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第167話 霧の襲撃


道が険しく馬車の通行が難しかったため、

俺とカナデは馬車を降り街道を歩く。

ここから宝物庫まではそう遠くないとカナデは言った。


街道には心地よい日差しが降り注ぎ、

美しい森の中を歩くのはなんとも心地よかった。



「時にグレイ。君とあの子はどういう関係なんだい?」


「あの子?」


「そう、エルフの里への道中で一緒になっただろ?」


「ああ、ロロの事か。」


「君の話によれば、彼女がもう一人の『箱』の開封者。・・・でもそれだけじゃないね?」


カナデの目がギラリと光る。


「いや、それは・・・」


「フフ、僕の目は節穴じゃない。君を見るロロちゃんの瞳・・・あれは恋する乙女の目さ」


「そういう恥ずかしい事を素で言うな」


「恥ずかしい?なぜだ。愛は素晴らしいものだよ」


「それはそうなんだが・・・」


詩人のカナデは、

どこか言葉選びが芝居がかったところがある。


「ほら、白状しなよ。お姉さんが優しく話を聞いてあげようじゃないか」


「止めろ、脇を突くな。誰がお姉さんだ」


「ほれほれ、言わないといつまでも続けるよ~」


カナデはそう言いながら、

俺を突き続ける。


俺は根負けし、

東の大陸での出来事をカナデに話すことになる。

必然的にアリシアの件についても話が及ぶ。








「・・・グレイ・・・」


話を聞き終わったカナデがため息を吐く。

その目に浮かぶのは憐み。


「・・・待て、聞いておいてそのリアクションは止めてくれ」


「いや、それもそうなんだけど・・・君は本当に・・・ハァ・・・・」


カナデが大げさにため息を吐く


「な、なんだよ・・・」


「察するにタイミングを完全に逃し、ロロちゃんに返事も出来ない。せめてアリシアさんに会って自分の想いを確かめようとしたが、それも出来ない。そんな感じだろ?」


「な、なぜそれを・・・」


「グレイ、一つ分かった事は君は魔術師としては優秀だが、恋愛面はポンコツと言う事だ」


「グッ!」


カナデの言葉が胸に突き刺さる。


「・・・うん、自分のためにも周りの為にも、この戦いが終わったら少し気持ちを整理したほうが良いよ。それに・・・」


カナデが考える素振りを見せる。


「それに?」


「これ以上、登場人物が増える前に、区切りをつけた方が良いんじゃないかな?グレイが誰かを好きになる事もあるだろ?」


そう言ってカナデは俺に笑顔を向ける。


「そう、か・・・そうだよな。ヒナタの事もあるしな」


彼女を助けた後は、

ヒナタとも話がしたい。

俺はそう考えていた。


ふと、

カナデの方を見ると、

何やら頬を膨らませて不機嫌そうにしていた。


「どうした?カナデ」


俺は彼女に尋ねる。


「・・・何でもないよ。君って本当に・・・」


「ん?」


「なんでもないったら」


その後、不自然に早歩きのカナデを追って俺は歩き続けた。



・・・

・・



「霧が・・・出て来たな・・・」


俺は呟く。

歩き始めて一時間ほど。

先ほどまでの陽光が嘘の様に陰っている。


「この街道には精霊魔法が掛けられているのさ。漂う霧は人間の街からエルフの里へ至る時に越える霧と同質のものだ」


カナデが答える。

あの霧か。

確かに同質の魔力を感じる。


「ここを突破するには予め手続きが必要なんだ。アカツキ様に頼んだから、僕と君には特別な魔力が付与してある。それが通行手形みたいなものだ」


「そうだったのか」


「うん、ほら。霧の出口が見えてきた」


カナデが指を差す。

その方向には確かに魔力の淀みの様なものが感じ取れた。

俺とカナデはそちらの方へ向かう。





「さぁ、ここを出たら宝物庫は目の前だ。『緑の箱』は奪われたがエルフの誇る最高の―――――」


「危ない!!」


俺はそう叫ぶと、カナデの身体を押し倒した。

同時に何かがカナデの顔があった部分をごうと風を切って通過する。


次の瞬間、エルフの里へ入った時と同じように、

霧が一気に晴れた。


「なっ!」


カナデが驚きの声を上げる。

霧が無くなった先には何匹もの魔物が集まっていたからだ。


蜘蛛の様な足と、

甲虫を思わせる甲殻。

そして手の先には蟷螂のような鎌。


気色の悪い昆虫型の魔物が、

見える範囲に五匹。


魔物は俺たちを見て、

シャーシャーと鳴き声を上げている。




「これはキラーマンティス・・・?」


カナデが呟く。


「どうやら霧の出口に巣くって狩りをしているようだな。賢い虫だ」


俺は呟く。


「そうか・・・神殿を守る魔導士たちが居なくなったから・・・魔物の数が増えているのか・・・」


カナデが言う。


「どうする?」


俺は尋ねた。


「駆逐しよう。放置してたら間違いなく被害が出る」


そう言ってカナデは険しい表情になる。

さきほどの霧に隠れた一撃。

俺がカナデを庇わなければ、

間違いなくカナデは負傷していた。


「それが良い」


俺はカナデに答え、

一歩前に出る。


俺たちが戦闘態勢に入ったことを察知し、

虫たちが更にけたたましい鳴き声を放つ。


「気を付けて、グレイ。キラーマンティスは硬くて魔法にも強い」


俺はカナデの言葉に首を振って答えた。


その瞬間、キラーマンティスの一頭が俺に鎌を振り下ろす。


