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第168話 蜘蛛の恨み


「走れ!」


カナデが叫び、

俺の手を掴み走り出す。


それと同時に響く轟音。

木々がなぎ倒され姿を現したのは、

巨大な蜘蛛だった。


以前討伐した、ジャイアントタラテクトの数倍はあるだろうか。

黒い身体を動かしながら、

巨大蜘蛛は俺たちを追いかけてきた。


「キシャアアアアアアアアア!!」


俺とカナデは森の中を走る。

巨大蜘蛛は木を森の木々を物ともしない速度で、

俺たちに迫る。




「デカすぎるだろ!あの蜘蛛!」


走りながら俺は言った。


「南の大陸には蜘蛛の魔物が多いけど、あれは特別だ!」


「特別!?」


「あれはアークタラテクト!!蜘蛛型の魔物の中でも最上位に近い種だ!」


俺とカナデは、

巨大な木の陰に身体をすべりこませる。



「アークタラテクト?ジャイアントタラテクトよりヤバいのか?」



俺は尋ねた。


「ああ。タラテクト種は多々いるが、ジャイアントとははっきり言ってケタ違いさ」


「ケタ違いって・・・」


以前戦ったジャイアントタラテクトであれば、

比較的簡単に討伐が出来た。

まして今はカナデと二人。

今の俺たちならば勝てるのではないだろうか。


そう思い、俺は大樹の陰から顔を出す。

どうやらアークタラテクトは俺たちを見失ったようで、

森の中を木々をなぎ倒しながら右往左往している。


「グレイ!ダメだ!」


カナデが慌てて俺の身体を引き戻す。

その瞬間、森の奥でアークタラテクトの眼が光ったのが見えた。


「伏せて!!」


カナデはそのまま俺の身体を押しつぶす。

すると俺たちが隠れていた大樹を、

一筋の光が貫いた。


直後に巻き起こる大爆発。

光線に貫かれた大樹はそのままメキメキと音を立て倒れた。


「キシャアアアアアアアアア!!!」


アークタラテクトはそのままこちらへと迫る。

俺とカナデは再び走り始めた。




「すまん、油断した!」


俺は走りながらカナデに謝る。


「アークタラテクトは、強力な、魔法を放つ蜘蛛だ!魔導士の上級魔法なんて遥かに凌駕する威力だよ!」


カナデが答える。


「どうする!?」


俺は尋ねた。


「ここまで来たら、戦うしかない!でも森の中は分が悪すぎる!このまま宝物庫の方へ向かおう!」


「分かった!」


カナデは駆ける速度を上げ、

俺もそれに付いて行く。


すぐ後ろではアークタラテクトが凶悪な口を開け、

俺たちに迫る。


繰り出される光線と、

巨大な身体を避けながら俺たちは森を掛けた。




そして―――



「ここだ!グレイ!」


カナデが叫ぶ。

一拍遅れてカナデに追いつくと、

そこは木が密集していない開けた土地だった。


広大な草原。

そして、それを横切るように石畳の道が敷かれている。

その先には巨大な建物が一つ。




「あれが宝物庫か」


俺の視線の先にあるは、

一見すると低いピラミッドの様な遺跡。

その形は三角ではなく、頂点が平らになっていた。


「来るよ!」


カナデが俺に声を掛ける。


振り返ると木々の間から、

アークタラテクトが顔を出した。


赤い目を怪しく光らせ、

明らかに俺たちを狙っているのが分かる。


改めて全形を見ると、

その巨大さを痛感する。


黒い巨体は甲冑を思わせるような重厚感。

伸びた八本脚は一本一本が鋭い武具のようだ。

そしてその中心には赤く光る六つの眼。


俺はアークタラテクトを前に、

戦闘態勢を取る。



「グレイ、前衛を任せても平気かい?」


カナデが言う。


「・・・任せろ」


俺が答えるとカナデは一足飛びで後退する。


「・・・先ほどの魔法と、やつの出す糸には気を付けて」


「ああ」


俺は右手に魔力を集中する。


アークタラテクトはしゅるしゅると音を出しながら、

俺を狙う。


対峙した緊張感は先ほどのキラーマンティスなどの比では無い。

こいつは強い。

俺の全身の細胞が警戒を呼び掛けていた。




先に動いたのはアークタラテクトだった。



「キシャアアアアアアアアア」


アークタラテクトは右脚の一本を上げ、

俺に向け振り下ろす。


体格差から防御が不可能だと確信した俺は、

それを横っ飛びで回避する。


アークタラテクトの脚はそのまま地面へと突き刺さる。


そのまま左、右と立て続けに脚が伸び、

俺を襲う。


そして四撃目。

アークタラテクトが脚を振り上げた瞬間、

俺は魔力を解き放つ。


<ファイアボール改>


圧縮された火炎の弾が、

アークタラテクトの顔面に直撃する。


だがアークタラテクトの身体はそのまま炎上することもなく、

身震い一つで炎をかき消した。



「キシャアアアアアアアアア!!」


炎弾はダメージを与えられず、

ただアークタラテクトを怒らせる結果となった。


アークタラテクトはその巨体で、

大きく中空に飛ぶと、

腹部を俺に向け、糸を放った。


