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第193話


夕食後、俺達は今後の行動について話し合っていた。



「東の大陸、ですか・・・?」


ロロが尋ねる。


「・・・あぁ、そうだ。アリシアのお祖母さんのいる街に行こうと思ってる」


俺は答えた。


「そこにグレイさんが見た、夢に関係する何かが?」


「分からない。けど何故か気になるんだ」


「そう、ですか・・・」


ロロは答えた。




「南の大陸からの航路であればそんなに時間も無くたどり着けると思うわ。そこからは馬車での移動ね。手配はまた私の方で――――」


アリシアが口を開く。



「あの」


その時、アリシアの言葉を遮るようにロロが言った。


「ロロ?」


「ごめんなさい。私は・・・私は行きません。ここに残ろうと思います」


俺とアリシアは驚いてロロの方を見る。



「それは、どうしてだ?」


俺は尋ねた。

正直、こんな言葉が帰ってくると想像していなかったので驚いている。



「・・・東の大陸はここよりも安全なところよ?」


アリシアの言葉にロロが首を振る。


「・・・いえ、私にとっては。今後、代償がどうなるかも分かりませんし。それに色々考えていたんです」


ロロは答えた。


「色々って?」


アリシアが尋ねる。


「私、西の大陸を出て、こちらに来てから・・・グレイさんに助けて貰ってばかりでした。私だって魔導士なのに・・・」


「それは―――」


違うと言いかけて、

途中で止まる。


俺は彼女の目元が赤くなっている事に気が付いた。

きっとロロは今、振り絞るように俺たちに伝えようとしてくれている。

俺には彼女の言葉を聞く責任がある。



「正直に言うと私は甘えていました。白の箱を開けて、生命魔法を引き継いで・・・怖がるばかりで向き合おうともしませんでした。カナデさんが緑の箱の魔法をあんなに前向きに考え、正面から向き合うのを見て目が覚めたんです」


「ロロ・・・」


「私、このままじゃグレイさんの隣に立つ資格はありません。それどころじゃない、魔導士としても失格です」


ロロが強い目で俺を見た。

その目には強い意志が宿っていた。


聖魔の大聖堂で助けた、

弱々しい彼女の目とは違っていた。



「でも・・・ここに残ってどうするんだ?」


俺は尋ねる。


「・・・実は<大賢者>ヨイヤミ様が私の力を調べてくれると仰ってくれました。それと同時に私が制御も出来るよう修行も付けてくださるそうです」


ロロが答えた。


「<大賢者>が?」


一国の王にしてSランク魔導士である<大賢者>に教えてもらえる機会などそうはない

たしかにそれはロロにとってプラスになることであった。


ロロの考え、

頭では理解したが、

俺はなかなか口を開けなかった。



「あんたの考えは分かったわ」


アリシアが言う。


「おい、アリシア・・・」


「ロロが決めたんだから、それを信じるのが仲間でしょ」


「だ、だがな・・・」


「まったく。あんたはロロに過保護すぎよ!彼女だって大人なんだから自分の道くらい自分で決めるわ」


「ぐ・・・しかし」


俺はアリシアの言葉に押黙る。


「グ、グレイさんそんなに心配しないでください。そんな一生の別れでもないんですし、東の大陸なら何かあればすぐに合流できますから・・・」


ロロが言う。



「・・・分かった、だが無理はするな。何かあればすぐに助けに行くから」


俺は言う。


「はい。もちろです。次に会うときはもっと頼りになる魔導士になっています。グレイさんに相応しいような」


そう言ってロロは笑った。



・・・

・・



そして準備の時間はまたたく間に過ぎ、

旅立ちの朝。


「東の大陸行きの客船、間もなく出港いたしまーーーす」


船乗りの男が叫んでいる。

俺たちは既に甲板で、海と空と、南の大陸を眺めていた。


既にロロとは別れは済ませている。

なので見送りをしてくれる人はいなかった。



「・・・あんたと船に乗るのはこれで二度目ね」


アリシアが言う。


「あぁ、そうだな」


俺は答えた。


「ねぇ、ちょっと落ち込み過ぎじゃない?そんなにロロが一緒が良かったかしら?私じゃなくて」


「いや、そういう訳じゃ」


「ふーん?ならどうしたのよ」


「ロロの事は正直心配していない。あいつは強い奴だ」


俺は答えた。

少しは心配だが、俺はロロの事を信頼していた。




「・・・ロロのことじゃないのに、何を暗い顔をしていたのよ」


アリシアが尋ねた。


俺はゆっくりと考えて、

それから口を開いた。


「・・・いや、テレシアに会うのはもう何十年ぶりなんだ。だからどんな顔をして会えば良いのか分からなくてな」


「・・・それは」


「俺はもう昔の俺じゃない。たぶん会っても分からないだろうし、自分の正体を明かすつもりもないんだ。ただ―――」


「ただ?」


アリシアが俺の顔を覗き込む。


「・・・いや、やっぱなんでもない」


俺は喉元まで出かかっていた言葉を飲み込んだ。


「・・・そう」


アリシアはそう答えた。



船が動き出す気配がする。


大陸からの風と、

魔法による推進力を得た船はぐんぐんと海を進んでいく。


それから俺達二人は無言で海を見つめた。

アリシアの言うとおり、こんなシーンが以前にもあったような気がするな。


ふと横を見ると、

アリシアも何かを考えているようだった。


俺はこの時間が嫌いじゃない。

アリシアが隣にいる時間が心地よいとさえ思えた。


それからしばらく経って、

アリシアが呟くように言った。


「・・・あんたが何を思っているか分からないけど」


俺に聞こえるか聞こえないような、

か細い声だった。


「あんたは立派な魔導士よ、誰と会ったってそう胸を張って言いなさいよ」


アリシアは俺の方を見ず、

海を見つめたままそう言った。



「ありがとう」


俺も彼女の方を見ずに、そう答えた。



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