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第19話 ランクアップ

 


 炎龍カグラ=ロギア。


 最強種と言われる竜種。

 その上位種にあたる古龍の一頭だ。


 個体数は少ないが、その魔力は圧倒的で

 あらゆる生物の頂点に立つ生物である。


 カグラ=ロギア自身は若い個体であった。

 通常、古龍が生まれる条件は、

 長き時を生きた竜種が古龍と称されるようになるか、

 突然変異で生まれるか、

 はたまた古龍同士の子として生まれるかのいずれかである。



 カグラ=ロギアは古龍同士の子として生まれた。


 炎龍王と炎妃龍の第三子。

 誇り高き龍族の王の直系であった。









「・・・厄介な、相手だ」


<雷帝>ラフィットは岩陰に隠れながら移動する。


 カグラ=ロギアに絶対に察知されない距離で、

 絶対に見失わない距離を保ちながら山岳地帯を進む。

 かれこれ三時間。

 この絶対に見つかってはいけない追いかけっこを続けている。


 ラフィット自身、古龍との戦いは初めてではない。


 古龍の撃退または討伐の依頼は、

 基本的にはSランク魔導士にしか受注できないようになっている。


 だが<雷帝>と言えど、

 炎龍と真正面からの戦闘は危険が伴う。


 彼は慎重に行動をした。



 カグラ=ロギアは、

 山岳地帯の山頂に近い部分を寝床としているようだった。

 ラフィットはその位置を確認すると、魔力を集束する。



 そして――――



<雷帝>は意を決すると、

 晴天の山岳地帯に数多の落雷を落とした。




 ・・・

 ・・

 ・



 街に戻るとすでに依頼成功の一報は入っていたようで、

 魔導士ギルドでティムさんが出迎えてくれた。


「本当にありがとう。君たちのおかげで助かった。」


 魔導士ギルドの窓口で、ティムさんが言う。

 俺たちはゴブリンと、ゴブリンクイーンの討伐清算をしてもらうことにした。


「これは・・・すごいね。まさかここまで数が多かったとは」



 机の上に並べた魔石は70個以上。

 それに加えてゴブリンクイーンの大きな魔石。


 実際の群れの数は100頭以上。

 本来であれば、Bランクに近い難度の依頼だっただろう。



「君たち、・・・特にグレイ君だけど。Dランクって言うのが信じられないよ。この街に滞在していくつか依頼を達成してくれたら、早々にランクをあげるように僕が掛け合ってみよう」


 ティムさんはそんな事を言ってくれた。


「ありがとうございます。そうしていただけると助かります」


 俺は礼を述べる。

 上のランクに行くほど、依頼の達成報酬は高い。

 今の俺たちには有り難い話だった。



「優秀な魔導士はどんどん上に上がってくれたほうがギルドにもメリットがあるからね。さて、精算が終わったみたいだよ。個人的にもお礼がしたいから今度夕食でも奢らせてくれ」



