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第188話


飛び込んだ先には見覚えのある一行と、

老いたエルフがいた。


俺はエルフを背に、

教皇たちに対峙する。



「貴様は、、、」



オーパスが俺を睨む。



「よぉ、また会ったな。ジジイ」


俺は答えた。


「ヨイヤミ様!」


「そなたは、、」


「魔導士カナデです。こちらへ」



そう言ってカナデはエルフ王を退避させる。


カナデはゼメウスの魔法を行使した後だ。

戦闘に耐えうるだけの残魔力はないだろう。



「ヒナタ、、、」


俺は教皇の後ろに立つ、

ヒナタに声をかける。


相変わらず虚ろな瞳で、

幽鬼のようにふらふらとしている。



「・・・おのれ、魔導士。また懲りずに立ちふさがるか」


教皇が忌々し気に叫ぶ。


「今度こそヒナタを返してもらうぞ?」


俺は答えた。


「返す?愚かな、我が魔法の支配化にある限りこの娘は私のものだ」


「目を覚ませ!ヒナタ!」


「・・・」


俺は教皇を無視してヒナタに声をかける。

だがヒナタに変化は見られなかった。


「言っただろう?無駄だと」


「・・・黙れ」


俺は全身から魔力を放出する。

怒りが力となり、俺の中に燃える。


「・・・ぐっ」


俺の圧に教皇と、背後に控える騎士たちがひるんだ。




「何をしてる!やれっ!」


教皇が叫ぶと、騎士たちは気を取り直して俺にとびかかってくる。


「邪魔をするな」


俺は感情のまま、魔力を集束する。


<エアアクセル>


白魔法により自らを強化し、

騎士たちに向け跳躍する。


騎士の一人が振るう剣を避け、

その顔面に拳を振るう。


騎士はそのまま吹き飛んで、

壁へと叩きつけられた。



<フレイムランス>



俺は続けて残りの騎士に向け、

魔法を放つ。


炎の槍が一瞬のうちに、騎士を貫いた。





教皇を守っていた騎士たちを瞬殺し、

俺は再び教皇に相対した。



「ぐ・・・役立たずが・・・」


教皇がギリギリと表情を歪ませる。


俺が教皇に対し一歩踏み出すと、

立ちふさがるように一つの影が動いた。





「・・・ヒナタ」



分かっていたことだが、

新ためてその姿に心が引き裂かれそうになる。



虚ろな表情のまま、ヒナタは俺に右手をかざす。

そこには一切の躊躇は見られなかった。


そして彼女の手から緑の光が溢れる。



<星よ>



ヒナタがそう呟いた瞬間、

俺の身体に重力が掛かる。


両足が重力に負け、

ミシミシと音を立てる。



「ぐっ・・・」



このままじゃ村での戦いの二の舞だ。

俺は白魔法を全開にし、その場を飛びいた。



ヒナタから距離を取ると、

重力からは解放された。

どうやら魔法の範囲外に出たようだ。




「ヒナタ!」



俺は再び、ヒナタの名を叫ぶ。


だがヒナタはすでに次の魔法の動作を始めていた。


今度は緑の魔力が球体となり、

俺の方へと放たれる。



「ぐっ!!」


俺はその魔法を地面を回転しながら避け続けた。


緑の球体が地面を刳り、

破壊していく。


ヒナタは冷たい表情のまま、

緑の魔力を連射する。




どうする。

俺は突破口を探す。


だがヒナタの猛攻に晒されながら、

思考を深める余裕はない。


結局攻めることも、

突破口もつかめず、

いたずらに回避を重ねた。


だが、そんな受け身の戦いがヒナタを相手に続くはずもない。


一瞬の思考の隙を突かれ、

気が付くと俺の周囲に緑の球体が漂い、

逃げ道が無くなっていた。



「・・・ぐ」



ヒナタは再び魔力を放ち、

それに呼応するように周囲の緑の球体から、

魔力が溢れ出す。




——————まずい。



そう思った瞬間、

俺の視界を緑の魔力が覆い、轟音が響いた。



「っ?」


ヒナタの魔法の直撃を覚悟したが、

想像していたような衝撃はいつまで経っても訪れなかった。



よく見れば、

俺の身体はいつの間にか薄いドーム状の魔力により守られていた。


それは緑色の魔力。

俺を攻撃しているヒナタの魔力と同質のものだった。



「大丈夫かい?」


「・・・カナデ?」


俺を守ったのはカナデであった。

彼女の身体からもまた緑色の魔力が溢れている。



「すまん」


俺はカナデに答える。

そのままカナデは俺の側へと寄り添う。



「・・・グレイ、いくらあの子が知り合いだからって、もう戦わないのは無理だ。分かっているだろう?」



困ったような表情でカナデが言う。


「・・・ああ。だが・・・」


俺にはヒナタを攻撃することなんて出来ない。


そう答えようとした時、

カナデが先に口を開いた。



「・・・仕方ない。君の代わりに僕が戦おう」


「えっ?」


「ヒナタちゃん・・・彼女の相手は僕が務めるよ。同じ魔法を使うわけだし、足止めくらいは可能なはずだ」


「だが・・・」


カナデの残魔力は僅かだ。


「・・・うん、わかってるなら急いでくれ。きっと奴を捕まえれば、なんとかなるはずだ」


カナデの視線が教皇へと移った。


