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第175話 躍進


「ではこれで」


ミフネとその部下、カナデは繋いでいた手を離す。

周囲には濃厚な魔力が満ち、

俺たちの野営地を包んでいた。


「これは高位な精霊魔法なんだ。複数人の精霊魔導士が集まり、発動させる。人避けはもちろん、魔物も寄って来ないんだ」


カナデが言う。


「・・・なるほどな。だからこんな森のど真ん中で野営が可能になるわけか」


俺の言葉にカナデが頷く。


「うん、彼らと出会えてよかった。流石に僕とグレイでも、ダンジョンの中ではね」


カナデは安心したように、

息を吐いた。




「勅命と言われた以上、詳しく聞くことは出来ん。だが貴殿らを助けることが我らの使命に思える」


そう言ってミフネは俺たちに食事を振舞ってくれた。

昼のうちに狩った、小型の鳥を捌き、丸焼きにしたものだ。


「あちちち」


俺はその肉にかぶりつく。

恐ろしくジューシーで、脂も甘い。


「ぐれい、ください。おにく、おにく」


幼ゼメウスが俺の腕にすがり付く。

どうやらお腹が空いていたようだ。


「ほれ、火傷するなよ」


「あうー、おいひい」


そう言って幼ゼメあはふはふと肉を頬張る。

美味しいそうに目を細めるゼメウス。

思わず俺たちも頬が緩む。



「幼子を伴い森に入るとは・・・」


ミフネが改めて驚いた様子で呟く。

質問したいようでうずうずしているのが分かるが、

それを聞かないのが彼の国への忠誠心の表れであろう。



「ミフネさんたちは明日はどのように?」


カナデが尋ねる。


「うむ。回生したての森を調査するのが我らの目的でな。明日はもう少し奥まで行く予定だ」


『最果ての楽園』を調査できるということはミフネとその部下三人は実力者なのだろう。

今は幼ゼメウスをあやしてくれている三人の方に目をやった。


「少しだけ同行させて貰えないでしょうか」


俺はミフネに尋ねた。

ミフネは少し目を細め俺を見る。


「・・・我らに断る理由はない。好きにするがいいだろう」


ミフネは答えた。

こうして俺たちはエルフの里の調査部メンバーとダンジョンを進むことになった。



・・・

・・


結果から言うと、その判断は俺たちとミフネたち、双方にメリットをもたらした。


まず俺たちの方は単純に戦力が増えたため、

戦闘における負担が少なくなった。

回生直後の活きのいい魔物たちを相手に、

ミフネとその部下たちは一歩も引くことはなかった。

全員がAクラスかそれに近い実力の魔導士なのだろう。


逆に俺たちの隊には、

過去に『最果ての楽園』に入ったことのあるカナデがいた。

これにより道に迷う機会は少なく、

最奥に向けほぼ最短距離で向かうことができた。


昼過ぎにはミフネたちが予定していた到達地点を越え、

まだ余裕があったため、

俺たちは更に彼らと行程を共にすることにした。


そして三日目の日が暮れる。

カナデとミフネたちは昨夜のように結界を貼り、

野営地を作った。



「・・・カナデ殿はもとより高名な魔導士ではあったが・・・、貴殿の実力はそれ以上と見た」


夕食を食べながら、ミフネは俺を見ていった。

今日のメニューは猪型の魔物の肉を使った鍋だ。


「・・・買いかぶりです」


俺は答える。

だがミフネは薄い笑みを浮かべていった。


「それほどの力がありながら、貴殿はそれを隠しながら戦っているようにも見える。不思議な男だ」


何やらミフネに気に入られたようだ。

返す言葉に困りカナデを見ると、

カナデは面白がってこちらを見ていた。


「さて、今日はもう寝よう。グレイ殿とカナデ殿はまだ奥を目指すのだろう?」

「ええ。そのつもりです」

「そうか。すまぬが我らが同行できるのはここまでだ。これ以上進めば帰還が難しくなる」

「ええ。もちろんです。むしろここまでありがとうございました」


そう言ってカナデが頭を下げる。


「貴殿らがこのダンジョンを攻略するところを見届けたかったが・・・我らにも任務があるでな」

「ありがとうございます」