 ティムさんが言う。


「夕食・・・」


 ヒナタが呟く。

 少しは遠慮しろ、と俺は思った。



「ありがとうございます、楽しみにしています」



 俺たちはティムさんに礼を言って魔導士ギルドを後にした。







「疲れたな」


 俺はヒナタに話しかける。


「ん」


 ヒナタは短く、そう答える。


 うーん。

 どうにも違和感を感じる。



 受け答えが素っ気ないのはいつもと同じだけど、

 いつにも増して素っ気ない気がする。


 すべては俺の秘密を話してから。

 そう思ってしまうのは俺の考えすぎなのだろうか。




「宿に戻るか?」


 俺は続けて質問する。


「私は少し買い物をしてくる。グレイは先に帰ってていい」


 ヒナタはそういうと市場の方に向け歩いて行ってしまった。


 俺は一人、その場に取り残される。


 なんだよ、寂しいじゃないか。

 俺はそんな事を考える。


 依頼を受けるにも早めの夕食にも中途半端な時間なため、

 俺も街を散策することにした。







 一人で歩くボルドーニュは余計に広く感じられた。


 人々には活気があり、

 特に商業区域は怒号にも思えるほどの、

 人々が品物を売買する声が響いていた。


 今まで人目を避け、

 大都市を殆ど経験していない俺には新鮮に見えた。


 キョロキョロしながら市場を歩いていると、

 そのうちの一つの露店商が目に留まった。


 売っているのは俺には価値の分からない骨董品ばかりのようで、

 不思議な形の置物や、何に使うのかも分からないような金属片など、

 一見ガラクタとも言えるような品物が並んでいた。


「兄ちゃん、そこの兄ちゃん」


 俺はその露店商の店主に呼び止められる。


「俺ですか?」


 俺は店の前で立ち止まる。


「あぁ、そうだ。すまねぇな、呼び止めちまって。あんた魔導士だろ?」


 露店商は尋ねる。

 俺はそれを肯定した。


「やはりな。分かるぜ、あんたから濃厚な魔力が出てる。選ばれし者の証だな」


 嘘臭い男だ、と俺は思った。


「おいおい、止めてくれそんな目で見るのは怪しい人間じゃねぇよ。ちょっと見て言って欲しいだけだ」


 俺はその露天に並んでいる商品を改めて眺める。

 たしかに興味深い品が並んでいるようだ。


「これは、なんだ・・・?」


 俺が手に持ったのは不思議な形のランプ。

 両端から鋭い角のようなものが生えており、なんとも禍々しい形だ。


「それは魔道具【黒炎の常夜灯】さ。魔法の炎で燃えるから、燃料が必要ねえ」


 俺はなるほどと思った。

 確かにそれは便利そうだ。


「これは?」


「それは【逆転のコイン】。持ち主に変わって一度だけ、致命傷となるダメージを受けてくれるぞ」


 俺は楽しくなってきた。


「ふむ、じゃこれは?」


「それは【破壊不能金属の塊】さ。用途は不明だが、とにかく頑丈で、どんな魔法でも破壊できないって言われてるお宝だ」


 俺は腕組をして考える。


「・・・どれも国宝級の魔道具だな。実在すれば、だが」


 俺は露天商の男を睨みつける。


「へへ、やめてくれ。全部本物だよ、兄ちゃん。騙されたと思って買ってみな。俺は嘘は言わねぇ。安くしとくぜ?」


 男は人の好さそうな笑みを浮かべている。

 毒気を抜かれそうな人懐こい笑顔だ。


「・・・たとえ本物だったとしても、今の俺には不相応な品だ。すまんな」


 俺はそう言って、立ち上がろうとする。


「・・・まぁまぁ待てって。兄ちゃん。あんたほど立派な魔導士なら、装備も一流にしておく必要があるだろ?投資だと思ってさ」


 俺はその言葉にピクリと反応する。


「立派な魔導士・・・」


 露天商の男はニヤリと笑う。


「あぁそうだろ?俺の目は節穴じゃない。分かるぜ、兄ちゃんが才能に溢れた魔導士だってことはな」


 俺は更に反応する。


「さ、才能に溢れた・・・」


 俺はフラフラと、再び露天の前に戻った。










 結論から言うと、露天商の男は確かな審美眼を持った男だった。


 会話するうちに信じるに値する男だと確信したし、

 何より人を信じない人生に豊かさはないと思った。

 素晴らしい出会いが出来た、そう思った。


 だから俺の手元にある、

 禍々しいランプと、薄汚れたコインと、謎の金属片は、

 その出会いの記念品と言ったところだ。


 決して安くは無かったが、

 露天商の男は俺との友情のために、

 特別に2割も割引してくれたのだ。

