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第184話



「今のは・・・」


ロロは不思議な魔力を感じて立ち止まる。

それは自らの生命魔法と同種の魔力。


「・・・どうされましたか?」


シオンが尋ねる。


ロロとシオンは街中を駆け回っているが、

侵入者たちの姿は一向に発見できなかった。


そもそも二人とも、

この街にとってはただの滞在者。

異質なものの発見には難儀していた。


発見は難しいかと諦めかけたその途端、

感じた異常な気配。


しかも今しがた魔力を感じた方向は、

あろうことか王樹の方角。


ロロは瞬時に、

脳裏に最悪のケースを思い浮かべる。

その表情に傍らのシオンも何かを察する。


ロロとシオンの視線が合う。


「シオンさん、もしかしたら敵は既に―――—」


そこまで言ったところで、

ロロとシオンは前方に気配を感じる。

それは強い殺気。

禍々しい魔力がこちらに迫るのを感じた。



同時にその場を飛びのく二人。

その瞬間に二人が立っていた地面が爆ぜる。


「誰だッ!」


シオンが叫ぶ。


その声にガシャリガシャリと闇の中から現れたのは、

甲冑姿の騎士であった。


「・・・なっ」


騎士の登場に最も驚いたのはロロであった。



その驚きは無理もない。

目の前の騎士は、細かいところは違えど、

自らもよく知る聖魔騎士団の鎧を身に付けていたからだ。


騎士は動きを止めると、

ゆらりとロロとシオンを覗き込む様な仕草を見せた。



「おやぁ?チョロチョロ動き回るやつらがいるから消して来いと言われたが・・・よく見りゃ聖女様じゃないですかい」



相手を小馬鹿にした様な口調で、騎士が言う。


「貴方は・・・ッ!」


ロロが言う。


名前は分からなかったが、

声には聞き覚えがあった。


たしか消えた教皇の近衛騎士。

円卓のうちの一人だ。


「俺が分かるんですかい?そりゃ参ったな。オーパス様には誰にも知られるなって言われてるんだけど・・・」


騎士の口から出た教皇の名前に、

ロロはドキリとする。

なぜここで教皇の名が出てくるのか、

ロロにはまるで理解が出来なかった。


「・・・教皇が・・・どうしたと言うんです」


ロロは必死で質問する。

心臓の鼓動が早まるのが分かる。


「んー、それは流石に言えませんよ。とりあえずあなた方にはここで死んでもらいますし、俺も仕事があるんですわ」


そう言って騎士は腰に差した剣を抜く。

そしてそのまま左右に剣を振った。


「・・・なっ・・・何を・・・」


ロロは未だに目の前の男の真意が掴めなかった。

自分の記憶が間違っていなければ、

彼は教皇と聖女、そして大聖堂とブルゴーの街を守る騎士だったはずだ。

それが何故、遠い南の大陸で自分に刃を向けているのか。


戸惑うロロに声を掛けたのは隣にいたシオンだった。


「ロロさん、貴方と奴の関係は分からない・・・けどダメです。奴は貴方と私を殺すつもりだ」


そう言ってシオンは両手に魔力を集束させる。

戦闘態勢への移行。


シオンの言葉に、

ロロも慌てて体勢を整える。


そうだ。

戸惑っている場合じゃない。

騎士の真意は分からないけど、

ここで立ち止まっている時間はないのだ。


「んー、やるつもりですか?舐められたもんだぁ」


そう言って騎士は全身に強化魔法を展開する。


「こう見えても、聖魔の騎士ですからね。俺は強いですよぉ」


騎士がそう言った途端、地面が爆ぜた。

二人の魔導士と、聖魔の騎士が交錯する。



・・・

・・



ロロとシオンが市中を駆け回る頃。

誰も居なくなったアリシアの病室に、

一つの変化があった。



「・・・ここは」



長く昏睡状態だったアリシア。

ロロの献身的な看病により、

彼女は遂にその意識を取り戻していた。


見慣れない天井。


身体を起こし、

アリシアは初めて自分がベッドに寝ているのだと理解する。


「・・・私、どうして・・・」


アリシアは呟き、

自らの記憶を探る。


襲う鈍い頭痛に、

自分が長い事眠っていたのだと言う事を察知する。


始めに思い出したのは、

眩いほどの緑の光。


それからゆっくりと、

