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第200話


「この辺りです、翼竜が目撃されたエリアと言うのは」


トールが言う。


俺たちは当初目的としていた地域に到達していた。

周囲はかなり森が深くなってきており、

出現する魔物も手強くなってきていた。



「・・・ここから、もう少し南下したら<フォレス原生林>があります」


「ダンジョンか・・・そこが本当に根城だとしら厄介ね」


アリシアが言う。


「おっしゃる通りです。ダンジョン内は周囲とは生態が違い、より高レベルの魔物が生息しています」


トールが答えた。


「さて、どうする?目撃情報をもとに、少し広い範囲で探してみる?」


アリシアが俺に尋ねた。


「いや、その必要はないようだな」


俺は上空を見て答えた。


俺の視線を追うように、

アリシアたちも空を見る。


そこには数頭の竜が飛行していた。


翼を広げた全長は10メートルほどだろうか。

巨大な鍵爪と、牙が特徴的な竜種。

間違いない、翼竜だ。




「あの方向は・・・南ね」



アリシアが言う。



俺たちは翼竜の姿が見えなくなる前に地図を広げ、

自分たちの居場所と、翼竜の飛行ルートを、

照らし合わせる。


トールが手際よく地図上に印を書き込むと、

唸るように呟いた。


「・・・間違いない。やつらの行き先は<フォレス原生林>です」


トールが言った。



・・・

・・



「ほ、本当にいいんですか?」


トールが言う。


「ちょっと、トール。何度も聞かないの。もう決めたじゃない。逆に困らせることになるわよ」


「我々に出来ることをするしかない」


リンとシンがそれぞれ諭すように言った。


「そ、そうか・・・いやしかし・・・」


だがトールは未だに食い下がってくる。

俺は彼の肩を叩いて言った。


「トールの気持ちは分かる。でも今回、君らは案内がメインの依頼だろ?ここから先は危険なダンジョンだし、ここは任せて欲しい」


「そうよ。ダンジョンアタックするメンバーとベース守備を分けるのは珍しいことじゃない。ここで待機して貰うだけで、私達も帰りの心配が減るわ」


俺の言葉を、アリシアが後押しした。


目の前に広がるダンジョンはAクラスに分類される<フォレス原生林>だ。

それこそハイオーガなんかとは桁違いの魔物が跋扈している。

Cクラスそこそこのトールたちには荷が重い場所でもあった。


だからこそ俺とアリシアの二人でアタックすることを提案したのだが、

責任感のあるトールはそれに納得していなかった。


だがリンとシンに説得され、渋々トールも了承する。


彼の良いところは功名心に逸っている訳ではなく、

単純に責任感からきているところだ。


俺とアリシアは、

最小限の荷物を持ち、

ダンジョンへと足を向ける。


「行くわよ」


アリシアの言葉に俺は頷いた。


アリシアはダンジョンの扉へと魔力を流し込む。

森の入り口に設置された石扉がゴゴゴと音を立てて開いた。



・・・

・・


<フォレス原生林>は大型の植物に覆われた、

太古の森のようなダンジョンだった。

時折聞いたことも無いような鳥や生き物の鳴き声が響く。



「暑いわね・・・」



アリシアが言う。

確かにダンジョンの中は湿度も気温も高かった。



「あ、ああ・・・」



俺は彼女に視線を向けずに答えた。



「・・・どうしたの?グレイ」


アリシアが不思議そうに尋ねる。


「いや、その・・・なんでも無い」


俺は短く答えた。


「?」


アリシアは不思議そうな顔をしていたが、

俺を悩ませていたのは彼女の格好だった。


アリシアはローブと、更には上着まで脱いでおり、

かなり薄着でダンジョンを歩いていた。


うーむ。

いくら暑いと言えど、

これは無防備過ぎないだろうか。


年長者として注意すべきか。

いや、それもいかがわしい目で見ていると誤解されるか。


俺は頭を悩ませる。



しかし、これまであまり見たことは無かったが、

アリシアはかなり着痩せするタイプのようだ。

俺の視線の先にはしっかりとした隆起があった。



「流石はSクラス魔導士だな・・・」


俺は思わずそんな事を呟く。


「えっ?」


アリシアは驚き聞き返すが、

俺は無言を貫いた。



・・・

・・



ダンジョンを進むと、