 買わなければ彼に失礼と言うものだ。



 間違いない。



 俺は満足しながら、

『晩秋のファイアウルフ亭』に戻った。


 ヒナタもすでに帰っており、

 ちょうど宿の入り口のところで鉢合わせた。


 あとでヒナタにも今日の素晴らしい出会いを説明しよう、

 そう思った時ヒナタが口を開いた。


「・・・それ、なに?」


 ヒナタは俺が両手に抱える魔道具たちを見てそう言った。


「これか?これは信頼の証さ」


 俺は言う。


「ちょっと意味が分からない」


 ヒナタは眉をひそめた。

 俺はヒナタにゆっくりと今日の出会いについて説明をした。







「グレイ」


 俺の話を聞き終わったヒナタが、ため息をついて言った。


「とても言いにくい事だけど、私はあなたを過信していた」


「どういうことだ?」


 俺は首をかしげる。


「・・・あなたはもっと賢い人間だと思っていた。けど事実は異なった、と言う事」


 ヒナタはそんな事を言った。

 びっくりするくらい辛辣な言葉だ。


「ど、どう言うことだ?」


 俺は慌ててその言葉の真意を尋ねる。


「その露天の男は詐欺師。まんまと買い物させられた」


 ヒナタは言う。


「ま、待てそんなことはあるか。彼は俺を・・・」


「あなたはどうやら褒められることに弱い。言い換えると、チョロい。」


 その言葉にガツンと衝撃を受けた。

 確かに今まで長い間、人に褒められたことなどないが、

 チョロいとは心外だ。


「ば、馬鹿。そんな訳あるか彼はそんなつもりじゃ。・・・それに仮にそうだったとしても、この品々は将来の俺たちの役に立つ確かな品だ!そ、そう投資だ!」


 俺は必死でヒナタに言う。

 ヒナタはなんていうか、すごく生温かい目で俺を見ていた。


「確かな品。それじゃ、今すぐそれを見せて欲しい」


 ヒナタは言う。


「も、勿論だ!まずこの【黒炎の常夜灯】だな――――」








 結論から言うと、


【黒炎の常夜灯】は魔力を伝導した瞬間、ランプごと燃え盛り灰になった。

 ならば次と取り出した【逆転のコイン】は、

 ヒナタに軽くビンタをして貰っただけで粉々に砕け


 そこで同時に、俺の心も砕ける。


「・・・貸して、その金属も私が叩き切って見せる」


 ヒナタは間髪入れずに手を出して、

 俺から【破壊不能金属の塊】を奪おうとする。


 俺は涙を流して懇願した。


「すまんヒナタ。俺が悪かった。非を認めるから、もう勘弁してくれ」


 俺はようやく騙された事に気が付いた。

 俺はチョロい鴨だったのか。


 打ちひしがれている俺に、

 ヒナタがため息をついて声を掛ける。



「・・・大丈夫。田舎から出てきたのだから仕方ない。詐欺はよくあること。」


 ヒナタに慰められる。


「・・・すまん」


 フォローなようでフォローになっていない気がする。

 俺は更にダメージを受けた。

 ゴブリンクイーンの攻撃より効いた気がする。






「・・・やはり貴方は面白い」



 ヒナタはそう言って笑ってくれた。


「グレイとの旅は楽しい。これから先が、楽しみ」


 ヒナタはそう言って、俺に微笑んだ。


 この話は、これでおしまい。

 その笑顔と言葉にすべてが込められているような気がした。


 俺の過去の話も、ゼメウスの箱の話も、

 全て含めてヒナタは飲み込んでくれた。


 信じてくれたかどうかは分からないが、

 少なくとも彼女は俺と旅を続けてくれるようだ。


 うん、なんだろう。

 騙されたのはショックだったが、

 ヒナタとの距離感は取り戻せた気がした。


 とりあえず今はこんな感じでいいか、と俺は思った。



 ・・・

 ・・

 ・



 翌日から俺は怒涛の勢いで働いた。

 いや、正確に言うとヒナタに働かされたと言うべきか。


 あとから俺が露天商に支払った金額を聞いた彼女は、

 恐怖を感じるほどに冷たい目をした。


 必死で謝るが、許しは出なかった。

 俺には彼女に従う他の道は残されていなかった。



「別々に依頼をした方が効率がいい」



 ヒナタのその一言で俺たちは別の依頼書を受けるようになった。

 ヒナタは討伐や、採取を中心に。

 俺はヒナタが選ぶ依頼を言われるがままにこなした。


 ヒナタが俺用にと選ぶ依頼書は重労働なものが多く、

 特に彼女が選んだのは俺の得意とするゴブリン討伐に関するものが多かった。

 正直、ゴブリンは嫌だったがもはや俺に逆らう権限は無かった。