「だが、やつを攻撃すればヒナタは・・・」


「それについてだけど、もしかしたらヨイヤミ様ならなんとか出来るかもしれない。<大賢者>と呼ばれるあの方なら・・・」


<大賢者>と言うのはエルフの王の二つ名だ。


「可能性に過ぎない。でもこのままじゃ、何もせずにやられるだけだ」


カナデが俺の目を見て言う。


「・・・ああ」


俺はその視線に頷くことで答え、

それから教皇を視界に捉えた。



「くっ、おのれ・・・・」


その視線に気がついた教皇は、

憎しみの声をあげる。


教皇は扉から飛び出し、

部屋の外へと駆けていった。




「待てっ!」


俺はその背中を追い、扉へ駆ける。



走り出した俺に対し、

ヒナタが魔力を放つのを感じた。


だがその攻撃は俺に届くことなく、

カナデの魔力により相殺される。


「行って!」


カナデの叫び声と同時に俺は扉から飛び出した。



・・・

・・


「・・・」


部屋の中に残されたのはヒナタとカナデ。


ヒナタにはすでにグレイを追う様子はなく、

カナデを正面から見つめている。


朦朧とした意識の中でも同じ魔力を纏うカナデを敵と認めた様子だった。


いやもしかしたらもう複雑な思考が出来ず、

目の前の敵を排除するだけなのかもしれない。

カナデはそんな事を考えていた。



「・・・ヒナタちゃん、君とは面識もないけど」


「・・・」


「・・・君も、彼を。グレイを好いているんだろう?」


「・・・」


「僕も君と同じだ。だから君の気持ちは分かるよ」


「・・・」


「だから僕が君を止める。・・・君が目覚めた時の罪悪感が少しでも和らぐように」


「・・・」


「・・・ごめんね」


そうしてカナデは緑の魔力を纏う。


呼応するようにヒナタも魔力を展開する。


そして二人は同時に、

禁忌の魔法を展開した。



・・・

・・



「・・・追いついたぞ」


俺の目の前には息を切らした教皇がいる。


「はぁ・・・はぁ・・・おのれ・・・」


こちらを睨む教皇。

そこには既に余裕の表情は見えない。


「・・・ヒナタを返してもらう」


俺は右手をかざし、教皇に向けた。


「ククク、返してもらうか・・・おめでたいやつだ」


その瞬間、教皇の瞳が怪しく光る。


「・・・なんだと?」


「私の洗脳魔法をあれほど浴びた小娘が、無事で済むわけがないだろう?」


その言葉を聞いて、

俺の心臓がドクンと跳ねる。


「どういう・・・ことだ・・・?」


「そのままの意味だ。強い精神干渉を受けたものが正気に戻ることはない。特にあの半魔の娘には強く魔法をかけたからな。穢れた血にはお似合いの最期だ」


俺は自分の心の奥底に、

とてつもなく冷たい感情が湧き上がるのを感じた。


「ハッハッハ、私は終わらんぞ、私は――――グッ!!」


俺は教皇の胸ぐらをつかんだ。


「・・・ククク、憎いか?私が。殺せば良い、その瞬間あの娘も死ぬがな」


そう言って教皇は俺の手を掴む。


怒りのあまり寒気がする。


俺はブルブルと手を震わせながら、

心の奥から吹き出す感情を必死に押し殺す。



「・・・大方、何か手はあると思っていたか・・・?だが無駄だ。あの娘がもとに戻ることはない。そういう運命なのだ」


教皇の目が再び怪しく光る。


「もう、戻らない・・・」


その言葉を聞いて、俺は考える。


あぁ、なんだ簡単なことじゃないか。

ヒナタが戻らないのであれば俺が我慢する必要はない。

この感情に身を委ねてしまおう。


俺は教皇を乱暴に放り投げると、

這いつくばった姿に右手を向け、

魔力を集束した。



教皇はこちらを見てニタニタと笑っている。


「・・・ククク、私を殺すか。それも良いだろう。だがただでは死なんぞ、貴様に呪いをかけてやる。一生消えることのない、殺意という呪いをな」


もう教皇が何を言っているのかよく理解できない。



まるで心と身体が無理やり引き剥がされ、

そのどちらもが俺のものじゃないみたいだ。



あぁ、そういえば教皇はそんな魔法を得意としてたんだったか。

だがもう考えるのも面倒くさい。



殺してしまおう。


俺は右手に魔力を集束する。


教皇の顔が邪悪な笑顔に歪む。



その時。



俺の頬に衝撃が走り、

俺はそのまま吹き飛んだ。




「ぐ・・・」


俺は身体を起こし頭を振る。


その途端、頭の中に掛かっていた靄が晴れ、

思考がクリアになる。



俺は一体、何をしようとしていた?

憎しみのままに教皇を殺そうとしていた自分が信じられなかった。

そんな事をすればヒナタをこの手で殺すのと同じことなのに。




「まったく・・・何してるのよ。そんな見え見えの魔法に引っかかって」


起き上がろうとする俺に、

語りかける声が聞こえた。


それはとても懐かしく、

そして優しい声。


さらに言えば、

今しがた俺をぶん殴った張本人の声だ。



「・・・アリシア?」


そこにいたのは俺が再会を待ち望んだ、

最も頼りになる魔導士の姿があった。


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