線が合う。

アリシアは肩で呼吸をしながら、

こちらに向けて微笑んだ。



  


あれ?


俺は一瞬だけ、状況がつかめなくなった。

なんだろうこの違和感は。



自分がひどく混乱しているのが分かる。

なんだろう、この光景。

俺はどこかで見たことがあるような気がする。



自分を落ち着かせ、

深呼吸をする間に、

記憶がつながる。



たった今、彼女は巨大な翼竜を倒したのだ。

そうだ、アリシアは本当にすごい魔導士だ。



戦いは終わったんだ。

それで良いはずだ。



俺は警戒を解いて、

アリシアに笑みを返そうとする。



だがその時、

嫌な何かが俺の脳裏によぎる。



初めて味わうとてつもない不快感。


その何かは声となり、

俺の頭の中で絶叫した。




―――――まだまだまだダメだ解くな警戒を警戒を続けろ翼竜鉤爪アリシアは気が付かない上だまだだ絶対に気を抜くなアリシアを守れアリシアを助けろダメだ警戒を警戒を翼竜まだまだまだダメだ解くな警戒を警戒を続けろ翼竜鉤爪アリシアは気が付かないアリシアを助けろアリシアを助けろアリシアを助けろ――――



「な、んだ・・・」



俺は戸惑いながらも、

声の指示どおりに上を見る。


すると、そこにはアリシア目がけて滑空する一匹の翼竜が見えた。



「アリシア!!!」


俺は叫ぶと同時に、

魔法を放つ。



<フレイムボム>



「きゃあ!」


アリシアのすぐ真上で、

翼竜は爆発に包まれた。



・・・

・・



「あっ!帰ってきた!」


俺とアリシアの帰還を最初に見つけたのはリンだった。



「グレイさん、アリシアさん!いかがでしたか?」


トールが俺たちに尋ねる。


「あぁ、翼竜の群れはきっちり倒した」


俺は答えた。

群れのボスを倒された翼竜たちは、

蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

おそらくもうここには戻らないだろう。


「そうですか・・・良かった・・・」


トールが安堵の表情を浮かべる。


「これでまたフォレスで仕事が出来るわね!」


リンがトールの肩を叩く。


「痛っ!」


「はしゃぎ過ぎだ、リン。まだ依頼は終わっていない。俺たちには無事に二人をフォレスに帰還させる仕事が残っている」


シンが言った。


「いいじゃない!嬉しいんだから!シンの堅物!」


アリシアはそんなやりとりを苦笑しながら見ていた。


「いい加減しろ二人とも!グレイさんとアリシアさんが呆れてるぞ!」


トールが言う。


「とりあえずフォレスに戻りましょうか。あなた達も早くギルドに報告してあげたいでしょ?」


アリシアの言葉にトールたちは大きく頷いた。



・・・

・・


翼竜の討伐が報告されると、

フォレスの街は歓喜に包まれた。


半ば仕事を失いかけていた魔導士たちと、

そんな彼らを客として扱う者たち。


直面していた問題が解決されると、

彼らは盛大に宴会を開いた。



「<紅の風>様の魔法が凄かったらしいぞ!」

「噂では巨大な翼竜を魔法で叩き落としたらしい」

「同行のAクラス魔導士も一人でハイオーガを倒したとか」


酒の肴は俺とアリシア。


もちろん俺達自身が武勇伝を語るわけではない、

そんなみっともない事は勘弁だ。


だが今回はちょうどいい目撃者がおり、

主に彼らの口から俺とアリシアの活躍が語られた。


「おい、リン!アリシア様の話を聞かせてくれ!どんな会話したんだ!」

「トール、お前は二人の魔法を見たんだろ?どんなだった?」

「シン・・・は、ダメか。おーいトール、俺にも話を聞かせてくれ〜」


3人の同行者はそこら中に引っ張りだことなり、

俺たちの事を散々聞かれている様子だった。



「大変そうだな、3人とも」


俺は呟いた。


「そう?満更でもなさそうに見えるけどね」


アリシアは答えた。


俺とアリシアは招待された酒場の主賓席に座っていた。


町の偉い人が何人か挨拶に来た後は、

俺はアリシアとチビチビと飲んでいた。


フォレスの町の魔導士たちはこちらをチラチラと気にしてはいるが、

やはり少し遠慮しているのだろう。


まぁ、主賓って言うのはこんなもんだろう。




「・・・」


「どうしたのよ?」


俺が黙っていると、

アリシアが声を掛けてくる。



「いや・・・」


俺は今日の不思議な出来事をアリシアに話そうとした。


あの時、俺の脳裏に浮かんだ、

アリシアが目の前で翼竜に襲われるイメージ。


いや、イメージなんて曖昧なものじゃない。

あれは、そう、記憶だ。



俺は確かに、

アリシアが翼竜の爪に切り裂かれた所を見たのだ。


だが実際にはそんなこと、起きなかった。

目の前でピンピンしているアリシアがその証だ。


なんて言ったっけ、こういう感覚。

そうだ、既視感(デジャヴ)だ。



深く思考をはじめた俺をアリシアが黙ってみていた。



だがその時、俺とアリシアの机に、

ガシャンとグラスが置かれる。


「グレイさん!アリシアさん!」


そこに現れたのは、

ギルドの受付嬢ラミアだった。


「この度は本当に本当にありがとうございました」


そう言って深く頭を下げるラミア。


「いいのよ、私達は依頼を片付けただけなんだから」


アリシアが言う。


「そ、それはそうなんですが!お二人はこの街を救ってくださったことには違いありません!」


ラミアが言う。


「お、おおげさだよ」


ラミアさんの勢いに、俺は思わず恐縮してしまう。

アリシアを見ると、彼女もまた困ったような笑みを浮かべていた。



「・・・もしお二人が来てくれなかったら、この町で活動している魔導士さんたちは依頼も受けられず・・・最悪、フォレスを出て違う町へ移らなくてはならなかったんです。そうなればこの町は・・・」


ラミアさんは目に涙を浮かべているようだった。


ふと気が付くと、辺りの喧騒が止み、

他の魔導士たちもラミアさんの言葉に頷いていた。


その中の誰かが声を発する。


「そうだぜ、ラミアちゃんの言うとおりだ」


その声に続くように、声が上がる。


「ありがとうございます、アリシア様、グレイ様!」

「感謝してるぞ!」

「二人はこの町の恩人だ!!!」


そこからはもう、大歓声だった。


先程まであった距離が嘘のように、

俺とアリシアは取り囲まれ、

みんなに感謝されることになる。


アリシアは早々に酔っ払い、

魔導士たちの中心で大いに笑っていた。


そして夜は更けていく。


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