細く見えにくい糸が高速で俺に迫る。


「ッ!」


俺はそれを避けるが、

反応が遅れたため右腕に糸が掠る。


すると右腕は刃物で切られたようにパックリと傷付いた。

傷口から鮮血が噴き出す。


「キシャアアアアアアアアア!!!!!」


地面に着地したアークタラテクトは、

伸ばした糸を操り、俺に追撃を放つ。


「くっ!」


俺はそれを回避する。

一本一本が鋭い刃物のような糸攻撃。

見えにくいうえに細いため、

非常に避けにくい。


反撃のタイミングが掴めぬまま回避に専念していると、

後方から援護が入った。



<風精霊の合奏曲>



幾本もの風の刃が、

俺を襲う糸を撃ち落とし、

引き裂いていく。


同時に俺の身体を薄い緑の光が包んだ。

全身に力が漲るのが分かる。


白魔法と同質の、

身体強化の魔法だ。


ありがたい。


カナデの援護に、

アークタラテクトが戸惑っている隙に、

俺は左手に魔力を集中する。



<死よ>



俺の魔力が大地に落ちると、

白い靄が生まれる。


今度も白靄は大きく辺りに広がると、

いくつもの小さな塊に分かれ、

動き出す。


生み出したのはゴブリンの群れだ。


「かかれっ!」


「グギャ」

「グギャギャ」

「ギャギャギャ」


白ゴブリンたちは、

ギャアギャアとアークタラテクトへとまとわりつく。


アークタラテクトが身体を震わせゴブリンたちを木っ端の如く弾き飛ばすが、

白ゴブリンたちは次から次へとアークタラテクトへ飛び掛かっていく。


「グレイ!合わせて!」


カナデが声を掛ける。

俺はその声に反応する様に右手に魔力を集束させると、

そのままアークタラテクトに向け魔法を放つ。



<ハイフレイムストリーム>

<風精霊の円舞曲>



俺の炎とカナデの風が合わさり、

巨大な炎の竜巻となる。


炎の竜巻はアークタラテクトを包むと、

更に大きく燃え上がった。


豪家は草原を焼きながら、

次第に集束し、細くなっていく。


並みの魔物なら亡骸すら残らないほどの火力だ。

だが―――



「キシャアアアアアアアアア!!!!」



消えかけた炎の渦から、

アークタラテクトが現れる。


その目は赤く点滅し、

明らかに激昂しているのが分かる。


派手に燃えはしたが、

ダメージはそれほど受けていない様子だ。


「くっ、まさか・・・これほどとは・・・」


カナデが言う。


俺も同意見だ。

Aクラス魔導士二人の魔法を同時に受けて無事とは。


「どうする・・・」


俺はカナデに言う。


「撤退だ。二人ではこいつに敵わない」


「逃げるって言っても・・・」


「宝物庫へ、入り口を閉じれば入ってはこれないはずだ」


そう言ってカナデは宝物庫の方を見る。

俺は首の振りだけでカナデに答えた。


「キシャアアアアアアアアア!!!!」


アークタラテクトが咆哮をあげ、

俺たちに向かってくる。


俺は右手に魔力を集束、圧縮し、

魔法を放つ。


<ライトニングボルト>


一筋の雷撃がアークタラテクトへと迫る。

雷撃が貫いたのは、

体部でも顔でもなく、

赤く光るアークタラテクトの瞳だった。


バシュウと雷撃が肉を焼く音がする。


「キュシャアアアアアアアアア!!!!」


それと同時にアークタラテクトは初めて、

苦痛に歪んだ叫びをあげる。


「今だ!!」


俺とカナデは宝物庫へと駆け出す。


宝物の熱い扉を開け、

その中へと身体を滑らせた。


後ろを見れば、

アークタラテクトが怒り狂いながら俺たちを探しているのが分かる。


「グレイ!早く!」


カナデが叫び、

俺が全力で扉を閉じる。



ズズン、

と低い音がして、

宝物庫の扉は閉じられた。


俺とカナデは肩で息をしながら、

呼吸を整える。


「・・・やばかった・・・」


カナデが言う。


「ああ・・」


俺は答える。


「・・・助かったよ。でも、これで君もお尋ね者になってしまった」


「・・・お尋ね者?」


俺は尋ねる。


「・・・ああ、蜘蛛の魔物は非常に執拗でね。自分を傷付けた相手をどこまでも追っていくと言われる」


「どこまでも・・・」


「あのアークタラテクト、とにかく強かった。それだけに、かなり執念深いだろうさ。・・・どこかで討伐しないと、永遠に追われ続けることになるよ」


カナデが言った。

俺はアークタラテクトの凶悪な牙を思い出し、

背中に冷たいものが走る。




「さて、そして・・・」


呼吸を整えたカナデが壁から離れる。


彼女は口元を動かし、

何か呪文を唱える。


なにを――――

そう尋ねようとした瞬間、

辺りの松明に一斉に日が灯った。


「ここがエルフの宝物庫さ」


カナデが言う。


しかし俺は目の前の光景に目を奪われ、

答える事が出来なかった。


白亜の宮殿。


まるで王族の城のように美しい造形の広間が、

そこには広がっていた。


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