自分が戦闘に敗北したのだと言う事を思い出す。


「ヒナタちゃん・・・」


自分を倒した相手の名を呼ぶアリシア。


だがそれは恨みからではなく、

ただただ相手の事を慮る感情であった。


アリシアは思わず横たわるベッドの毛布を握りしめる。


彼女の事をグレイに伝えなくてはいけない、

いやもしかしたら彼はもうそのことを知っているのだろうか。


どちらにせよグレイにとっては辛く悲しい話になるだろう。

だとしたら側に居てあげたい。


目を覚ましたばかりのアリシアは、

自身の身体よりも先にグレイの事を強く案じていた。


「そうだ・・・グレイ・・・私・・・」


次第に、目覚めたばかりの頭が冴えてくる。


ヒナタと戦う直前に、

自分が呼び寄せたはずのグレイ。


彼はもうエルフの里に到着したのだろうか。


「シオン・・・シオン!?」


状況を確認するため、

いつでも近くに居るはずの自らの従者を呼ぶ。


だがいつまで経っても、

それに答えるシオンの声はなかった。


「・・・シオン?」


アリシアは心配になり、

再びシオンの名を呼ぶ。


彼が側に居ないと言う事が、

なぜだかとても不安感を掻き立てた。


「・・・・う・・」


アリシアはベッドから身を起こし、

窓の外を見る。

少しだけふらついたが、

どうやら動くことは問題なくできるようだ。


窓の外は暗い。

時間の感覚が欠落しているが、

窓から感じる冷気と、空気の透明度から、

恐らくは明け方に近い時間であろうと推測する。


「人が・・・どうしたのかしら」


見れば往来を、人々が走り回っている。

こんな時間にどうしたのだろう。

アリシアはただならぬ気配を察知する。


実際の所、アリシアがこのタイミングで目を覚ましたのは、

優秀な魔導士である彼女の身体と精神が何かを察知したからに他ならない。


アリシアはローブに袖を通すと、

まだふらつく身体を動かし、

病室の外へと飛び出した。



・・・

・・



「ぐっ!」


うめき声と共にシオンの肩から鮮血が飛び散る。


「シオンさん!」


ロロは慌ててシオンの肩口に回復魔法を当てる。


二人は騎士の攻撃から逃れ、

道端に積まれた木箱を盾に隠れていた。


「おーい、いつまでも隠れてても無駄ですよぉ」


騎士の声が聞こえると共に、

隠れている木箱が破壊される。


遠隔系の斬撃。

これが騎士の魔法であった。



<エアブラスト>


シオンが木箱の影から飛び出し、

暴風の魔法を放つ。


だが騎士はその場から動くこともなく、

風魔法を斬った。

真っ二つになった魔法はそのまま騎士を避け、

道脇の荷物を破壊する。


「・・・無駄ですよぉ」



ロロは思う。

のらりくらりとしてはいるがこの騎士はかなり強い。


シオンも決して弱い魔導士ではない。

そこらの魔物には後れを取る事はないだろう。

だが一緒に行動して分かったが、

彼はどちらかと言うと後方支援型の魔導士なのだ。


ロロは冷静に戦況と戦力を分析する。

そして確信する。

このままでは私たちはこの騎士に殺される。

なんとかしなくては。


「・・・シオンさん、少しよろしいですか?」


ロロは、シオンにそっと耳打ちをする。







「・・・おや?ようやく出て来てくれましたか?」


騎士の目の前に、ロロが現れる。


「・・・貴方たちの目的はなんです?どうしてこんな・・・街を襲ったりなんか・・・」


ロロが尋ねた。


「そりゃ俺じゃなくて、オーパス様に聞いてください。俺たちはあの人の指示を聞いてるだけですわ」


騎士が面倒くさそうに答える。

これで騎士の口から教皇の名前が出てきたのは二度目。

どうやら勘違いではなさそうだ。


ロロは大きく息を吐く。


「消えたはずの教皇様がここにいるんですね。・・・では尚更直接話をします」


ロロは騎士に答える。

実際の所、ロロはまだ心のどこかで教皇の事を信じていた。

何を考えているか分からない人ではあったが、仮にも聖職者。

人を傷付けるような真似をするなど思いたくも無かった。



「・・・あー、そうか。聖女様はまだあの方の本性を知らないんですものね。ありゃダメですよ。好々爺を演じてはいるが、中身はとんだ差別主義者。化けの皮が剥がれた今、あんたが知る教皇じゃ―――」