俺はそう言ってミフネと固く手を握った。





恐ろしく静かな晩だった。

魔物の気配もなく、精霊結界が効いているものと思われる。


だが変化は突然に訪れた。

初めに気が付いたのは、幼ゼメウスだった。


「うああああああぁん!!」


「ん、どうした・・・ゼメウス・・・」


幼ゼメウスの突然の鳴き声に俺は目を覚ます。


「ん、どうしたの・・・?グレイ、ゼメちゃんも・・・」


続いてカナデが眠たそうに目を擦り、

こちらに近づいてきた。


「いや、わからない。急に泣き出して―――――――」


俺がそうカナデに答え、顔を上げた瞬間。

俺の目に入ったのは凍り固まるカナデの表情だった。


「あ・・・あ・・・」


カナデは目を見開きながら、ふらふらと後ずさる。


「カナデ?」


俺はカナデの視線を追うように後ろを振り向いた。



そこには、

身長2メートルはあろうかという二足歩行の生物がいた。

筋骨が膨れ上がった身体。

全身は真黒い毛で覆われている。

顔の部分には狼に似た肉食動物の頭部。

だがその口元は左右に大きく裂け、

異常なまでに発達した牙が生えていた。



「ああああああああん!!!」


咄嗟に大泣きする幼ゼメウスを、

俺は抱き寄せる。


その瞬間、化物は怒り狂ったような咆哮をあげた。


「アグギャアアアギュアアア!!!!」


耳を裂くような不快な鳴き声。

俺は全身に鳥肌が立つのがわかった。


それに反応するように、

俺は右手に魔力を収束する。


「っ!ダメだ!!グレイ、そいつは―――――――」



<フレイムボム>



カナデが何かを言いかけていたが、

俺は構わず魔法を放った。


化物の頭部近くで爆発が起きる。


「ギュギュあああッ!!!!」


化物が鳴き声を上げ、

爆炎に包まれる。


よし、この隙に距離を――――――


そう思い足に力を込めた瞬間、

目の前の爆炎の中から腕が飛び出し、

俺の顔を殴った。


「ガハッ!!」


俺はそのまま吹き飛ばされる。

背中の幼ゼメウスを庇い変な体制で地面に叩きつけられる。


「グギュルルウルルルアアああ!!」


化物はまるで俺の魔法など受けていないかのように無傷であった。

爆炎で舞った払い、俺へと突進してくる。


まずい。

俺はふたたび右手に魔力を収束する。


だが俺が次の魔法を放つより先に、

カナデが魔法を放った。


<風精霊の三叉槍>


飛び出す風の刃。

だがその風は化物ではなく、

左右に生える木々へと直撃した。


風に幹を切り裂かれた樹木は大きな音を立て倒れる。


「ッぎゃああ!!」


化物は頭上に迫る樹木を避け、

俺たちとは距離を取る形で離れた。


「カナデ!」


俺は叫ぶ。


「グレイ、やつに魔法は効かない。魔法耐性が恐ろしく高いんだ」


カナデが言う。


「・・・あいつは、なんなんだ?」


俺は尋ねた。

だがカナデは答えない。


「グギュリュウウウアアああ!!!!」


またしても気味の悪い咆哮をあげ、

化物が身体を震わせた。


そういえば、

ミフネたちはどうしたんだろう。


これだけ騒ぎになれば、

彼らも目を覚ますに違いないはずなのに。


俺はミフネたちのテントの方を見た。


だがそこにはズタズタに切り裂かれ、

原型を止めないテントがあった。


「・・・まさか・・・」



俺は絶句する。

冷静になってよく周囲を観察すると、

そこかしこに戦闘の跡があった。


そして辺りには鼻をつくほどの血に匂いが漂っていた。



「・・・どうやら僕たちは眠らされていたようだ。気をつけてやつはそう言う魔法を使う」


カナデが悔しそうに言う。


「カナデ・・・あいつはなんなんだ?」


化物のことを知っている様子のカナデに再度尋ねる。


「あいつは、『エルフ喰い』。このダンジョンに巣食う悪魔、そして・・・」


カナデは一歩前に出て、戦闘態勢を取った。

化物はそんなカナデを見て苛立たしげに唸り声をあげた。


「姉さんの敵だ」


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