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第160話 燃える村


真夜中。

どこかで泣き声が聞こえた気がした。

聞き覚えのある声だ。


俺は目を覚まし、

暗い部屋の中ベッドから身体を起こす。


きちんと目を覚ましたら、

泣き声は聞こえない。


夢だったのだろうか。

そう思った瞬間、



ズシン



地面が揺れた。


「なんだ!」


俺が声を上げると同時に、

部屋の扉が叩かれた。


「グレイ!起きて!」


カナデだ。


俺は扉を開け、

カナデを部屋に入れた。


「グレイ、今の揺れ・・・それに・・・精霊たちが・・・」


カナデの顔は、蒼白になっている。

いつもの余裕のあるカナデではない。

それだけ緊急事態なのだろうか。


「落ち着け、ゆっくり話してくれ」


俺が言うとカナデはハッとした表情を浮かべ、

深呼吸した。


「・・・精霊が悲鳴を上げている。次々とやられているようなんだ」


「それは先ほどの揺れと関係があるのか?」


俺の言葉にカナデが頷く。


「行こう」


俺とカナデは宿を飛び出した。




外には真夜中だと言うのに多くの人が溢れていた。

皆、一様に西の空を見つめている。


「これは・・・」


俺は思わず声を漏らす。

西の空が、赤く燃えていた。


「あれは隣村の方角じゃ!」

「助けに行かないと!」

「火の手はこちらまで来るぞ!それより逃げる準備だ」


村人たちはパニックになっているようだ。


俺とカナデは視線を合わせ、

同時に頷いた。


そして赤く染まる西の空に向け、

駆け出した。



<シルフィ>


走りながらカナデが魔法を唱える。

するとどうだろう、

一気に身体が軽くなり、

走るスピードが増した。


なるほど、これがカナデの速さの秘密か。

俺は納得してしまった。


「精霊の加護さ。さぁいそごう」


俺たちは風のように、

街道を駆けた。



・・・

・・


隣村に近付くと、

森が轟々と燃えているのが見えた。


「これは・・・ひどい・・・」


カナデが表情を歪ませる。


「一人でも多く助けるんだ」


俺はカナデに言う。

その言葉にカナデは頷き、

俺たちは村の中へと急いだ。



村の中は、阿鼻叫喚のパニック状態であった。

村人たちは火から逃れようと、村の出口へ殺到している。


「グレイ、あそこ!騎士が!」


カナデが声を上げる。

見れば騎士が村人に対し、

剣を振るっていた。


俺の心臓がドクンと跳ねる。

聖魔の騎士が、なぜあんなことを。


「止めないと!」


騎士の凶刃が村人に向けられる。


俺は咄嗟に右手に魔力を集束する。


<時――――>


<風精霊の行進曲>


俺が魔法を放とうとした瞬間、

カナデが人混みを抜け出し、

魔法を放った。


ゴウッと言う、

風の音と共に、

剣を振り下ろそうとしている騎士が吹き飛んだ。


「グレイ!あとは頼む!私は残された人たちの救助を!」


「分かってる!」


俺は時間魔法の発動を止め、

全身に白魔法を展開する。


同時に攻撃に気が付いた、

他の騎士たちが集まってくる。

放たれているのは明確な殺意。

初めから俺を敵として認識しているようだ。



「・・・お前たちは、聖魔の騎士か?」


俺は騎士たちに問う。

だが騎士たちはそれに反応すら示さず、

それぞれの武器を身構えた。


「チッ」


俺が舌打ちをすると、

騎士の一人が襲い掛かってきた。


速い。

一時とは言え、

聖魔騎士団に籍を置いていたからこそ分かる。

このスピードは並みの騎士を遥かに凌駕している。

下手をすれば騎士長たちに並ぶ早さかもしれない。


俺は騎士の剣撃を右腕の黒籠手で受ける。

ガキンと言う金属音と共に、

右手に圧が掛かる。


