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第18話 決着

 


「<エアアクセル>」


 俺は自分と、ヒナタに魔法をかける。

 速度強化の白魔法。

 これで少しはマシになるはずだ。


 俺の魔法に、ヒナタが驚いている。


「前にも回復魔法を使っていた気がしたけど、グレイは本当に黒魔導士?」


 俺の職業は黒魔導士で登録されている。

 当然、白魔法は使えない。


 だが俺は純粋な黒魔導士ではなく、灰色の魔導士。

 ゼメウスとの修業により、

 黒魔法も白魔法も使うことが出来る。


「説明はあとだ」


 俺はヒナタに言う。

 ヒナタも頷くと、前を向きゴブリンに対し剣を構えた。


「ギャアア!!!」


 周囲を囲むゴブリンの一体が飛び出してくる。

 ヒナタはそれを大剣の横なぎで両断した。

 速い。

 白魔法の効果で更に剣速が向上している。


 その一撃をきっかけに、

 ゴブリンたちは一斉に襲い掛かってくる。



<フレイムランス>



 俺は炎の槍を展開し、

 飛び出してきたゴブリンをまとめて焼き払う。


 だが、そのゴブリンの亡骸を乗り越えるように次のゴブリンが飛び掛かってくる。



<フレイムボム>

<フレイムボム>



 俺は速度重視で小規模爆破魔法を連発する。

 目の前でゴブリンが爆炎に包まれる。


 普段より速い身体の動きに感覚も追いついている。

 白魔法のおかげで、

 判断能力も状況認識力も上がっているようだ。



 ヒナタは身体に似合わぬ大剣を肩に担ぐと、

 そのまま力任せに振りぬいた。



 剣が振られる轟音と共に2、3匹のゴブリンが真っ二つになる。

 さすが<豚王の断頭剣>の名前は伊達ではない。



 しかし、それを軽々と振り回すとは、

 あの細い身体でどんな筋力してるんだ、と俺は思った。


 放った横薙ぎの隙をついてゴブリンがヒナタに飛び掛かる。



<サンダーボルト>



 俺は雷撃を放ち、そのゴブリンを空中で叩き落とした。


 ヒナタは更に大剣を振り回し、そのたびにゴブリンを散らしていく。

 まったくもって頼もしい前衛だ。


 俺はヒナタが存分に剣を振るえるよう、

 ヒナタの死角を援護するように魔法を撃ち続けた。


 ゴブリンたちがヒナタの大剣の射程に入らぬように警戒している隙をつき、

 俺は距離を取る。


 ゴブリンと距離が出来たことにより、

 溜めが可能となる。



 俺は手をかざし、

 いつもより多めに魔力を集束した。



<フレイムストリーム>



 魔法の発動と同時に、ゴブリンの群れのど真ん中に炎の柱が出現する。

 炎は渦を巻き、そのまま周囲のゴブリンを一気に火だるまにした。


 炎の中級魔法。

 俺が習得している中で、最も広範囲に攻撃出来る魔法だ。




 ゴブリンたちが悲鳴を上げる中、

 魔法を放った俺のすぐ隣にヒナタが着地する。


「・・・私ごと焼くつもり?」


 見ればヒナタのマントが少し焦げている様だった。

 マズい。

 ヒナタなら避けられるだろうと安易にぶっ放してしまった。


「す、すまん」


 俺はヒナタに謝る。


「お気に入りのマント」


 ヒナタは恨めしそうに俺を見る。

 罪悪感のある俺は、その目を正面から見れない。