「キシャアア!!」


俺は鎌を右手の籠手で受ける。

ガキンと金属同士がぶつかるような音がして、

俺の右手に痺れが走る。


「ハッ!」


<フレイムボム>


俺はキラーマンティスの身体に、

ゼロ距離から爆破の魔法を叩きこむ。


ドカンとキラーマンティスの身体が爆炎に包まれ、

そのまま二、三歩後退する。


「キシャアアアア!!!!」


怒りの声を上げるキラーマンティス。

だがよく見れば爆発のダメージはほとんど無い様子だ。


「・・・本当だな。硬い」


俺は呟く。

その時、後方でも別のキラーマンティスがカナデに襲い掛かっていた。


<シルフィ>


カナデの身体が薄い緑の光が纏う。

カナデはキラーマンティスの攻撃を回避し、

中距離に離脱。


そのまま次の魔法を放った。



<風精霊の三又槍>



カナデが魔力を解き放つと、

風が渦巻き形を成す。

風は鋭い三又の槍となり、

キラーマンティスの身体へと突き刺さった。


「キシャアアアア!!!」


怒りの咆哮をあげるキラーマンティス。


貫通性を持った風の刃。

それは爆発が効かないほど硬い甲殻を、

やすやすと切り裂いた。


「やるな」


俺は戦闘中に呟く。

さすがはAクラス魔導士だ。


「キシャアアアア!!」

「ギシャア、シャアア!!」


いつの間にか俺の前には二匹の別のキラーマンティス。

二匹は互いに一定の距離を置いて俺に的を絞らせない。

賢い魔物だ、連携のレベルが高い。


<フレイムボム>


俺は爆破魔法を今度はキラーマンティスたちの足元に向け放つ。

同時に自分は一足飛びで後退。


爆破の魔法により、

キラーマンティスたちの追撃が阻まれる。


俺と二匹の間には、わずかな距離。

これで魔法一発分の余白が生まれた。



俺は左手に魔力を集束する。



<死よ>




俺の魔力が大地に落ちると、

そこから白い靄が生まれる。

白い靄は渦巻き、

人の形を作っていく。


鎧に包まれたその姿は重騎士。

だがその肩口からは更に二本の腕が生える。

四本腕の騎士はそれぞれに剣を携え、

キラーマンティスたちの前に立ちふさがる。



こいつは死霊の騎士。



俺が踏破した南の大陸のダンジョン、

旧ハヴィラル城の主だ。



「いけ」



俺は左手の魔力を通じ、

死霊の騎士に命令を出す。



「ヴァアアアアア!!!!」



死霊の騎士は叫び声をあげ、

キラーマンティスたちへと剣を向けた。



これで目の前の二体はなんとかなるだろう。

そう思った瞬間、背後に気配を感じる。


「わっ!!」


俺が飛びのくのと同時に振り下ろされる鎌。

鎌はそのまま大地へと深く突き刺さる。


こいつは最初に俺が爆破した一体目。

いつの間に背後に回ったんだ。


カナデに向けた第一撃もさることながら、

こいつらは本当に気配を消した一撃が上手い。



そんな事を考えながら、

俺は両手をかざし、

魔力を集束、そしてそれらを融合する。



<黒炎>



俺の手から放たれた黒い炎は、

地面に鎌を突き刺したままのキラーマンティスに向かい、

そしてその全身を炎で包む。


「ギシャアアアアア!!!!」


キラーマンティスの苦痛の悲鳴。


無駄だ。

時の炎はどれだけ苦しもうともお前を焼き尽くす。


俺が振り返ると、

カナデは既に一体のキラーマンティスを仕留め、

二体目と交戦していた。


どうやらカナデは回避主体の中距離カウンター型。

隙を見てはキラーマンティスと距離を置き、

魔法を放っている。



<風精霊の三重奏>



カナデの周囲に風が渦巻き、

それが暴風となりキラーマンティスに襲い掛かる。


暴風はキラーマンティスの巨体を吹き飛ばし、

そのまま近くの巨木へと叩き付けた。

キラーマンティスはそのまま動きを止める。


「ラストだ」


俺は生み出した死霊の騎士の方へ目を向ける。

死霊の騎士はキラーマンティス二頭を相手に剣を振るっている。


俺は右手に魔力を集束し、

それを圧縮した。


<ハイフレイムストリーム>


俺の右手から今度は赤く燃え上がる炎が生まれる。

豪火は戦闘を続ける死霊の騎士ごとキラーマンティスを包む。


生み出された炎の上級魔法を渦巻きながら、

天まで伸びる炎の渦となる。


「キシャアアアア!」

「キシャア!!!」


二頭は炎に焼き尽くされ、

その場で動きを止めた。



「・・・これで全部・・・か?」


俺は周囲を警戒し、伏兵が居ないかを確認する。

うん、どうやら平気なようだ。


俺は息を吐き、

カナデの方を見る。


するとカナデは、何か驚いたような顔でこちらを見ていた。


「どうした?」


俺は尋ねる。


「いや、改めて凄いなと思ったんだよ」


「凄い?」


「うん。君の戦い、初めて見たけど・・・レベルが違う」


カナデが言う。


「そうか?倒した数はほとんど変わらないだろ?」


俺は答える。


「いや、それは関係ないよ。君の戦闘技術、いったいどうしたら―――――」


そこまで言ってカナデの表情が変わる。


「どうした?」


俺は尋ねる。



「・・・精霊からの警告だ」


「警告?」


俺の言葉にカナデが頷く。




「もっと大きいのが来る」


そう言ってカナデは森の奥へと視線を向けた。


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