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第183話


「帰って来たな」


「うん、なんだか久し振りな気がするよ」


俺とカナデは出発した街へと帰ってきていた。


「さて、どうするか」


俺はカナデに尋ねる。

普通であればギルドに戻り、

ダンジョン攻略の報告をするべきだ。


だがカナデの表情は重い。


「・・・グレイ、考えたんだけど。最果ての楽園を攻略した事は今はまだ報告しないほうが良いと思うんだ」


カナデが言う。


「・・・どうしてだ?」


俺は尋ねた。


「・・・うん、最果ての楽園を攻略したとなると大ニュースだ。僕たちが思っている以上の騒ぎになってしまう可能性も高い。正直今はそれらに対応している時間はない」


カナデが言う。


「なるほど、うん確かにそうだな。そうしよう」


俺は答えた。


「や、やけにあっさりだね?グレイはそれでいいの?ほら、最果ての楽園を攻略したと公にすればグレイの魔導士としての功績が認められることになるんだよ?」


カナデが驚いたように言う。


「ああ、たしかにそうだな。だけど・・・うーん、そうなると緑の箱の件がバレる可能性も高いし・・・、秘密にしておいた方がいいと思う」


俺は答えた。


「無頓着と言うかなんて言うか・・・それは君のすごいところだね。歴史的大発見なのに・・・」


カナデが感心したように言う。

そうかな、ゼメウスみたいな規格外に触れ続けていたから感覚が可笑しくなっているのだろうか。


「とりあえずギルドには行ってみるか?生存報告はしないといけないし」


俺の言葉にカナデが頷き、

俺たちはギルドへと向かった。



・・・

・・



ギルドの中は、なぜだか人が慌ただしく動き回っており。

なんだか落ち着かない雰囲気だった。


「なにごとだ?」


「さぁ?」


戸惑う俺たちに、

聞き覚えのある声が叫ぶ。


「グレイさん!」


振り返るとそこにいたのは受付嬢のキャロットだった。


「あぁ、良かった。ご無事だったんですね」


そう言って近付いて来るキャロット。

彼女もまた非常に忙しそうだ。


「何かあったんです?」


俺は彼女に尋ねた。


「そ、それが・・・最果ての楽園で異常事態が起きまして」


その言葉に俺はギクリとする。


「異常事態ですか?一体どのような」


カナデが尋ねる。


「はい。それがここ数日で立て続けに回生が起きた様なんです。新緑の回生と、もう一度。こんな事は初めてなので、何か良からぬことの前兆かと皆殺気立っています」


「そ、それでこの騒ぎか・・・」


俺は周囲を見渡した。


「はい、お二人も最果ての楽園に行ってらっしゃいましたよね?何か情報はお持ちではありませんか?」


キャロットが尋ねる。


「あ、いや・・・僕たちは・・・」


「知らないな」


俺とカナデはしどろもどろになりながら答える。


「?。そうですか、今から緊急の調査班が組まれて最果ての楽園の大規模調査が実施される予定です。何か気が付いたことがあったら、いつでもいいのでいらしてください!」


そう言ってキャロットはギルドの奥へと走っていった。

俺とカナデは平静を装いながら、

ギルドを後にする。


「ふぅ・・・危なかったな・・・」


周囲を確認し、

俺は呟く。


「うん。僕たちが攻略したなんて言えば、どうなったか分からないね」


カナデが笑う。


「とりあえず宿に帰ろう。ミヤコに帰る算段も付ける必要がある」


俺とカナデは宿へと向かった。



・・・

・・


その夜、明け方近く。

不意に部屋に風が吹き込んできたのを感じ、

俺は目を覚ました。


「なんだ?」


身体を起こし、部屋を見渡すが何もない。


「気のせいか」


もう一度眠りに就こうとして俺は気

部屋に俺以外の魔力が存在していることに。


俺はその魔力に覚えがあった。


「アカツキ・・・様?」


俺はミヤコに居るはずのエルフの王子の事を思い出す。

なぜだろう。

彼がこんな所にいるはずもないのに。


「どういうことだ」


俺は改めて慎重に部屋の隅々を調べる。

だが俺には何も見つけることが出来ない。


だが胸によぎる不安。

何かが俺を呼んでいる。