 その時。



「グギャアアア!!!」



 一際大きな声が洞窟内に響いた。

 ゴブリンたちが呼応するように沸き立つ。

 親玉のお出ましだのようだ。



 岩穴の奥から何か巨大なものが這い出して来る。

 見るとそこには通常のゴブリンの3倍はありそうな、

 ブクブクの肥満体の醜いゴブリンがいた。



「ゴブリンクイーン」


 ヒナタが呟いた。


 自らの重量により二足での歩行が困難なようで、

 四つん這いになってこちらに向かってくる。

 見るからにおぞましい。


「あれが。この群れのリーダーか。強烈だな」


 俺は言う。


「繁殖期を向かえたゴブリンの雌が、クイーンになる。個体としてはかなり強力」


 ヒナタが答える。


 ゴブリンはクイーンを中心に、

 巨大な群れを形成することがある。

 それこそ数百匹以上にまで群れが膨れ上がることもあり、

 そうなったゴブリンの群れはBクラス以上の依頼となる。



 このクイーンはまだ若い。

 群れを形成しきる前に発見できたのだろう。

 不幸中の幸いといったところか。



 クイーンは俺たちの目の前までたどり着くと、

 口元から涎を垂らしながら、咆哮をあげた。



「ギャギャアアアア!!!!!」



 鳴き声と共にと息が漏れ、あたりに腐臭が漂う。

 鼻が曲がりそうなほど臭い。


「これはチャンス。こいつを仕留めれば群れは瓦解する」


 ヒナタが言う。


「大量のゴブリンを相手にするよりはシンプルでいいな」


 俺は魔力を集束し、掌から魔法を放つ。



<フレイムランス>



 俺の魔法がゴブリンクイーンに突き刺さる。

 だがゴブリンクイーンは燃え上がる炎にも、びくともしない。


 クイーンはゆっくりとその巨体を持ち上げると、そのまま地面に叩き付けた。


 俺とヒナタはその衝撃で吹き飛ばされる。



 俺は受け身を取りながらクイーンを見据える。

 見るとクイーンは叩き付けた自らの身体を起こすのに難儀していた。

 周りでゴブリンたちは鳴き声を上げ囃し立てている。



「・・・なんてやつだ」



 先ほど放った<フレイムランス>は今の俺のメインの攻撃魔法でもある。


 正面からとは言え、それがまったく効いていなかった。

 恐らく膨れ上がった皮下脂肪が、鎧の役目を果たしているのだろう。


 俺はようやく身体を起こし始めたクイーンに次の魔法を放つ。



<フレイムボム>



 クイーンの側頭部に爆破魔法が直撃する。

 だが<フレイムランス>と同じく効果は薄く、

 クイーンの側頭部の皮膚を焦がしただけであった。



「ど、どうすんだよ・・・」 


 俺はクイーンの身体に魔法が通らないことに焦りを感じた。



 その時―――――



「グギャアアアアアアアアアアア!!!」


 クイーンが再び咆哮をあげた。

 耳を裂くような轟音。

 俺は思わず耳を塞ぐ。


 するとその声に呼応するように、

 白い光があたりにいるゴブリンたちを包んだ。


 ゴブリンたちは雄たけびを上げ始めた。



<パワーブースト>



 単純な筋力上昇の白魔法だ。

 あたりのゴブリンたちが次々に強化されている。

 そして、その魔法は連鎖的に広がっていく。


「グギャギャアアア!!」

「グギャ!!

「ギャギギャ!!


