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第165話 古代精霊


「グレイ」


王樹にたどり着くと、

そこには既にカナデが待っていた。


「待たせたな」




俺はカナデに言う。


「いや、僕も今来たところさ。それじゃ行こう」


そう言ってカナデは王樹へと歩き出す。

俺は遅れぬよう、その後ろに付いて行った。




「お待ちしていました」


王樹に入ると、すぐにアカツキが出迎えてくれた。

どうやら事前に連絡が入っていたようだ。



「お久しぶりです、アカツキ様」


そう言ってカナデが頭を下げる。


「あ、ああ。カナデ、久しぶりだね。ど、どうぞこちらです!」


アカツキに若干の動揺が見られる。

心なしか顔が赤い。

どういうことだ。



俺が疑問に思っていると、

カナデが少し困ったような表情で、

俺に目配せをした。

だから、どういうことだよ。





「・・・すでに手紙は受け取っているが、改めて話を聞かせて欲しい」


アカツキに促されテーブルに座ると、

アカツキは早速と言った様子で切り出した。

先ほどまでの動揺が嘘の様だ。

さすがは次期国王と言ったところか。



「はい。件の廃墟を調査中に騎士姿の不審者を見つけました。またその夜、ワビの村に宿泊したところ、深夜に隣村に襲撃が」


「襲撃・・・。犯人は白蝶ですか?」



アカツキが尋ねる。

カナデは俺の方をチラと見た。


「・・・村を襲ったのは司教風の男でした。ですがその後、現れた一人の男。司教風の男に、白蝶と呼ばれていました」


「・・・では後から現れたその男が白蝶と言う事ですか?」


アカツキが尋ねる。


「ええ、恐らくは。しかし・・・」


「しかし?」


「それは俺の知っている男でした」



西の都ボルドーニュからの馬車で一緒になった、

気弱な僧侶。

ガウェイン・ホワイト。


港町ラスコで別れたはずの男が突然現れ、

そして司教風の男に白蝶と呼ばれていた。


「・・・貴重な白蝶の情報ですね。あとでじっくり教えてください。白蝶とは交戦になったのですか?」


アカツキが尋ねる。


「いえ。その前に別の人物と戦い、俺は既に倒れていました」


「なっ、グレイさんほどの魔導士がやられるとは。相手は一体・・・」


アカツキの言葉に俺は表情を曇らせる。


「アカツキ様、その相手はグレイのかつての仲間とのことです。彼女は洗脳魔法で操られている可能性があります」


「洗脳魔法・・・そんな非道な魔法を・・・」


アカツキは唸り声を上げる。

そんなアカツキに俺は言葉を続けた。



「俺の仲間、ヒナタは・・・『緑の箱』を開けた可能性があります」


俺は言った。


「そんなバカな!」


そこでアカツキが声を上げ、

立ち上がる。


勢いよく立ち上がったため、

椅子がガタンと揺れた。



「あの『箱』は発見以来、一度も開けられたことの無いエルフの秘宝ですよ!!それが開けられたなどと」


アカツキは震えている。


「・・・落ち着いてください、アカツキ様。我々は廃墟の様子を見に行って、更に本人とも交戦しました」


カナデが宥めるように言う。


「・・・で、ですがそれが『箱』を開けたなどと言う話には結びつくはずが・・・」


アカツキは未だに信じられないと言った様子だった。

それも無理はない。

『ゼメウスの箱』は伝説なのだ。

見つからない、開けられない、と言うのがこれまでの常識だった。


だから俺はアカツキが理解しやすい様、

俺の秘密を一つ明かすことにした。




「・・・俺は『ゼメウスの箱』を既に二つ発見し、うち一つを自分で開けています」




「・・・なっ・・・」


アカツキが絶句する。


「・・・グ、グレイ?」


今度はアカツキだけでなくカナデも驚いた様子だった。

それも当然、これは俺にとって自分の身を危険に晒すような暴露だ。


だがもう形振りを構っている余裕はあまりない。

この情報でアカツキが信頼し、

全面的に協力してくれるなら、

結果として安い買い物だ。


俺以外の誰かが箱を開けた以上、

『箱』を開けたと言う秘密は、

意味をなさない。


俺はそう思った。



「ぐ、グレイさんが・・・箱を?そ、そんな馬鹿な・・・」


アカツキは目を見開いて驚いている。


「そうです・・・俺は灰色の魔導士。西の大陸で『灰色の箱』を見つけ、それを開けました」


俺はカナデに話したのと同じように、

アカツキにも箱の話をする。

そしてその途中で、

ヒナタとの関係についても話すことになった。


長い説明になったが、

アカツキは途中から無言で俺の話を聞いていた。