魔物の襲撃が激化して、

先程までのような冗談を言っている暇もなくなった。



<フレイムランス>



アリシアの魔法が敵を貫く。

現れた狼型の魔物はそのまま動かなくなった。


俺は焼け焦げた魔物を見て呟く。


「・・・まだアリシアの方が早い、か」


俺は右手に収束しつつも、放てなかった魔力を霧散させる。



「これでもSクラス魔導士だからね」


アリシアはそう言って胸を張る。


「・・・」


「対人戦と、こうした索敵しながらの戦闘は求められるものが違うから。連射と速射。私はこういう方が得意なのよ」


アリシアが答える。


「ああ、こうして一緒に戦うとよく分かるよ」


俺は答えた。

エスタの街では簡単な魔物討伐くらいしか無かったから分からなかったが、

やはりアリシアの実力は相当なものだ。



そんな事を考えていると、

突如空気を裂くような轟音が響いた。



「グギャアアアアアアアアアアア!!!!」



そして、俺たちの上空を何か巨大な影が横切る。


「翼竜だ!」


俺とアリシアは影を見失わないよう、

森の中を走り出した。



しばらく行くと、

切り立った崖のような場所が現れ、

先程の翼竜もその場所目がけて降下していくのが見えた。


俺とアリシアはその光景を見て、

言葉を失う。


そこには俺たちの想定を大きく上回るほどの翼竜がいた。







「想定よりかなり多いわね」


アリシアが言う。


「あぁ、そうだな。どうする?」


俺が尋ねる。


「安全策なら一旦戻って戦力を整えるところね・・・けど」


「時間がない、か?」


俺の言葉にアリシアが頷いた。



「うん。これだけの数だもの、人を襲うのは時間の問題だわ。もし繁殖期なんかに入れば、より凶暴性も増すから・・・」


アリシアが答える。


「ここでやるしかないってことか」


俺の言葉にアリシアが頷く。



・・・

・・



「作戦・・・って言えるほどのものじゃないけど」


「ん?」


「アンタが前衛、私が後衛よ」


アリシアの言葉に俺は頷き、

それから少し笑った。


「何笑ってるの?」


「いや、なんか懐かしいなと思って」


俺は西の大陸でアリシアと共に戦った事を思い出していた。


「そうね」


それは彼女にも伝わったようだった。


「じゃ、撃つわよ?」


アリシアの手に魔力が集束する。


俺もそれに合わせて魔力を高めた。



<ハイフレイムストリーム>



アリシアの右手が赤く光る。

そして右手から生み出された炎は渦巻きながら、

空へと昇っていく。


炎は飛び交う翼竜を焼き払い撃墜した。

アリシアの広範囲攻撃だ。


だが多くの翼竜は炎を避け、

怒りの咆哮を上げている。


「来るわよ!」


アリシアの声と、

翼竜たちが滑空を始めるのは同時だった。


翼竜たちは落下に任せるがまま、

高速で俺たちを目がけ突進してくる。



<フレイムボム改>



俺が放った魔法は、

弾幕のように空を覆い爆発を引き起こしていく。


爆発と爆風に巻き込まれ、

翼竜たちがバランスを崩し堕ちていく。


だが俺とアリシアの攻撃を逃れた翼竜たちは、

勢いそのままに迫ってきた。


「避けて!」


アリシアの声に反応し、俺は身体を投げ出す。


グライダーのように地面スレスレを飛びながら、

翼竜がその鋭い爪を振るう。


見れば俺が立っていた地面は翼竜の攻撃により、

深く抉れていた。


あれをくらえば俺はおろかアリシアもただでは済まないだろう。



<フレイムバリスタ>

<フレイムバリスタ>



アリシアが更に魔法を放つ。


炎の弩が翼竜を貫き、

火だるまになって翼竜たちが地面に落ちる。



<フレイムボム>



俺も中空に向け魔法を放つ。

今度は俺の魔法に数匹の翼竜が巻き込まれた。



「よし!」


俺は声を上げる。


「まだよ!デカイのが来るわ!」


アリシアが言う。

彼女の視線を追うと、

特大サイズの翼竜が見えた。





巨大な翼竜は大きな鳴き声と共に、

俺とアリシアの眼前に着陸した。


その衝撃だけで地面が揺れる。


真っ黒な鱗に覆われた巨体。

体中に刻まれた戦いの痕が、

この翼竜が歴戦の個体だという事を物語っていた。



「・・・こいつが親玉か」


俺は身構えて言った。


「そのようね」


アリシアも答える。

他の翼竜たちは群れのボスの戦いを見守るように、