 ゴブリンクイーンの指揮に従う様に、

 ゴブリンたちは俺たちに襲い掛かった。



「くっ!」



 俺は距離を取ろうとするが、

 さきほどまでよりゴブリンの速度が速い。


 間合いを一瞬で詰められ、

 そのまま強力な体当たりを腹部に喰らう。

 俺はそのまま壁へと叩き付けられた。


「くそっ!」



 <フレイムボム>



 目の前のゴブリンに魔法を直撃させる。

 だが驚いたことに、ゴブリンは爆破を喰らったまま直進してくる。



 <フレイムボム>



 もう一度爆破させる。

 そこでようやくゴブリンは倒れこんだ。

 耐久力も格段に向上しているようだ。


 これはマズい。

 俺はヒナタの方を見た。


 ヒナタはゴブリンたちの猛攻を避けながら、

 大剣を振るっていた。

 大剣は一撃一撃は強力だが、小回りが利かない分、

 後手に回ると途端に不利になる。


 このままではマズイ。

 俺は覚悟を決めた。


「うおぉおおお!!!」


 俺はゴブリンクイーンに向かって駆け出した。


「グレイ!?」


 その姿を見ていたヒナタが叫ぶ。

 ヒナタが大声をあげるなんて珍しい、

 俺は冷静にそんな事を考えていた。


「ギャギャギャ!!」


 走る俺にゴブリンたちが攻撃を加える。

 腕が切り裂かれ血が出る。

 だが俺は止まらない。


「グギャアアア!!!!!」


 接近する俺に、ゴブリンクイーンは怒りの咆哮をあげる。


 大丈夫。


 ゴブリンクイーンは白魔法を使用した、

 つまり遠距離からの魔法攻撃はあり得ない。

 やつの手の届くギリギリのところまで近づいてやる。


 ゴブリンクイーンが両手を振り上げ、

 俺を迎え撃つ様に叩き付ける。

 俺はその丸太のような腕が直撃する瞬間、

 魔法を発動した。





<時よ>





 時間魔法、発動。

 ゴブリンクイーンも眷属のゴブリン共もヒナタも、

 すべてが動きを止める。

 俺はただ一人、その世界の中で次の動作を開始していた。


 俺は魔力を集束する。

 全身の魔力が俺の右手に集まる。


 だがこれでは足りない。

 クイーンの鎧を焼き切るにはもっと魔力が必要だ。

 俺は集めた魔力を更に小さく、更に圧縮していった。



 5秒、10秒。


 限界まで圧縮した魔力は代わりにその輝きを増していく。



 苦しい。


 俺は意識が遠のきそうになるのを必死でこらえる。


 時間魔法の弱点。

 それは呼吸だ。


 停滞した時間の中では、

 大気もその動きを止める。

 呼吸により酸素を体内に取り込むことが出来なくなる。

 時間魔法の空間下では、

 息を止めて行動をし続ける必要があるのだ。


 平時であれば、1分か2分か、それくらいは息継ぎなしでも居られるかもしれない。

 だが今は戦闘中。

 心臓は鼓動を早め、身体は酸素を求めている。

 この状態では長い間、時間を止めるのは不可能だ。


 俺は自分の意識が途切れるギリギリのところまで魔力を圧縮した。

 そして右手からクイーンに向け魔法を放つ。




<フレイムストリーム>




 バキンと何かが割れるような音が耳元で聞こえる。

 その瞬間、滞留した時間は動きを取り戻した。



「グギャアアア!!!!」


 ゴブリンクイーンが両手を振り下ろす。

 だがすでにそこに俺の姿は無く、

 両手が地面をたたく。


「グハッ・・ハァハァ!!!」


 俺は身体の求めるまま、一気に酸素を体内に取り込む。

 目がチカチカして倒れそうだ。

 だがその前に俺はクイーンに対して指を鳴らした。


 クイーンの身体を赤い光が包む。

 そして現れた超高温の火球が炸裂し、

 クイーンを豪火で包んだ。



「アギャアアアアアアア!!!!」



 ゴブリンクイーンは断末魔の叫びをあげて倒れこむ。

 体液と焼け焦げた肉の臭いで、辺りには異臭が立ち込めた。


 ゴブリン達はクイーンの敗北に呆然としている。

 やがてゴブリン達は悲痛な鳴き声をあげながら、

 蜘蛛の子を散らすように逃げていった。




「・・・勝った、か」



 俺は肩で息をしながら、

 ヒナタに声をかけた。


 ヒナタは唖然とした様子で、

 俺に声を掛けられ気を取り戻す。



「あなた、本当に何者?」



 ヒナタが俺に尋ねる。

 いい質問だ。


 だが俺はそれに答えることも出来ず、

 そのまま意識を失った。




 ・・・

 ・・

 ・



「う・・・」


 俺は目を覚ます。