「・・・黙りなさいッ!」


ロロが叫ぶ。


「あー、まぁそうですよね。自由もなく小飼にされていたとは言え、あんたは何の被害も受けていない。そりゃ信じたくもなるか」


騎士がふむふむと頷く。


「でもどうするんです?見たところ隣の魔導士も、聖女様も戦闘得意ってタイプの魔導士じゃないでしょ?俺は一応騎士ですから、今のあんた達には負けないと思いますよ。」



騎士の分析は正確であった。

ロロも同じことを思っていた。

しかし――――


「・・・聖女の力、あまり舐めないでくださいね」


そう言うと、

ロロは全身に白魔法を展開した。

それも飛び切りの魔力を込めて。


「おぉっ!」


騎士は驚きと共に身構える。

だが虚を突いたロロのステップの方が早い。


実力差は確かにある。

だが一度くらいであれば裏をかくことくらいは可能だと思っていた。

ロロにとってはその一度で十分であった。


ロロは騎士の身体に触れると、

全力で()()()()を放った。



「って!ハハッ!何考えてるんですかっ!」


騎士がロロの意味不明な行動に嘲笑を漏らす。

戦場で相手を回復させるなどと愚行の極みと思えた。

実際に騎士の負っていた小さな傷が、

ロロの高度な回復魔法により回復していく。


だがこれでいい。

ロロだけはそれを確信していた。


「よく分からねぇけど、聖女様!ここで死んでくだせぇ!」


そう言って騎士は至近距離に飛び込んできたロロに剣を振り上げる。

だがその瞬間、強烈な眩暈と吐き気が騎士を襲った。


「ぐぉ!?な、なんだぁ?」


膝から力が抜け、

騎士が崩れ落ちる。


攻撃魔法を喰らった形跡はない。

だからこそ騎士は無防備となった。


それは回復酔いと呼ばれる、

回復魔法の過剰供給による症状であった。


通常はここまでひどい事にはならないが、

回復魔法を放ったのは東の大陸一の回復術士。

当然、副作用も大きい。


「だぁけど、これくらい!!」


騎士が叫ぶ。

ロロはすでに騎士の間合いから脱出しており、

後方に居たシオンに叫んだ。


「今です!シオンさん!」


背後ではシオンが魔力を集束し、

二の矢を放っていた。


だが騎士は思う。

あの魔導士の魔法であれば、

自分にとって致命傷にはならない。

僅かな戦闘で、

騎士はシオンの魔導士としての攻撃力を正確に捉えていた。


その確信が、第二の隙となる。


<エアバースト>


放たれたのは風の上位魔法。

シオンの魔力量からすれば到底放てないような高度な魔法。


だが放たれた風の暴風は、

地面を削りながら騎士へと迫る。


「そ、うか・・・強化したなッ!」


騎士は風の直撃を受けながら叫ぶ。


シオンには隠れている最中に、

ロロが魔力強化の白魔法を掛けていた。

ロロの力は回復魔法では無いのだ。


「ぐううあああああ!!!」


暴風が騎士を吹き飛ばす。


地面に叩き付けられた騎士は、

ピクリとも動かなくなった。



「はぁ・・・はぁ・・・」


肩を上下させ、呼吸をするロロ。


「・・・ロロさん、大丈夫、ですか」


そう言って身体を引き摺るように近付いて来るシオン。

自らの力量以上の魔法を放った彼もまた苦しそうだ。


「大丈夫です・・・シオンさんも無理をなさらず」


互いの身体を案ずる二人。

実際、この二人の力量を考えれば聖魔の騎士を撃破したのは奇跡に近かった。


「・・・王樹から魔力を感じました。急いでに向かいましょう」


ロロが言う。

その言葉にシオンが頷いた。


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