「・・・問答無用、って訳かよ。」


俺は右手に受けた剣を弾き飛ばすように腕を払った。

騎士と俺の身体が離れる。


<フレイムボム改>


小さな爆発が地面を這う様に騎士へと向かう。

騎士は一足飛びでそれを避けようとするが、

俺は魔力をコントロールし、

爆発の軌道を変える。


「喰らえっ!」


爆発は騎士を追う様に右に逸れ、

回避していた騎士を地面ごと爆発に包む。


それを見て、

周囲に騎士たちは一斉に俺に襲い掛かった。


俺は全身に満ちた白魔法に、

更に魔力を込める。


集中だ。


剣、槍、斧。

それぞれ獲物の違う騎士が俺に襲い掛かる。

俺は三人からの攻撃を回避し続けた。


耳元を槍が過ぎる。

剣先が喉を掠る。


だが俺には当たらない。


やがて斧を振り回す騎士の身体が流れた時、

俺は右手の黒籠手に白魔法を圧縮し、

思い切り殴りつけた。


鎧に包まれた騎士が吹き飛び、

民家の壁に叩き付けられる。


剣の騎士と槍の騎士は、

それを見て危険と判断したのか、

距離を取る。


俺がそれを追おうと一歩を踏み出した瞬間、

剣の騎士と槍の騎士はそれぞれ魔法を放った。

これもまた発動が速い。



<アイスストリーム>

<ライトニングボルト>


強大な冷気の波動と、

雷撃が俺目掛け放たれる。


「くっ!」


俺は右手に集束したままになっていた魔力を更に圧縮し、

別の魔法を同時に発動させる。



<黒炎>



時間の魔力を纏う炎魔法。

放たれた黒い炎は騎士たちの放った氷と、

雷の魔法を飲み込み相殺する。


黒い炎は消えない炎。

人も魔物も魔法すらも飲み込む、

不滅の魔法だ。


俺の黒い炎に動揺したのか、


騎士たちの間に動揺が見えた。


ここだ。

俺は間髪入れずに魔力を集束する。


<時よ>


俺の魔法の発動と同時に、

俺を除くすべての時間が停止する。

森を焼く炎も、

逃げ惑う人々も、

そして森を吹き抜ける風も動きを止めた。


俺は一瞬で距離を詰め、

二人の騎士に魔法を放つ。


<フレイムボム>

<フレイムボム>



―――――バキン。


俺が魔力を解いた瞬間、

いつもと同じ何かが割れる様な音が響く。


そして二人の騎士は、

同時に爆発に飲まれた。



「これで・・・終わりか・・・」


俺は周囲を警戒する。

襲い掛かってくる騎士の姿はない。


どうやらこれで打ち止めの様だ。

あとは火を消せばなんとかなるか。


そこでふと思いつく。

そうだ、騎士たちを確保しておけば何か情報を得られるかもしれない。

このままでも身動きは取れないだろうが、

みすみす逃がしても面倒だ。


何かで動きを拘束しておこう。

俺はそう思い振り返る。

倒れている騎士は4人。


俺が彼らに魔法を放つべく、

右手を掲げたその瞬間。


視界に薄緑色の光が走った。


「っ!」


俺は危険を感じ、

咄嗟に身を投げ出した。


緑の光は俺の立っていた地面に着弾すると、

そのまま大地を割った。


「なんだ!?」


俺は訳が分からずに叫ぶ。


すると今度は別方向から、

四つ筋の緑の光が降り注ぐ。


だがその光は俺では無く、

倒れている騎士たちへと向かっていた。


緑の光が騎士たちの身体に触れた瞬間。


彼らの身体は何かに押しつぶされるように、

地面にめり込み、そして四散した。



「うっ・・・」



俺はその光景から思わず目を背ける。

騎士たちはまだ息があったが、

一瞬で惨たらしく命を奪われた。


一体誰が。


俺は緑の魔力が放たれた方向を見つめる。

すると森の奥から、

二人の人物が歩いて来る。


そして俺はそのうちの一人の顔を見て、

驚愕することになる。


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