長い説明になった。



・・・

・・


「にわかには信じられませんが・・・」


アカツキは唸るように言う。

カナデもうんうんと頷いている。

二人とも同じようなリアクションだったな。


「けど事実です。そしてやつらも『緑の箱』を開けた。これはまず間違いないと思います」


俺は答えた。


「その根拠は何だい?」


カナデが尋ねる。


「根拠は色々ある。ヒナタの放った緑の魔法、あれは恐らく重力に影響を与える魔法だ」


俺は考えていたことを口にした。


「重力?それは禁忌の魔法じゃないか!」


アカツキが言う。


「・・・ええ。七つあると言われる『ゼメウスの箱』には、それぞれ禁忌の魔法が封じられています。俺の魔法は時間、そして連れのロロは生命、そしてヒナタのは重力、だと」


「禁忌の魔法・・・そんな恐ろしいことが・・・」


アカツキはわなわなと震えている。


「緑の魔法を喰らった瞬間、とんでもない圧力で地面に叩き付けられました。それを喰らった騎士たちはその場で圧死した。そんな特徴のある禁忌の魔法は、重力魔法以外には今のところ考えられません」


俺は答えた。




「・・・アリシアさんがグレイさんを推した理由が今更ながらにわかりました」


アカツキが言う。


「ええ。こうなることを見越しての事でしょう。アリシアは本当に優秀な魔導士ですから」


俺は答える。


「しかし分からないのは・・・」


俺は言葉を続ける。


「ヒナタが何故、緑の箱を開封することが出来たのか、と言う事、です」


「なぜ、と言うのは?」


カナデが言う。


「今分かっている箱を開ける条件は二つ。一つは箱と同じ適性を持つこと。白の箱は白魔導士、と言った具合に。俺は灰色だから灰色の箱が開けられた。そしてもう一つは箱に選ばれる事。ここについては正直、よく分からない」


俺は答えた。


「そのヒナタさんと言う方はエルフの、緑の魔導士では無いのですか?」


アカツキが尋ねる。


「違う、と思います。彼女は俺に白魔導士だと伝えていた。それに銀髪ではあったが、エルフのような長耳じゃない」


俺は尋ねた。


「長耳じゃない、銀髪・・・?」


俺の言葉に、カナデが呟く。

何かを考えている顔。

よく見ればアカツキも同じような表情を浮かべている。


俺は話をしていてふと、

ヒナタに関するある事を思い出した。


「しかし、ヒナタは白魔導士にしては魔力が少なくて。ダンジョンの扉も開けられない程でした。そのくせ、よく分からない強力な回復魔法を使ってました」


俺は言った。


「・・・謎の強力な回復魔法・・・」


「アカツキ様・・・」


カナデとアカツキは互いに何かに思い至った様子であった。


「どうした?」


俺は尋ねる。




「グレイさん、これは推測に過ぎないのですが・・・恐らくヒナタさんは・・・ハーフエルフではないでしょうか」


「ハーフエルフ?」



俺は尋ねた。


「はい。彼らの見た目はエルフより人間に近く、耳も長くありません。ですがエルフよりも強大な魔力を宿していると言われています」


「エルフよりも強大な魔力・・・それは凄いですね」


「はい、しかし彼らは魔力を体外に放出する力が弱く、魔法を操るのが苦手なのです。ですがその分、特殊な精霊魔法にだけはとてつもない威力を発揮します。ヒナタさんの特徴に合致していませんか?」


アカツキが言う。


「確かにその通りです。だがヒナタはそんな事は一言も・・・」


「それは・・・ハーフエルフが今は絶滅した種族だからではないでしょうか」


「・・・ぜ、絶滅?」


「十数年ほど前さ。もともとハーフエルフは少数民族で、南の大陸の西部に村を作り暮らしていた。だがある日、賊に襲われ村ごと滅んだと言う。閉鎖的な環境がその時は仇となりました」


アカツキは答えた。

俺はそれを聞いて、

ヒナタが俺に話したことを思い出す。


「ヒナタの村は、白蝶に焼かれたと言っていました。だからあいつは白蝶を追って旅をしているのだと」


「おっしゃる通りです。白蝶はそのハーフエルフの虐殺をきっかけに名を上げ、Sクラス賞金首と呼ばれることになりました」


「白蝶は・・・なぜそんな事を・・・」


俺は尋ねる。


「不明です。ただ殺しを楽しんでいたとも、極度の差別主義者だったとも言われています。ですが最も有力な説はハーフエルフのみが使える特殊な精霊魔法を得ようとしたのではないかと」


「特殊な精霊魔法?」


アカツキが頷く。


「彼らは古代精霊の魔法を使う一族なのです」

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