 柔らかい場所で横たわる感覚。

 どうやらベッドの上のようだ。


 目を開けると、

 そこには椅子に腰掛けてうたた寝をするヒナタがいた。


「ヒナタ・・・?」


 俺が呟くと、その声に反応しヒナタが目を覚ます。


「気が付いた?」


 ヒナタは心配そうな表情でこちらを見ている。



 俺が倒れた後の事を聞くと、

 逃がした子供たちが村にたどり着き、

 村長達を呼んでくれたようだった。


 倒れる俺と、

 戦闘の疲労によって動けなくなっていたヒナタを回収すると、

 村まで運んでくれたとのことだ。


「ゴブリンは、どうなった?」


 俺は気になっていたことを尋ねる。


「大丈夫。群れのリーダーが倒されたらその群れは瓦解する。多くは野良ゴブリンになってしまうけど、もう集団でこの村を襲うような力は残っていない」


 ヒナタの言葉に、俺はホッとする。


 良かった。

 戦った甲斐があると言うものだ。

 これで村の安全は確保できた。




 安心する俺をヒナタは真剣な目で見つめる。

 まだ何か言いたそうだ。


「どうした、ヒナタ」


「・・・もう一度聞く。あなたは、一体何者?」


 ヒナタが尋ねる。

 倒れる直前にも同じ質問を受けたような気がする。


「あー、えっと。俺は俺だけど・・・」


 俺はしどろもどろになって答える。


「はぐらかさないで。質問の意図は分かるはず」


 ヒナタは追及を緩めない。



 確かにヒナタの前では黒魔法も白魔法も使用しているし、

 ダンジョンでの出会いから数えると、

 2回も時間魔法を見せている。



 違和感は感じるだろう。

 俺は逃げることを諦め、考えた。



 いまやヒナタは旅の道連れだ。

 この場を誤魔化せたとしても、

 これから先もそうとは限らない。

 真実を隠し続けるならばそれなりの覚悟が必要だ。

 だが、そうなるとヒナタと一緒に旅する事自体に息苦しさを感じるようになるだろう。



 俺はそれを望んでいない。



 俺はヒナタを見つめる。

 付き合いはまだ短いし、

 知らないことも多いけど、

 なんとなくだが、ヒナタには本当の事を伝えても大丈夫な気がする。



 根拠はない。だが確信はある。



 年の功と言えばそれで終わりだが、

『僕』はそれなりに人生経験を積んできたのだ。

 善人か悪人か、信用に値する人物か否かくらいは分かる、はずだ。




 よし決めた。

 俺は意を決して口を開いた。


 さて、どこから話したものか。





 俺は長い時間をかけて、

 ヒナタに一部始終を話した。



 自分が灰色の老人であったこと、

 ゼメウスの箱を見つけた事、

 彼の魔法により若返ったこと、

 ゼメウスの弟子となったこと、

 そして彼の願いによりゼメウスの箱を探していること。



 とにかく全部だ。

 話し切るまでに長い時間がかかった。



 だがヒナタに話したことで、

 自分の中でもかなり整理が出来たような気がした。



 誰にも言えなかった、

 俺と言う人間に何が起きたのかということ。

 それをすべて吐き出すことが出来た。



 俺が話している間、ヒナタは黙って聞いていてくれた。






「・・・っとまあ。隠していたことはこれで全部だな」



 俺は話をまとめる。

 うん、すっきりした。


 あとはヒナタの反応次第だな。

 ヒナタは少し考えたあと、口を開いた。


「にわかには信じられない」


 ヒナタの第一声は当然のものだった。


「そうだよな、俺もそう思う」


 俺は両手を前に突き出し、掌を上に向けた。

 そしてそこに魔力を集束する。


 右手には小さな火種の魔法、左手には回復魔法を発動する。

 俺が灰色である証拠、両方の属性の魔法を目の前で見せてみる。


 ヒナタはそれを見て、なにか葛藤しているようだった。


「・・・話は理解した。だけど整理が追い付かない。あなたの言っている話はこの世界の常識をいくつも超えたもの」


「分かってる。急に話して悪かった。ヒナタには知っていて欲しかったんだ。旅の仲間として」


 ヒナタはこう見えて常識人だし、博学だ。

 当然この世界の理にも精通している。

 その彼女に、それを根底から覆すような話をしてしまったのだ。

 ヒナタの言う様に咀嚼するには時間が必要だろう。



「・・・話してくれて、ありがとう」


 ヒナタはそう言って、部屋を出ていった。


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