それだけは直感的に感じ取る事が出来た。

その時――――


ガタン。


窓が鳴る。

俺はその音のした方に目をやる。


するとどうだろう。

朝露に濡れた窓に、

一画ずつ線が引かれていく。


そこに書かれたのは恐らくはエルフの文字。

だがなぜだろう。

俺はその文字を読むことが出来た。


そこに書かれていたのはたった一文字。


人間の文字とエルフの文字では、

そもそも体系が異なるが、

それでも人間の文字においてもその言葉は、

同じ意味を持っていた。



「・・・『敵』?」



何かが俺に伝えたかった事。

それは他ならぬ助けを求める救援要請だった。



・・・

・・



「襲われてる?ミヤコが?」


俺はすぐにカナデを起こし、事情を話した。

虫の知らせよりも確かな確信がある。

アカツキは俺に助けを求めているのだ。


「そうだ」


「で、でもミヤコには魔導士や衛兵ががたくさんいる。仮に敵が現れたからって――――」


そこまで言ってカナデは気が付く。

俺たちが追っているのは、Sクラス賞金首とその仲間。

しかもそのうちの一人はゼメウスの禁忌の魔法を使用している。


並みの魔導士では太刀打ちできない


「すぐに帰ろう」


俺はカナデに言った。

カナデはそれに素直に頷く。


「で、でもまだこの時間だ。馬車は動いてないし、どうやって」


窓の外はまだ暗い。

太陽が昇るまでまだ時間があるだろう。


「・・・走るか。俺とカナデならそっちのほうが早いだろ」


カナデの操る精霊は風の力を有してる。

身体強化と組み合わせれば文字通り風の様に走れるだろう。


「・・・それはそうだけど。馬車でも半日以上はかかる距離だ。全力で駆けてもどれほど時間が掛かるか」


カナデが暗い顔をする。


半日。

カナデの言葉を胸中で反芻する。


たしかにたどり着くのが半日後であれば手遅れの可能性もある。



俺は街に残してきた、アリシアとロロの事を考える。

もしも街に敵の手が伸びているのであれば、彼女たちも危ない。

特にアリシアはまだ目覚めてすらいないのだ。


俺は猛烈な焦りを感じた。

額に脂汗が滲むのが分かる。




俺の表情を見て、

カナデもまた悲痛な表情を浮かべる。


そして何かに気が付いたようにハッとして、

それからまた重い表情に変わる。



「・・・グレイ。聞いてもいいかい?」


カナデが神妙な表情で、

俺に尋ねる。


「・・・なんだ?」


俺は慎重に答える。


「いやなに、もしも君が逆の立場なら、どうするだろうと思ってさ。大切な人の大切なものが脅かされた時、君にもしそれを救う助けるための力があれば」


カナデがそんな事を尋ねる。

俺の顔色を窺う様に、俺の顔を覗き込んだ。



「・・・助けるに決まっている」


俺の言葉にカナデがふっと表情を和らげる。


「そのために、どんな代償があったとしても?」


諦めとも、腹をくくったともいえるなんとも言えない表情。

俺はカナデの表情を見て、彼女が何を考えているのか察しがついた。


「・・・カナデ、駄目だ。それだけは」


俺は懇願するようにカナデに言う。


「どうして?僕も君とまったく同じ気持ちさ?大切な人を助けたい」


「・・・それには代償が大きすぎる。カナデの人生を壊してしまいかねない。何が起きるか分からないんだ」


俺の言葉にカナデがため息を吐く。


「人生を、か確かにそれは怖いね」


「そうだ。だからそれはダメだ。他の手段を考えよう」


俺はカナデの顔をじっと見つめる。

彼女の考えていることは分かる。

だがその為に彼女が代償を支払う必要はない。


「フフ、君は優しいね。ズルいや。でもダメだ。僕がこの力を引き継いだのは、この瞬間の為だったんだ。今ではそう確信できる」


カナデはそう言った。


「・・・カナデ」


俺が呟くと、

カナデは俺の顔を両手で押さえる。


そして――――



「愛しているよ、グレイ。どうやら僕は君の為ならどんな代償を支払っても惜しくないと思っているらしい」


カナデの唇が俺の唇に押し付けられる。


その瞬間、部屋の中に深緑色の強烈な魔力が満ちた。



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