 一週間、10日と時間は流れる。


 そして遂に、その日は来た。




「あ、そうだ。グレイ君。登録証を借りていいかな?」


 いつものようにゴブリン討伐の精算を終えた俺に、

 ティムさんが言った。


「ええ、問題ありませんが・・・どうかしましたか?」


 俺は尋ねる。


「ほら、以前に話した。昇格の件さ。最近の依頼達成を踏まえて許可が出たよ。」


 ティムさんが答える。


「それってもしかして・・・」


「うん。おめでとう。今日から君はCランクの魔導士さ」


 ティムさんは俺から登録証を預かると、

 手続きのためにギルドの奥に向かった。

 俺は心の中でガッツポーズをした。


 Cランクと言えば、魔導士の中でも一人前と言ったところだ。

 通常、魔導士になってからCランクまで上がるのは1年くらい経験が必要だ。

 フォレスの街から合わせて2ヵ月ほどでここまで上がった俺は、

 破竹の勢いとも言える。


 魔導士ランクはある意味でここからがスタートで、

 Bランク以上に上がるためには高レベル依頼の達成など、

 魔導士ギルドに認められる実績と、確かな実力が必要となる。

 最低でも数年。

 運も実力も無ければ一生昇格が見込めないのがBランク以上だ。



「・・・お待たせ」


 ティムさんが部屋に戻ってくる。

 ん、なんだ。

 少し表情が暗い気がするな。


「おかえりなさい、ありがとうございます」


 俺はティムさんに声を掛ける。


「・・・あぁ。その、これ登録証」


 ティムさんは更新手続きの完了した登録証を返してくれる。

 俺はその登録証を眺めた。


<ステ――――>


「ち、ちょっと待って!」


 登録証の中身を見ようとした俺を、ティムさんが制する。

 どうしたと言うのだろう。



「グレイ君、中身を見る前に言っておくことがある」


 ティムさんは真剣な顔で言う。


「・・・どうしましたか?」


 俺は尋ねた。


「いや、その。先輩として魔導士の心構えと言うか、伝えておきたいことがあってね」


 ティムさんは俺の顔を見て言う。


「伝えたいこと?」


 俺は尋ねる。


「そうさ。言ってなかったけど、僕も以前は魔導士だった。とある依頼で深手を負って引退したけどね。」


 俺は驚いた。

 ティムさんが只者じゃないのは分かっていたけど、まさか魔導士だったとは。


「身体の傷はとっくに治ったけど、僕は再起するのが遅すぎた。魔導士は過酷な仕事だからね。ブランクを抱えたままじゃ第一線には戻れない」


 俺は黙って頷く。


「伝えたいのは、どん底に落ちたとしても希望はあるって事さ。暗闇の中ではそれが見つかりにくいだけで。だから君も、どんなに辛いことがあったとしても自分と、自分を支えてくれる人が居るのだと言う事だけは忘れないで欲しい」


 ティムさんが神妙な面持ちで言った。


「・・・ティムさん」


「はは、何の話かよく分からないよね。ごめんごめん。ただの老婆心から、君みたいな若者に声を掛けたくなったんだ」


『僕』はティムさんの気持ちが痛いほどよくわかった。


 歳を取ると、若者が眩しく見えるのだ。

 そして出来る限りいい方向に向かってもらいたいと言う気持ちから、つい説教臭くなる。

 ティムさんはきっと何か大きな後悔を抱えているのだろう。


「ありがとうございます」


 俺はティムさんに声を掛けた。

 ティムさんも黙ってうなずいた。


 よし、決めた。


 考えてみれば奇跡が起きて、俺は人生をやり直す事が出来ているのだ。

 今度こそ後悔の無い様に生きてみせる。


 魔導士として心を強く持ち、ゼメウスとの約束を果たした後は、この人々の為に生きるのだ。

 かつて『僕』が夢見た魔導士になって見せる。


 俺はティムさんから受け取った。

 登録証に魔力を込めた。



<ステータス>


 登録証に情報が写る。



 名前:グレイ

 ランク:C

 称号:<ゴブリン殺戮者(スレイヤー)>

 魔力総量:C

 魔力出力量:C

 魔力濃度:A



 そこには俺の新しいランクと、

 新しい<二つ名>が書かれていた。


 俺は膝から崩れ落ちた。



読んでいただいてありがとうございます。

ブックマーク、感想などぜひお願いします。


もし気の迷いでレビューなど書いていただける方がおりましたら、嬉しくて昇天します。


引き続きよろしくお願いいたします。


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