周囲を飛び回っていた。



巨大な翼竜はグルルと唸り声を上げ、

俺とアリシアを睨みつけていた。

ビリビリと重圧を感じる。




<フレイムランス>


初手を放ったのはアリシアだった。


炎の槍は一直線に巨大な翼竜へ向かい、

その身体を貫かんとする。


だがアリシアの魔法は、

巨大な翼竜の鱗に触れると同時にかき消された。


「効かないっ!?」


「グギャアアアアアッ!」


巨大な翼竜は咆哮ともに巨大な翼を広げた。


するとその周囲に風が渦巻き、

俺とアリシア目がけて放たれた。


「ぐっ!」

「きゃあ!」


突風に吹き飛ばされた俺達は崖に身体を打ち付ける。


「・・・ぐ」


「魔法を、使うなんて・・・」


アリシアが苦しそうに言う。


竜種の中には魔法を使う種類もいるが、

翼竜は魔力を持たないのが俺たちの認識だった。


おそらくは突然変異。

または成長の果てに力を身に付けた個体なのだろう。


立ち上がろうと足に力を込めるが、

その瞬間にも再び翼竜が魔法を行使しようとする。


「くっ!」


<エアボム>


俺は咄嗟に風の魔法を放ち、

巨大な翼竜が生み出していた風の魔法を相殺する。



「グギャアアアアア!!!!」



風の魔法を邪魔された巨大な翼竜は、

広げた翼を一掻きしてふわりと身体を浮かせると、

俺とアリシア目がけ突進してきた。



「チッ!」


<アースウォール>

<アースウォール>



俺は咄嗟に眼の前に岩の壁を出現させる。

巨大な翼竜は岩壁にぶつかり地面に叩きつけられた。


大きな翼をバタつかせ、

翼竜が藻掻く。



「アリシアッ!」


「分かってるわ!」


俺が合図すると、

アリシアは既に魔力を収束していた。


離れていても感じるほどに、

強烈な魔力がアリシアの右手に集束する。


<竜の炎>


アリシアが圧縮された高温の炎を放つ。

炎は巨大な翼竜を貫いた。



「グギャアアアアアアアアア!!!!」



巨大な翼竜が鳴き声を上げる。


だがそれは先程までと異なり、

苦痛に歪んだ悲鳴だった。


巨大な翼竜は全身を炎に焼かれながら翼を動かし、

再度空中へと飛び上がる。



「ッ!」


アリシアは魔法を放った反動で動けない。


巨大な翼竜はそれを察知したのか、

アリシアに視線を向ける。



「グギャアアアアア!!!!!」


巨大な翼竜は中空で翼を広げ、

再び魔法を放とうとしていた。


全身から黒煙を上げ、

いたるところから血が滴り落ちている。

だがそれでも、巨大な翼竜の重圧だけは鋭いままであった。



まずい。

俺はアリシアを守るため、

咄嗟に右手に魔力を収束する。



<時―――――



「グギャアアアアア!???」



だが時間魔法を発動しようとしたその時、

巨大な翼竜は更に強力な炎に包まれた。


爆発が起き、

巨大な翼竜の身体が破壊される。


そのまま身体のコントロールを失った巨大な翼竜は、

崖下へと墜落していった。



「・・・舐めんじゃ・・・ないわよ」



見ればアリシアが右手を掲げ、

魔法を放っていた。


アリシアはよほど魔力を使ったのか、

その場に膝をついた。


俺はその姿に安堵する。

流石はアリシアだ。


彼女なら一人で群れを撃破することも可能だったのではないだろうか。



俺とアリシアの視線が合う。

アリシアは肩で呼吸をしながら、

こちらに向けて微笑んだ。


俺もそれに笑みで返す。




警戒はしていたはずだった。



だが大物を倒したと言う安堵から、

ほんの一瞬。



ほんの一瞬だけ、

俺とアリシアは同時に警戒を解いてしまった。



そのため、死角から飛来する影に気がつくのが遅れた。

それは上空から気配を消して滑空してきた翼竜。


そして、その鉤爪が深々とアリシアに突き刺さった。



―――――ドクン



心臓の鼓動が大きく聞こえ、

そして世界は灰色になった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 200話到達おめでとうございます! すごく良いところで終わっちゃいましたね。続きが気になります。 [気になる点] ここ最近のグレイはちょっと詰めが甘い気がしますね… それがフラグに… [一…
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